第68話 山と海の戦いの末に
シーヴァたちが砦町レードの山市から民間人の救出を済ませ、道なりに港町マシーマへと駆け下りつつゾンビやスケルトンを掃討して。
しかしキヨの上位魔法で蹴散らし駆けつけると、重傷を負う剣星の姿と、そこで泣きじゃくるへルートの姿を見た。
シーヴァやプチは『間に合わなかった』と悔やみ、キヨは『タズマはんが無事なら、まぁええ』と短絡的に、かつ戦闘の激化にこの先を危ぶんだ。
「剣星様の
「ご主人様、砦へ!」
早く早くとへルートが泣いていて、シーヴァたちは何があったのかをトットール男爵から聞いた。
山となった魔物の死骸と、山のようなドラゴンの死骸。
一対一で竜に勝ったという剣星の武勇を知って、シーヴァとプチは身を震わせた。
そんな中、キヨがゆっくりと
タズマではなくても、スピードを求めなければ動かすのは可能になっていたのだ。
しかし、誰かが運ぶという『最大戦力』は、今や……。
☆
ドラゴンと剣星の戦いの最後に海から現れた鉄砲魚は記録にない大きさではあったが、その攻撃を読めなかったのは屈辱…… と
しかし元から角刈りだったので変化はない。
普段は兜を装備しているので仲間にもわからなかった。
「しかしタズマ殿とトットール男爵には、これからより負担を掛けるなあ」
「そう考えるなら今までよりも多数の敵を撃退できるスキルを編み出してくださいっ」
砦町レードの来賓室に寝て、へルートにドツかれる剣星は一時的に意識不明となるも完全に回復し、しかし十秒ほどの苦悩の末に事態の深刻さを話していった。
「どうにもならんので白状するが、背中に攻撃を受けないという条件が『
「それって……?」
「身体が回復しても、もう
つまり、最高難度のスキルはそれに見合う条件のもと振るわれる、というコトなのだった。
剣斬天元を構成する条件は以下。
一、対象とするものは魔物化したもの
一、対象とするにはその魔物を知っていること、倒していること
一、あらかじめ知るにあたってはスキルも使用可能
一、発動時、強化魔法や強化系スキル、宝具の使用は不可
一、発動対象の上限は七万三千体
一、発動対象の半数をその『日』の内に討伐していること
一、発動対象を視界に捉えていること
一、その身に帯びる刃物は一つであること
一、その身の防具に『金属』を含まないこと
一、その『背中に攻撃を受けない』こと
一、その『振舞いは騎士として恥じないもの』であること
一、発動条件として『
一、発動条件として『数の上で不利』であること
一、発動条件として『九段坂 徹』自身であること
一、発動後、このスキルを振るった腕の機能を二週間封印する
……等、発動前後、このスキルを構成するに細かく組み上げられた事柄により、絶技とも呼ばれる剣星の攻撃はなされていた。
「一つ一つに意味があるんじゃが、もう使えない技だから公開しておくかの」
「これ…… 元から公開してても剣星様しか使えないんじゃ……」
「世の中は広い。この内容をどうこうして新たな技を持つ者も現れるやも知れんなぁ」
剣星たるスキルを構成する条件が崩れたため、という話は公国へも当然伝わり、『癒し手の空船』作戦へも影響があるかと思われた。
しかしまずは、今回の功労者でもある剣星の回復を図るために、男爵の招待でまた港町トレチの温泉を使わせてもらうことになった。
公国へも海沿いの温泉地の逗留は連絡済みだ。
次の
「ふいぃい。ええ湯加減じゃなあ」
「はいぃい…… まったくです。やっぱ、温泉っていいですねぇ」
ところが、なぜか『癒し手の空船』のチームはまだ解体されず、それどころか王家から特別な使者として大樹の里へと派遣されることとなる。
「あの…… これって、剣星様の代わりを大樹の里からスカウトする、ってことですよね?」
「当たりだ。こんな役立たずには、もうそろそろ引退してもらいたいんじゃろうて」
本人は大恥をかいた、などと
しかし、実利をとる公国の首脳陣が空気を読まずに動いて『剣星の代わりの最大戦力』を求めるのは当然だった。
さすがは大陸南の世界の警察とでも言うべきか。
「国を越えて、はるかに遠方ですからね。私は構いませんが…… 剣星様は、へルートさんに止められてます?」
「いや、それはないが…… ふむ。タズマ殿には、明かしておくか」
今回の怪我の後、へルートは剣星へと告白をした。
本人曰く、三度目の告白だった。
「明日をも
父でも師匠でもなく、男と女という立ち位置で、二人は結ばれた。
「86と29となると、歳の差としても前代未聞かの?」
「いえ、そんなことより、本人の気持ちが大切です」
タズマは普通の顔で、しかし内心としては複雑だ。
体術の訓練として仲間と一緒に運動をしてくれていたへルートには、何度か二人だけで話すこともあった。
その中で、へルートにはその心の内を聞かされていたので。
何だか、年上のはずのへルートを見守る親の感情を持っていたのだ。
「はあ…… 君の部隊、まるでハーレムだが、そのまま行くと内部分裂しないとは言い切れないね。剣星様の部下も女性ばかりだったが、今や残るのは私だけ」
「確かにまぁ…… でも、剣星様が、何かなさったのですか?」
「逆に、何もしてくれないの。私は、剣星様にフラれたのよ」
「……え?」
「過去に、もう十年くらい前だけどね……」
「……えええええ?」
「うん、まぁ、そうだよね…… 君くらいの年齢の頃から憧れていたから、私にしてみればどうしようもなかったの。まぁ、私の話はいいのよ。タズマ君、きみは誰かを選ぶ強さを持っていてね」
そんな風に、涙していた姿を見ていたから。
タズマもその仲間も、祝福の心で一杯だった。
「おめでとうございます」
「はっはっは。今までは鎧どころかファッションとしてのアクセサリーも防具扱いだったからのぅ。これからは、指輪も付けられる」
「そ、それって、つまり」
「うむ。儂にとって三度目の結婚じゃ。タズマ殿。式に招待したいと思うが、来てくれるかな?」
「はい、喜んで」
「そこは、いーともーって言うトコロじゃよ」
露天風呂にて、男性二人だけでそんな会話をしている頃。
男爵家の談話室では、新たな戦力の企画が公国から伝わっていた。
「つまり、航空部隊ですか」
「大魔法使いを運ぶ、というコンセプトですねぇ」
訓練生たちを主軸として、公国内部に元からある魔法科という部門を拡張、学生課を公国認定組織として設立し、もっと魔法使いを育てていこうというモノ。
剣星の事実上引退を受けて、魔法使いを育てていかねばならないという気風を大きく受けたのではあろうが、果たして……。
「公国でそういう動きは元からあったので?」
「まぁね。私としては、もっと弓兵へと着目してもらいたいものだが」
「この告知を見るに、貴族たちにもそう働きかけているようですし」
トットール男爵のもたらした『魔法科募集要項』とは、訓練生たちの徴用指示と、指導員としてキヨを『指名』したものだった。
「まだ、コレをタズマはんは見ておりんせんな?」
「ええ。まずは本人への通告が肝要ですので」
「はぁん。タズマはんと一緒でなくては、お話になりゃあしませんな。緊急時であれ、コトに緊急性はあらしませんし…… この提案は、受けられません」
「分かった。では、ソック伯爵を経由して公国へと返答してもらおう。訓練生たちは伯爵が身柄引き受け人となるからね、任せておこう」
「その伯爵はん。トットールはんの二つ名の?」
「ああ。
「ふぅん、へルートはん、この……」
「わかっていますよ。
「ほしたらまぁ…… けど……」
へルートの顔を見ながら、自分の肩に手を置く。
キヨが本気で考える時のクセだったが、しばらくしてその表情は決意を表した。
「姫さんの指示と言うにゃあ、なんやキナ臭い…… 待っておくんなんし。近いトコロに『黒幕』の気配があるやもです。ことはコト…… 剣星はんもタズマはんも交えて、この件はお話ししましょうやんなぁ」
キヨが感じた違和感は、今までボヤけていた国の指示が統一されてきたこと。
そして、この件での身柄引き受け人の名前『ソック伯爵』は、遊園会での不始末と疑惑がかかっている人物だ…… 色々とつながりつつあった糸が、ハッキリと見えてきた。
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