第9話「39000匹」

 あんず【一人でやってなさい、私達はパスだわ】


 夜鈴【集まってくれる人だけでいい】


 ◆


 そんなわけで噴水広場に集まることになった。咲、三ツ矢、みこと、戦空、夜鈴、マリー、ミュウ、アレキサンダー。合計8人男3人女5人の若干アンバランスなチームとなった。


「まず自己紹介ね私夜鈴、戦空、三ツ矢、みことでギルド四重奏ってのをやってるわ」

「私はマリー、こっちがミュウとアレキサンダーで、ルネサンスってギルドをやってます」


「私は咲です、今は一人で。ギルドはないです」


 夜鈴が作戦の指揮を執る、こういう場での指揮は慣れてるようだった。


「うっぴーを一人1分で倒すとして、8人で1分40ゴールド。40ゴールド×60分で1時間で2400ゴールド。5時間で12000ゴールド稼ぐわよ」


 四重奏のリーダーである三ツ矢が指揮をとる

「皆5時間頑張れば終わる作業だ、決して不可能な数字じゃない、きばって行くぞ!」


「おー!!」っと8人全員が声を荒げた。

 そこから先はひたすら【うっぴー達が多すぎて通れない】所のうっぴー達を片っ端から狩って回った。


 一人1分でうっぴーを一匹倒す計算なので最初こそ苦戦はしたものの、データでありパターンであるモンスターを倒すのは慣れれば楽だった。

 

 他のプレイヤー達は

 (何やってるんだろう)

 (倒しても無駄なのに)

 と、言う目で見守っていた。


 そして5時間が経過。

 経験値は美味しいとまでは言えないが、そこそこなレベルまで上がった。


 咲はレベル5まで上がった、一時間やって1レベル上がった計算だが上がらないよりかはましだ。

 おかげでうっぴーを倒す効率が良くなった。

 早速8人は12000ゴールドを持って村人の方へ行く。

 次はじゃんけんだ、だが失敗は許されない。


 何故なら。また、5時間ゴールド集めをする羽目になるからだ。


「誰がじゃんけんをする?」


 夜鈴が視察するような目で7人を見渡す。


「普通ならじゃんけんが強い奴がやることになるが…最初だし一番初めに見つけた奴がやるべきじゃないか?」


 と三ツ矢が提案する。すると7人の目は全員咲に集まった。


「え!? あ……あたし?」


 渋々やる羽目になる咲


「それじゃあ行くぞじゃんけん…ぽん」


 結果は、村人がグー、咲はチョキ。咲達の負けである。


「うえー! うっそー!」


「うわっはっはっは! 素晴らしく運が無いな君は!これは普通のじゃんけんなのに!!」


 大笑いで笑う村人、儲かった儲かったと嬉しんでいるようである。


「しょ、しょうがない。また5時間頑張るわよ…!」


 夜鈴が皆に激励を飛ばす。「おー!」っと若干力ない声が響く。(皆、ごめん……!)っと思う咲であった。


 5時間かけて12000ゴールドを集めた8人、しかしじゃんけんで負けてまた5時間1万ゴールドを集める羽目になる。そして今度こその思い出じゃんけんをする。


「じゃんけんポン!」


 村人はまたもやグー、咲はパーを出す。


「やったー!」


 8人は喜び勇んだ、また5時間かけて1万ゴールドを集めなくていいからだ。


「ひっひっひ……。しっかり儲けさせてもらいましたよ、私は悪人じゃないでは教えましょう」


【うっぴー達が多すぎて通れない】場所を通る方法。


 それは…


◆掲示板◆


サキ【8192分の1の確率で現れる珍しい喋るうっぴーが居るらしい、そいつを仲間にしてイフリートに話しかけるとバトルになる。勝てたらモンスターよけの香水『清めの香水』を手に入れる事が出来る、それで先に進めます】


あんず【本当なのそれ?】


ダリウス【ガセネタじゃないんだろうな?】


フー【そんなの無理だよ~できっこないよ~】



 それから先の。喋るうっぴーの噂は瞬く間にプレイヤーの間で広まった。


「喋るうっぴーなんて本当にいるのかよ」


「俺らが会ったうっぴーの中には居なかったぞ」


「ピーピーとしか喋らねえぞ」


「きっとガセネタだぜ」


「だけど一万ゴールド払って得た情報だって聞くぜ」


「げ!マジかよ。その1万ゴールドのクエスト達成してないと喋るうっぴーが出ないとかじゃないだろうな?」


「さあそれはわからねえ」


「ちくしょう折角冒険が始まったのに始まりの街から出られねえんじゃ話にならねえ!俺はやるぞやってやる!」


 こうしてプレイヤー達全員によるうっぴー狩りが始まった。


 咲は自分を振るい立たせる。


「ようし!やってやるわお姉ちゃんの助言が無くってもやってやる! 皆! やろう!」


 8人は円陣を組み「おー!」っと雄たけびを上げた。


 そこから先は。

 5時間や10時間どころの話ではなかった。


 本気で地獄だった。


 1週間が過ぎ、2週間が過ぎ、3週間が過ぎた。


 未だ喋るうっぴーを発見できる者は居ず。


 ただただ、うっぴーを狩るだけの日々が続いた。


 雨の日も風の日も、天候が敵だった、猛暑になったりもした。


 次第にあきらめる人が続出し。

 ゲーム自体をやめる人も少なくなかった。


 唯一の楽しみと言えば始まりの街ルミネの格闘城での大会が大いににぎわっていたくらいだった。


 サブクエストも豊富にあったのでそちらを進める、または、遊ぶ人が多かった。


 誰もメインクエストをやろうとも思わなくなっていた。


 清々しいほどの『無理ゲー』賞金1億円の欲しさにメインクエストをやる人は居たが喋るうっぴーの出なささに「本当に喋るうっぴーはでるのか?」っと愚痴をこぼす人たちも出始めた。


「本当は居ないんじゃ…」

 とう思う人も出始めた。


 しかし咲は信じた。


 自分の姉が作ったゲームだ、きっと面白いに違いない。

 そう信じて、うっぴーを狩り続けた。

 1匹倒し10匹倒し100匹倒し1000匹倒し10000匹倒し長い月日が経った、その間姫は無言を決め込んだ。


 20000匹倒し30000匹倒し1ヶ月が経過した。プレイ時間は350時間を超えている。それでも…咲は自分の姉を信じ続けた。

 

 39000匹を超えたその時!

 遂に現れたのだ!喋るうっぴーが!


「こんにちわ~! 麗しのお嬢さん! 今日も天気が良いですネーイ!」


「で……! でた! どうすればいいのコレ!?」


 咲以外の七人が半ば作業や使命でうっぴーを狩っていた所での希望の声、思考さえ止まる作業の中で7人は飛び出す。


「つ…捕まえろー!!!!」


 うっぴーはロープでぐるぐる巻きにして逃げないように後ろの木にくくり付けた。


「は…離すデーッス! 動物虐待デーッス警察を呼びますよ!」


どうやっても瞳は漆黒の闇を貫きとしているきもかわいい系モンスターうっぴー。


 このうっぴーを仲間にして、イフリートに話しかけるとバトルになり。

 勝てたらモンスターよけの香水『清めの香水』を手に入れる事が出来るらしい。

 8人は集まって喋るうっぴーを見下ろす。

 三ツ矢が早速要件を言う。


「単刀直入に言う! 俺達の仲間になれ!」


「嫌でーっす! 成人したうっぴー一族は! 人目に触れたらまずそいつをご主人だと思えと言われてまーっす!」


「つまり一番最初に見つけた、咲になら。仲間になると……?」


「まあそうなりマーっす」


「成人したうっぴーは喋れるようになるのか」


「そうでーっす」


「成人と言うのはどれぐらいだ、レベルはいくつだ」


「10デーッスていうか何で質問攻めするんですかはなしてくださーい」


「村人達の情報が少なすぎるからな、手に入る情報は多いいほうがいい」


 村人は一度喋ると一定以上の会話はしない。

 しかしこのうっぴーは違う、質問したら柔軟に質問し返してくる、まるで生きてるようだ。

 夜鈴が、これまた頭を働かせて思考を巡らせる。


「人工AIでも入ってるのかしら? 確かにレアね」


 咲は知らない言葉が出て来たから質問した。


「人工AIって?」


「人工的にコンピュータ上などで人間と同様の知能を実現させようという試み、或いはそのための一連の基礎技術を指す言葉よ」


「自分で考え喋るモンスターか、確かにレアだ」


 咲がクタクタになりながら言う


「でも、一ヵ月かかってやっと見つけたのがコレって。これで話が進まなかったら姉の奴を殺してやる……」


 咲的に言えば冗談半分で言った言葉だが、半ば本気で殺してやりたいほど憎んだと言う意味だ。


 これも姉を信じたからこそできた技だが、それにしてもプレイ時間が350時間はあまりに大きすぎた。


「何をわけのわからない事をしゃべっているのですかーとにかく離しなさーい! 逃げないから!」


「えっと、私の言う事だったら聞くんだったよね、だったら一緒にイフリートの所まで行きましょう」


「わかりましたでーす」


 みことと三ツ矢が交互に話す


「やけにあっさり了解するわね」


「主人には忠実って事なんじゃないかな?」


 そんなこんなで。イフリートの居る所まで8人は行くことになった。


 イフリートの居る所までやって来たら。うっぴーが自動でしゃべり出した。


「やいやい! 悪さをするイフリートめ! この暑さを何とかしろ! 仲間達がへばってしまっている! 貴様を倒して、この暑さを何とかする!!」


「ヨカロウ。我を倒せたらこの場から立ち去ってやろうではないか。フハハハハハハ!」


 戦空が戦闘の体制をとり構える。


「やっと本当の戦闘か、ウチわくわくしてきたぞ!」


 夜鈴は戦空を援護する形で注意を促す


「気を付けて、野生で戦えたイフリートより数段HPが上がってる」


 三ツ矢は剣を抜く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る