第4話 辺境開拓男爵と辺境防衛騎士が唖然
両親に『転生』のコトを打ち明けたが、予定通りに半分程度の知識量と誤魔化しておいた。
「タズマが『転生者』とは…… いや、それはそれとして素晴らしいのだが。シーヴァさん、だったね。その縁を辿って大陸の端から端へ、我が領内に辿り着くとは。亜人種の魔法使いもやはり凄いものだ……」
「タズマはまだ、記憶の全てを取り戻せてはいないのね?」
「う、うん、程度で言えば五割くらいかな?」
「うむ、転生者として覚醒したなら、大公様へとお伝えするべきか。領内の人材として、召し抱えていただくに値する情報だからな」
門の前での珍事のすべては
まず、転生だけでも充分に
まったく、まっすぐで正直なのも考えものだ。
その素直さには微笑むしかないけれど。
「でも、まだタズマは幼すぎるわ」
「ご安心ください奥様。私が全身全霊をもってご主人様をお守りいたしますから!」
「シーヴァさん、貴方をタズマの元に置くかはまだ決めていない」
「そ、そんなっ」
そりゃそうか、八歳の子供に『部下』がいるのもおかしいし、急に決められる話題じゃない。
他の兄弟や使用人達も扉のむこうで聞いているのだろうが…… 特に違和感を感じたりはしてないのかな。
というより、今まで普通の温和な少年として過ごしてきて、いきなりのカミングアウトだ。
俺よりも周囲のが驚いているのか。
「貴女が十五才、タズマは七才年下だ。貴族とは言え三男の子供を主人とするに貴方はまだ若い。が、我が家でメイドとして働くのであれば、近隣からの注目もされんだろう。どうかな?」
「では、当主様……
「うむ、ネオモ、よろしくな」
「それは良いわねぇ。マリーア、教育を頼める?」
「もちろんですわ奥様。シーヴァさん、よろしくね」
「よ、よろしくお願いいたします……」
違った、全然驚いてない。
お父様もお母様も
「では、私は、ご主人様の元に居てもよろしいのですね?」
「うん、お父様が許してくれたからね」
「ありがとうございます! 全身全霊、励みますっ!」
勢いよく揺れ始めたシッポに苦笑するしかないが、
「シーヴァさん、
「はい、肝に銘じます」
我が家の執事は常に不機嫌そうな顔がトレードマーク。
今日は良い方。
《バンッ》
「タズマぁ、お前、前世に何してこんな美人を従えてんの?」
「うわぁ、髪の毛ツルッツル……
「亜人種の、狼族はとても強い戦士だと聞きます、その大剣術、是非とも見せていただきたい、です!」
と、扉が開き、兄弟が雪崩れ込む。
新しい家族が増えたと、何気に部屋の中は明るくなっていた。
「しかし、どうやってこちらまで?」
「北側の山脈つたいに歩いて参りました」
「まぁまぁ、あの白竜の峰を」
シーヴァは囲まれて少し
「……当主様。そろそろお時間です」
「うむ、会談へと向かおう。シーヴァさん、ではまた後程。食事をしながらお話をしよう」
「はい、ご当主様。本当にありがとうございます」
お父様は本来の予定通りに会談へと向かう。
兄弟にからかわれながら、小さな身体の俺はシーヴァに抱き締められ(甲冑が痛い)、これからの日常にワクワクしていたのだった。
☆
会談に臨むのは人類側として領主のアレヤ男爵。
そして『辺境防衛騎士』のボレキ勲爵。
亜人種側からは判定役に
そして
この会合には武器を持ち込まず、代表としての意見を交わす約定に
そもそも――この大陸は
中央の空白地帯が大森林で、その周りを山脈が囲み、更に外側の余白のような大地の海沿いに人々が住んでいた。
山脈には西と東に裂け目があり、北側の山脈を『白竜』、南側の山脈を『黒竜』とも呼ぶ。
そして山脈の西の裂け目で領地開拓をするべく会合をしているのがタズマの父親なのである。
一緒に参加しているボレキ勲爵は海岸に分領された港町を持っている騎士。
騎馬部隊を率いて魔獣討伐で名を馳せた武人だ。
過去にあったような戦争を避けるために会合は行われているのだが、双方がこの土地を『我々のモノだ』と主張するばかりで、いつも街道で区切られた土地の先には不可侵だ、という現状維持が更新されていた。
山脈が取り囲む『大森林』の広大な未開地は、大河の源である湖群と、獣や魔獣も
「我が主の領土には大きな河川がない。折々に発生する
「知ったことか。水が足らぬと言うなら海にでも下るがいい。森を
「水馬の、落ち着け。お主の鼻息でこやつらが倒れたら、後から難癖を付けられるに決まっている」
「ふん、人類種は姑息だからな。我等の
外の人間から『魔獣の森』と呼ばれる大森林には様々な生命、自然の奇跡たる恵みが多く、人々にしてみれば危険を
「我等は交渉に来ているのだ。暴力で解決しようなどとは思っていない」
「庇護をするとか税を少なくするとか、貴様らの物の道理を恩着せがましく語るコトのどこが
「そっちの騎士は、暴力そのものの存在だろうが」
「愚弄するか、馬の獣の分際で」
「双方それ以上は――」
領地内の有力者でもある騎士と当主が交渉しようと、亜人たちとは価値観も違う。
先程、屋敷を訪れた亜人の少女とは態度も立場も違う彼らに、男爵はため息を隠せなかった。
――のだが。
「ぬっ、待て。貴様、一体、
鹿人バニセンが鼻を鳴らし、男爵の袖から『それ』の存在を嗅ぎ取った。
彼に、彼の部族にとっての『恐怖そのもの』の…… それを。
「ん、ああ、
「うう、この臭いは……く、やはり人類種族は卑怯者だ」
「え、そんなにキツイ臭いか?」
「どうした、鹿人の」
「人狼族の戦士だ」
「な、なに」
「ああ、『死滅の刃』の、戦士の臭いだ。間違いない」
男爵がついていけないままに、亜人種族代表たちが困惑し、邪推し、追い詰められていた。
「その戦士を『雇った』だと? 人類種族に荷担したと言うのか、奴らが!?」
「明ける端の奴らが敵に回るとなっては……一時的にでも交渉を飲むしか、ない」
「くぅ、奴らが東から睨んでいるのであれば、やむなし」
「……え?」
「何が、どうなったのだ?」
「アレヤ様、おめでとうございます!!」
兎人のリィ・リッタに腕を掴まれても、男爵も勲爵も何がなんだか分からないまま、話は大きく動いて。
この日、人類と亜人種族との通商開拓に関する条約――
『暮れる端和平条約』が結ばれたのだった。
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