第30話 やや行き過ぎた好意と来客はまとめて
「ズルい」
「ズルくない。ご主人様が、イケナイコトをしたから罰として……」
「だからって…… ご主人の身体中ベトベトにするなんて」
「わ、わぅ…… 腰回りは、避けたもの。一応」
「俺が全力で嫌がらなきゃやってたよね!?」
キスの嵐の後、夕食のお知らせに来たプチとシーヴァが口論をしていたが…… 俺のコトを無視しないで欲しい。
「まだ早いに決まってるから」
「そこは私だって耐えたのよ。目の前にしても『おあずけ』の心で」
「うん。エライ。よく止めた」
「被害者は俺だってば」
「ん、じゃあ、ボクとお風呂を先に済まそ。同じ『配下』であるボクとなら、オシオキの一環」
「いや一人で行くよ、食事が待ってるし」
「お風呂に出かけたご主人がボクを裏切って逃げようとしたの、忘れてないから」
「うっ……」
俺は軟禁二日目でだいたい回復していたから逃走をしたけれど、
「ウソつき……」
「あっ…… でも」
「
「ええっ? なら、でもっ、水着は着用してよ?」
「マリーアからも、慎みは失っちゃダメって言われてるから、仕方ない。これ以上は、ご主人が色々おっきくなってから……」
そんな
☆
甘やかされる軟禁生活は一週間。
俺は、なぜ『一週間』なのかを不思議に思っていた。
繰り返し『まだ休んでいろ』と言われれば、気にもなる。
そしてそれは『快復祝い 兼 御披露目』とお父様が言うお茶の時に分かった。
「なんて?」
「ですから、この建物はタズマ様の執務用ですわ♡」
新しい都市を作るべく計画を練った図面に見慣れぬ建物が追記され、それが突貫工事ですでに出来上がっているという。
その建物が俺のモノだと、いきなり宣言されても。
七日目の夕食の席。
家族揃っての食事はもう何度も繰り返したが、食事を終えてのお茶を飲む段階で、誕生日以外で俺へと『乾杯』されたのは初めてだ。
「我らが可愛い子供に乾杯しよう」
「いいや、思い付きを抱え込み過ぎて、まったく可愛くない。頼ることを知らない『無茶な弟』に乾杯だよ」
「そうだな、お前ほどに手を抜いてとは言わないが、気楽に話して欲しい『考え過ぎな弟』だな」
「うん、負担ばっかりかけてくる兄さんよりは『配慮ある弟』だと思うけど、魔法の才能を見せた頃から『頼もしい弟』に変わったわね」
「うんうん、兄妹揃って
「「「乾杯」」」
「……乾杯、ううう、恥ずかしいなぁ、もう」
そして、都市開発はスタートしており、その後も皆がサポートしてくれるのだと言う。
お父様が俺の肩書きを『総監督』と改めた時はちょっと何かに引っ掛かる思いだったけども。
なので、執政用建築物には『総監督執務邸』と名前が振られた。
「ここは、タズマ様の意見に素直に従う者と、意に反してでも健康を優先する者とで支えます。ご家族からの思い遣り、ですよ。ちゃんと受け止めていただけますか」
「うん…… うん。ありがとう。ちゃんと使っていくよ」
「移動には馬車をご用意しました。あと、お食事は三食必ずこちらへとお戻りください」
「えええ、移動時間が勿体ない……」
「では、専属コックはお側に必ず必要ですね」
「ボクに任せて(きらーん)」
ネオモさんが説明し、広げた図面に注意事項の書き込みを加えて、プチがここぞとばかりにポーズを決めた。
そして、定時厳守、サービス残業不可、サイドビジネス要相談という環境だときつく約束をされた。
家庭への仕事の持ち込み禁止という注意も追加された。
「やれやれ、これが一週間の理由か。困ったなぁ」
「子供が過労で倒れて心配しない親なんていません」
「もし居るならそれは獣と呼ばれるべきだろう」
「お母様、お父様。本当にご心配をおかけしました」
「しっかりと休めたか?」
「はい、もうすっかり」
俺への家族からの思い遣りが、温かかった。
以前…… 前世では、こんなに温かく労われたことはない。
前の職業の癖で『やれるだけの仕事をしなければ』などと思っていたワケだが、経歴がどうであれ子供がプロに混じって働いているのは異質であり、異様でしかないのだ。
俺は、様々な勘違いをしていた。
「タズマ。お家ではゆっくり。お外では頑張って。ね」
「はい、お母様」
俺は結局、まだ、心も子供だったのだ。
そして大人であるお父様やお母様、年長者に支えられて…… この世界の一人として、歩んで行かなくては。
今日のお茶は、すこししょっぱかった。
☆
復帰して三日目の午前中。
ここは街の主要道になる大森林幹線道路からの分岐点、新たに作る農村予定地。
すこし起伏を整えれば水田に使えそうな場所だ。
それに、試しにやると言うなら『経験済み』の農業のがやりやすい。
なので今日の作業は『
「監督ぅ、お客がきてっらしいぞぉ」
「客?」
「あぁ、なんだ、二人いるらしーんだが、
「謎シチュエーションだなぁ。もう一人は?」
「ラミアーだって。珍しいよな」
その言葉に、前世、学生の頃の記憶が呼び起こされ、心が乱れた。
俺が生かしたくて、痛々しい傷を耐え、頑張って生きてくれた蛇。
一人暮らしの時、たまに川魚を食べさせ、腕に捕まらせての散歩をした、片翼のフクロウ。
直感的に、その姿が浮かんで。
走り出していた。
「どこに?」
「男爵邸に、やぁ、馬車を使いなよ」
「あっ、はい。ありがとうございますっ」
汗も拭かずに走る俺を、一区画を任せた
街から離れた場所だと一瞬忘れるほどに動揺していたのだと自覚して、馬車の方へ。
「足もと気ぃつけてなあ」
足と頭の角以外は見た目がヒトと変わらない彼らだが、カウマンはなぜか田舎言葉を好んで使う。
顔は、美男子なのにな。
それは今はいい。
彼、バウサの話によると、二人は家に来ている。
シーヴァとプチは忙しくても『あの二人』だとしたら絶対に対応してくれてると思う。
「お前たち、だよな?」
俺やシーヴァ、プチ、ヤマブキのように、転生したのだろう。
農作業も放って、早く早くと気ばかりが逸る。
街を目指す馬車の車輪が、うるさい俺の鼓動を掻き消してくれて心地よかった。
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