第57話 お掃除楽々 サラマンダー




「ここまで来ると、良く見えるね……」


「ええ、湖におるんは『スライム』ですね」


「ふにゃっ、森の中に残ってるのは『オオカミ』と『ガイコツ』!?」


「あと『羽蟲ハネムシ』です、ご主人様」



 町の通りの開けた場所に安全地帯を作成して、あの姉弟を置いてきた。

 護衛としてへルートさんとトットール男爵が付いているので過剰戦力だろう。


 俺たちは登山道を小型船ボートで進み、湖畔まで移動して、上位魔法による殲滅を図る。


 まだ異界溢れパンデミック余韻よいんが残っているため、正確な位置の確認は出来ない。

 また、森を痛め付けるような魔法は使えない。



「タズマはん、この場合の最適解はどないな魔法になるやろか?」


「うん、スライム、オオカミ、ガイコツ、ハネムシ…… タイプからすると、弱点属性で一番共通してるのは炎、次いで風かな。でも森を傷付けたくないから個別に狙いたい。精霊協力魔法エレメンタルマジック火蜥蜴サラマンダー踊り火蜂タッピングフォルボだと思う」


「大正解♡ あとで、一緒に湯浴みしましょうなぁ♡」


「ドサクサで抜け駆けするなッ」


「お風呂当番は私です!」


「じゃあ、あるじはウチと行水ね♡」



 小型船ボートの上で暴れないで欲しい……。

 登山道から高く浮かび上がって、集中。



「キヨ、よろしくね」


「信じておくんなんし♡」


「『支配者の祝福ブラッシングオブザルーラー』!」



 キヨの身体を銀色の光が包み、時々赤くまたたく。



「はぁあん…… タズマはんっ♡ あんたはんが選んだ魔法、とっくりご覧あれ。精霊協力魔法…… 【火蜥蜴サラマンダー】」



 キヨの周りに赤く光る粒が集まっていく。


 それは一気に膨らみ、ただし手のひらサイズのトカゲになって。

 合計三十ものそれらは、楽しそうにキヨの周りで跳ねていた。


 そしてキヨが指し示す森の、異形を見詰めた。


 ような、気がしたのだが、その魔法はゆるゆると進んで行く。

 そして手近な魔物から火を吹き炎を放ち、火花を放ちながらぶつかって、増えていく。


 そう、魔物を燃やし、またサラマンダーが呼ばれ…… 森を覆うのだ。



 しかし森の木々を燃やしはしないし、一体一体はとても可愛い、と思うのは、特殊ではないと思うけど……。



「早ぁ早ぁい、出だしが三十も居ると早いわぁ」


「うん、これならガイコツ以外は殲滅できるかな」


「あっ、ご主人様、サラマンダーが『骸骨手剣ボーンザリッパー』とぶつかります」



 湖畔に歩き出てきたガイコツがサラマンダーに掴みかかった…… 瞬間、そのナイフだらけの腕を溶かしてガイコツは燃え尽きた。



「ガイコツも問題ないのかいっ。火力強くね……?」


「嬉しそやものな、きっと張り切ってますわ♡」



 以前にキヨが見せてくれた精霊たち。

 その時より、やたら元気だった。



「あんまり、無理はさせないでね」


「分かります、ありゃあタズマはんに直に喚んでほしゅうてアピールしてるんやわ。イヤらしい。ああハネムシは一瞬で燃えて落ちる。これは次のサラマンダーを呼ぶ火力になりえませんね」



 そうなのかは俺には分からないので、とりあえず。



「キヨも無理しちゃダメだからね」


「心配、してくれはるん?」



 そう言いながら、小型船ボートの上でシッポの先を俺の手首に絡め、指先に沿わせて振ってくる。

 細かな鱗の感触に、キヨに対する愛おしさが増して、それを掴んだ。



「うん。目の前でムリさせるのは、仲間として、家族としてしたくないよ。でも、魔法は任せてばっかりで、ゴメンな……」



 軽く、シッポの先をひと撫でする。


 するとキヨが震えて、頬を上気させ気持ちよさそうに目を細めた。



「なんっの、こんなコト♡ 魔法だけと言わずに、わっちの胸に寄り掛かってのんびり寛いでおくれやす♡」



 そんな風におどけてくれるキヨに、申し訳ないと思う気持ちが湧き出てなんか落ち込んだ。



「ああっ、ご主人様あっ、元気を出してくださいっ」


「う、うん、ゴメン、ダイジョブ、だから谷間に挟むのやめて」



 スキンシップが当然になってきてるな…… ハグや頬へのキスが当たり前の風習になっていた。


 欧米化、としてもされる側からする側には行けてない。



マズいなぁ…… エッチなのは禁止ですよね?」



 俺は、誰に聞いたのだろうか。

 そんな当たり前のことを。



 森のあちこちから、火花が散っている。


 しかし、ここまでは順調、残っている問題は湖の中にいるスライムだろう。


 この連中が空気を読んで飛び出すとは思えない。


 自分たちに有利な水中で待ち構えているのだ。

 さすがは単細胞の塊、軟体動物の集合体とでも言うべきか?



「本能的ですからね。誘い出すかしないといけませんね」


「いや、直に出てきてもらうよ」



 こういう場合、安全だと思っている場所を失ったらパニックを起こすモノだ。


 当たり前の状態を、くつがえしてやろう。



「今度は、俺がやってみる。キヨ、トドメのためにサラマンダーを少しこっちに呼んでおいて」


「はいな、よしなに」



 この湖には、本来の色を取り戻して欲しい。

 だから、不純物を取り除く。

 直接それを行える存在といえば……。



「一度、地面に降りるね。さぁ……精霊協力魔法エレメンタルマジック水辺の妖精ウンディーネ…… 頼む、スライムを一匹残らず地上に押し出してくれ」


《パシャリ、パシャン、パシャパシャッ》



 俺が細工をしたので、普通じゃない魔力を持っていかれた。

 でも、ちゃんと来てくれたのが嬉しい。



 スライムは水のなかを泳げるが、水を操ることは出来ない。

 そして、ウンディーネは水を自在に操るコトが出来る。


 結果、湖面が膨らんだかと思うと黒く濁った水風船のような、半透明のそれが打ち上げられていく。



《ザバァッ、ボヨボヨボヨン》


「タズマはん、お見事ですわ」



 そしてキヨの指揮の下サラマンダーが貼り付いて、焼かれ、縮んでいくスライムたち。



《ジュアッ、ジリジリ……》



 水分を失いビー玉サイズまで縮み、更に焼かれるとスライムはひび割れて死ぬ。

 このビー玉サイズになっているだけではまだ死んでおらず、水分を補給するとまた元気なスライムになってしまうのだ。



「ええですよ、もっと寄越して」


「そうか、なら、ウンディーネ、またヨロシク」



 ……何か、水滴が落ちる音がして、いつも通りのはずの指示がおかしな結果をもたらした。




「ひい」


「ふっ…… 飛んだ?」


《ブァッ、ブァッババババッ》



 湖から、スライムが打ち上げ花火のように空を飛んだ。


 とはいえ、花火ではないから爆発はしない。

 着地に鈍く水音をたてるだけだ。

 近付く端から、サラマンダーが貼り付いて燃やして行くだけである。



《ドタッ、ボヨン、バチン、ボヨ、ボヨン》


「頻度を上げ過ぎたかな?」


「ちょっとばかり。せやけどもうサラマンダーは千近くおります。お任せあれ♡」


《ジュアッ、ジリジリ、ジュバァッ、パリン》



 次々と打ち上がるスライム。

 それに三体ずつ貼り付いて乾燥させるサラマンダー。


 サイクルは早く、スライムがパリパリと割れて死んでいった。



「なるほど、サラマンダーは半自動だからこうできるんだ」


「ウンディーネもそうですが、彼女らは細かな指定もせんと、中々上手くいかんのです。タズマはんは良いコントロールしてはりますね♡」



 ううん、割りとアバウトに『お願い』しただけなんだけど?



「……あんまり無理しないでね」



 ……また、どこかで水音を立てて、雫が落ちた、気がした。



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