第7話「うっぴー達が多すぎて」

 第7話 うっぴー達が多すぎて


 ◆


『一番最初にゲームをクリアしたプレイヤーには賞金として神道社から1億円をプレゼントする!』


 場は静まり返っていたが更に静まり返ってしまった、群衆の、モブ達の目が、瞳孔が見開き、鳥肌が立ち、口を無意識に開ける。

「え?」


「うそ……」


「一億円……!? 何で!?」


「遊べるだけじゃなく賞金ももらえるの!?」


 ざわざわと群衆が騒ぎ出した、当然である、ただの遊びだと思っていたら運営側が本気の賞金額を提示してきたからだ。


『そのため神道社は!EMOは!無理ゲーを更に無理ゲーにした!達成率0.001%!10万人に一人くらいだ!限りなく0に近いが決して不可能ではない! そんなプレイ難易度だ! 我々紅の夜総団はこのEMOをクリアした! 故にこのゲームはクリア不可能ではない事を断言する! クリア出来ないゲームほどつまらないものはないからな! そのクリアの為に三日ほどメインクエストの発表が遅れてしまった! 申し訳ないと思ってる! その事をここに謝罪します!』


 咲は思った


(え…うそ…私に色々教えながらそんな事やってたの!?)


『運営からのお願いだ! 何年かかってもいい必ずこのゲームをクリアしてくれ! ではここからはバーチャルアイドルくるみちゃんの歌と踊りを堪能したあと! 一個目のスタンプの場所を発表をします!!』


 場は歌と踊りを堪能するどころではなかった、アイドルはゲームクリエイターが用意した無名の新人くるみちゃんの新曲、いきなりの発表に場は騒然となった。


『みんなーみんなのアイドルくるみちゃんだよー!これからよろしくねー』


 曲が流れる、天使のような歌声が聞こえる。歌も良い、踊りも良い、質そのものは良かった、だが観客達はそれどころではなかった、最強ギルド『紅の夜総団』が三日遅れてゲームをクリアしたこと。


 クリア報酬リアル1億円、無理ゲーが更に無理ゲーになった事。何よりスタンプの最初の場所を教えてくれないいらだちにプレイヤー達はそれどころではなかった。


「ふざけんなー速く教えろー!」


「歌なんて必要ねーんだよ!」


「速くクエスト場所を教えろー!」


 歌と曲が流れている中突然誰かが罵声を浴びせる、それに続くかのように罵声の波が大きくなった。


アイドルであるはずのくるみも途端の状況判断が出来ず戸惑っている、経験不足か、初めての舞台だったからなのか、登場するタイミングが最悪だったからなのか。


 くるみは歌うのをやめておどおどしてしまう、致命的な失敗だ。


『はわわわ! はわわわ!』


 誰も楽しんで曲を踊りを楽しむ余裕がない、この場でも凛々しく演技を全う出来れば一流のプロなのだろうがアイドルくるみは完全に未熟。


 運営側が発表の前に歌と踊りを披露すればまだ余裕があったかもしれないが、くるみが遅れたため、止むおえず踊りなしで場を速く沈静する必要があったのだ。完全なアウェイ感の中、曲だけが無慈悲に流れ続ける。


『ふ……ふえええ……うええええええん!』


 マイク越しにくるみは泣き出してしまった。こんな大事な場所で自分の歌と踊りが必要とされてないと思うと悔しくて情けなくて緊張も相まって目がうるんでしまったのだ。そのままくるみは走ってステージを出ていってしまった。


 曲が無慈悲に流れつ続ける中、罵声が同じ音量ほどで相殺されている。そんな中曲が止まる、空間は罵声だけになりこの場を収める為に天上院姫が再びステージに立つ、ひょこっと現れて(え~この中で司会をやれと?)っと思いながらそろそろと足軽に出てくる。


『えーあーううん! わかったわかったじゃあ皆さんが知りたがっている第一クエストの場所を教えましょう、その場所へ行ってクエストを受けてくれ、第一ステージは…』


 姫が息を吐き、また大きく吸う。すーはーっと吸う。


『第一ステージは雲の王国! ピュリアだ!』


『よーいスタート!』


 メインクエストが開始された、参加者は運営からスタンプを押すためのカードを手渡される。


 が開幕ダッシュという形で参加者達が怒涛のように走り出す。さながら本当にマラソンのスタートのようだった。うおおおお!という轟音の中、足早に参加者達が走る。


「俺が先だ!」


「いいや俺が先だ!」


「押さないでください!」


「さー社長の奴大博打をやったぞー」


 紅の夜総団の唯一の男性、紅現夢がそう口走った。

「明日の新聞に完全に乗るな」


 夜幻遮那がぼそっと口ずさむ。ハプニングはあったがやっとメインクエストがスタートした、姫はにっこりとして腕を高々と上げて宣言する。


『さあ冒険者達よ! 始まりの街から飛び立つがいい!!』


 まるで大航海時代が始まったんじゃないのか? っと思うほどの熱狂の中、プレイヤー達は新しく解放されたメインクエストを始めるべく人の波が出来ていた。


 まさにマラソンがスタートしたようなそんな風景だ。人々は係員からスタンプを集めるためのスタンプカードを貰い、そのスタンプカードに出される指針を目標に進む、指針とは一個目のスタンプがある雲の王国ピュリアへ向かって。まるでラ〇ュタの飛行石の光のごとく光が発射されているのだ、蒼白いその光は何とも神々しく光り輝いている。


 何十何百の蒼白い光が天空を刺す、あの光の向こうに雲の王国ピュリアがある、だがそのピュリアにつくのも恐らく容易ではない、何故ならこのゲームはあの『無理ゲー』EMOなのだから。勢いよく走り始めた人の波は急に止まった、何故なら前方に大量のモンスターが現れ道を塞いでいるからだ、横道の林に入ろうと思ってもバリアような壁が行く手を阻み進めない。ここは一本道なのだ、だが何百と居る人間に負けず劣らずの数でモンスター【うっぴー】が居るのだ。


 2頭身の身長、瞳はどす黒い光のない瞳で何故かいつもにっこりと歯をだして笑っている、そして紳士服を身にまとっている。キモイという言葉が一番お似合いだが若い女性からは「きもかわいい」と評判のマニアの間で人気のモンスターである、ことEMOではある種のマスコット的な立ち位置でゲームに何度も出てくる。


 大勢の人が広場から塵じりになる中、咲は人並みの全く逆方向の、運営の方へ歩いて行った。まず自分の姉に状況説明を頼もうと思ったからだ、何よりはぐれるわけにはいかない。一緒に冒険しようと約束したのだからこのゲーム内では二人は一緒だ。


「おねーちゃーん」


「おおどうした我が可愛い妹よ」


「えっと……これどうなってるの?」


「見ての通りメインイベントが始まったんじゃよ、まあ私達にとってはゲームクリアし終わってひとまずひと段落って感じなんだがな、これから咲との冒険もあるんだそれを思うとやっぱり始まりだな」


「なんかあっちのほう最初は思いっきり走り出したのに今は混んでるよ?」


 まるで満員電車に乗り込む人達のように前に進みたくても進めない状態になっている。


 進む先は一本道、だがそこをモンスター【うっぴー】が邪魔している、会話ボタンを押すと。


【うっぴー達が多すぎて通れない】【うっぴー達が多すぎて通れない】【うっぴー達が多すぎて通れない】


 っと同じ事を繰り返すばかり、これでは先に進めない。男が一人うっぴーに攻撃を仕掛ける。


 うっぴーはポリゴン片になって砕け散ったが後方から新たにうっぴーが増えた。1匹倒せば1匹増え、10匹倒せば10匹増えた、これではキリがない。姫が助言をするように咲に言う


「そうだ、これからは困ったときは私じゃなくてEMO総合掲示板に質問を投げかけるのが良いと思うぞ、ほら私に聞くとすぐ答えが帰ってきて面白くないと思うからさ」


「まーお姉ちゃんはゲームクリアしてるんだから質問すればすぐ答えがわかるよね」


 そういって姫と咲はステータス画面から総合掲示板を開く、早速多すぎる情報交換が行きかっていて状況はカオスだ。

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