第2話「図鑑」■

 第2話 図鑑


 ◆


 そうしていく内に「じゃあね~」「おお~」と時間だけが過ぎて行った。


 手を振り互いの別れを惜しみながら。おじさんの影は遠くなって行った。 と、そこへ……。


「楽しんでるようじゃな」


「わ! びっくりした……ひょっとしてお姉ちゃん」


「そうじゃそうじゃ」


 現れたのは同じ人型のアバターをした姉だった、ナビとかではなく、どうやらもう一人アバターを手に入れて最初から姉はゲームをスタートしたらしい。


 姉のキャラクター名はヒメ、姉妹そろって安直なネームである。


「どうじゃ? この世界は?」


「ん~とっても綺麗な世界ね、とても人が作ったものとは思えない」


「じゃろそうじゃろ、一から全部作ったんじゃ、この世界が愛おしくさえある」


「ねえ、お姉ちゃんはこの世界の事。全部知ってるんでしょ?」


「うん、知らなきゃ問題があるからな、いち運営として、いち作り手として、知らなきゃいけない事は全部知っとる」


「じゃあ、この先何が待ち受けているのかとか。裏ダンジョンとかも全部知ってるんでしょ?」


「うん、知ってる」


「うわ……なんかすごい不公平を見た」


「まー妹様が楽しんでくれたらそれでいい、ゲームは楽しんでくれたユーザーの為にあるんじゃ、んでダンジョン攻略とかしに行くのか?」


「ん~私はダンジョン攻略とか正直飽きちゃったんだよね~だからバトル以外での楽しみ方を見つけたい」


「ん、いいんじゃないかそう言う楽しみ方もある、好きなように遊ぶといいそれがオンラインゲームの楽しみ方なんじゃからな、まあ、私としては折角準備やら用意やらしてスタンバッってる魔物たちとのご対面が遠のくのは観ていて辛いものはあるんじゃがのう」


「まあ、長くゆったりオンラインゲームをやってればいつかは会えるよ」


「だと良いんじゃがのう、で、これからどうする?」


「まずは宿屋を確保してそれから。街を散歩かな」


「うむ、好きにすると良い。そのうち交流なんかも出来ると、楽しくなるぞ」


「うん」


 こうして一度王国にまた戻り宿を取ることにした私達姉妹であった。VRMMORPG『エレメンタルマスター』の異世界喫茶店でお茶をして適当にだべる天上院咲と天上院姫だった。


「お主さー……」


「ん~?」


「ジョブとか何にするつもりじゃ?」


「ジョブ?」


「まー簡単に言うと職業の事なんじゃが」


「職業か……無職で」


 にこやかな表情で言う咲、あららと肩の荷を下ろす天上院姫。


「現在進行形で学生のわらわ達が言うのも何だが職業くらい決めとけよ~」


「ん~じゃあ適当に剣士とか?」


「あ、で、思ったんじゃが咲はゲームだと属性ものとか結構好きじゃろ」


「好きね、他のゲームの話だけど、それにその前回のゲームで遊んでたせいでマンネリ化して飽きちゃったのよ、だから今回はそう言うバトル物はやめとこうかな~って思ったわけ」


「そうなんじゃがこのエレメンタルマスターは遊んだこと無いじゃろ?」


「無いわね」


「じゃから初級魔法だけ覚えて適当にダンジョンとかを冒険する魔法剣士なんてどうじゃろうと思うわけですよ私は」


「出来るの?」


「出来る。割と自由度高いからな~このゲームは……あーあと、咲にオススメするのはモンスターとか道具とかを収集するマニアじゃ、カメラマンでもいい」

「マニア?」


「戦うのは、やだ。でも冒険はしたい、世界は一応見ておきたい、わらわ的には、できれば長く遊んでもらいたい。だったらコレクター図鑑とかモンスター図鑑のコンプリートをしてみると言うのをオススメしておくのじゃ~」


「ほうほう、コレクター図鑑」


「コレクター図鑑とモンスター図鑑はちょうど合計100種類モンスターだったら100匹生息しておる、魔法剣士をやりながらカメラを片手にそのモンスターの写真を撮って行ってコンプリートすると言う遊びじゃ、どうじゃこのゲームではこのような遊びも出来るんじゃぞ」


「なんだかいいわね、バトルには飽き飽きしてたし、図鑑のコンプリートが目標か…うんいいね、面白そう」

「じゃあ決まりじゃな」


「うん」


「目標! 図鑑のコンプリート!!」


「一応言っておくとそれも大変じゃぞ、あれとかそれとかこれとか」


「何を言ってるのかはさっぱりだけどお姉ちゃんと一緒だったら大丈夫よ、いい暇つぶしになるだろうし、大事なのはお姉ちゃんとこのゲームを楽しむ事なんだから戦う以外だったらなんだっていいわ」


「おお、おおお……わが妹よ! 心まで可愛い我が妹よ!!」


「ちょっと! くっつこうとするのはやめてよね!私ノーマルなんだから!」


「ノーマルでもいい! 叶わない恋でもいい! それでもどうか妹よ! 抱きしめさせてくれ!!」


「却下!」


「あうう……」


 そんなわけでどういうわけで? こんなわけで、目標が一つ出来た、それは図鑑のコンップリート! まだ見ぬレアアイテムや未知のモンスターがどんなドラマを見せてくれるのか咲は今からウキウキと心踊らせるのだった。


「必殺技って、私戦闘とか好きじゃないし……」


「まーまー知っておいて損は無いからさー」


 秘奥義とは、VRMMOゲーム『エレメンタルマスター』シリーズに登場するある意味ロマンなシステムである。

 特定の条件下で発動し、発動するとキャラの全身グラのカットインが入り、中二病と思われるカッコいいセリフと派手なエフェクトともに敵を一掃してくれる。


 攻撃が発動している間はその攻撃を受けなければなければならない。プロレスラーが必ず相手の攻撃を受けなければならないみたいなもの。格闘技は倒し合いの追求、プロレスは魅せ合いの追求。だから相手の秘奥義に入るモーションをガードしなければ秘奥義が発動してしまう。


 自分が当てれば気持ちいいがやられたほうとしてはたまったものではない、そこはある種の戦闘の美学であろう。秘奥義は発動したら終わるまでその技は続く。そのクオリティはゲームがバージョンアップするごとにパワーアップしていった。


 そのクオリティは高く、秘奥義を集めた秘奥義集と言う動画を作る人が居てその秘奥義集単品で動画ランキングサイト上位に食い込む。『エレメンタルマスター』ではその豪快さ爽快さを初期のころから味わってもらうためレベル1の頃から各キャラクターは秘奥義を発動出来る。


 ちなみに、秘奥義が発動中はモンスターは死なないし四散しない。世の中には連続攻撃を叩き込みコンボをしたい人間が居て皆で秘奥義をつなげてコンボを繋げる、などの遊びが楽しめるのだ。忍びの姿をしている姫は小刀を背中から抜き出す。


「じゃあまず私が、普通に殴りつけるだろ」


 バスンバスンとスライムを殴りつける、8、8、9とダメージがスライムの頭上にでて一匹目のスライムがポリゴン片になって砕け散る、続けて姫は次のスライムにターゲットを移す。


「これが普通の攻撃だ」


「うんうん」


「秘奥義は特定の条件下でしか発動しない」


「特定の条件って?」


「特定の必殺技を使うか…特定のセリフを叫ばなければ発動しない、叫んだらあとは自動的にモーションを発動してくれる」


◆◆◆


 豆知識0006

 名前◇図鑑のコンプリート

 分類◇天上院姫_セリフ_アイテム_2021年ゆめみじ18

 解説◇このセリフを書いた当時、100匹のモンスターを頑張って書いたのに。その後、全然使われなかったのは良い思い出。やはり行き当たりばったりで書くのが最速……。


 豆知識0007

 名前◇秘奥義

 分類◇セリフ_ゲーム_システム_2021年ゆめみじ18

 解説◇某テ〇ルズシリーズの影響を強く出した戦闘システム。特技、奥義、秘奥義と派手さが増していく設計だが。このEWOでは後に、結局スキルと奥義だけで上手く廻ってしまう事となる。

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