第3話 不釣り合いな二人の関係

 320という数値に、周りの冒険者たちは騒然となる。王都の騎士団長よりも優れた数値なのだ。

 そんな戦士なら、こんな初心者と組むのはおかしい、自分たちのパーティに誘いたいと、皆が声を上げ始める。当然な意見だ。しかし、彼女を渡す気はない。


 もう一度言おう、「絶対に渡す気はない!」



 当然、偉そうに反論する奴が出てくる。予想通り、冒険者カイトが声を上げた。ほんとに嫌な奴である。

 このギルトだけでなく、永遠に俺の前から消えてほしいリスト、第一位の奴だ。


 このギルドでは上位の冒険者。家系の貴族で資金もある。まあ、こんな地方にいるのだから、貴族と言っても、三男のはぐれモノでしかない。兄たちに追いつきたいのだろう…、そこだけは同情するけどね。


「おいおいおい、ロイドさんには、ちょっと不釣り合いだろう! その女性は…」

 言い方は汚いが、言ってることは的を得ているから、反論はできない!


 的を得ているが、パーティ仲間としては言い返さなければならない!

 何か反論しようと一歩前に出た…そのとき、カイトの言葉を聞いたカサンドラが、ざわついている皆を制するようにサッと腕を横に振った。


 その仕草に一同が注目する。まるで部隊を掌握したように、酒場が静かになった。カサンドラ、格好良すぎだよ…。 



「あなた、お名前は?」

 言葉に力があるのか、一同はまるでカサンドラに吸い込まれるように見つめる。

「カイトである。そうか、君も真贋をわかる戦士という訳だな。こちらのパーティは君を歓迎するぞ。装備も資金も潤沢にある」

 そう言うと、手を広げてカサンドラドを歓迎する仕草をして近づく。こいつの所作…いつ見てもインチキ臭い役者のそれだよ。


「ロイドと一緒では、スライムと戯れるだけ。君のレベルは王都に行ってとしても抜きんでている。わたしと一緒なら、王都へ行って名も挙げられる。財宝も地位も思うがままになるだろう。」

 なるほど、こいつ、ルシードの力で王都へ返り咲こうと目論んでいるな。三流役者でも、王都生活に戻りたいのだろう。


 俺は…、俺はどうなんだ? 

 ルシードとは一緒にいたい。せっかくパーティを組んでくれると言った数少ない仲間だ。そりゃ、エルフで美人で実力もあって…、こんな相棒、おそらく今後の人生で二度と現れないだろう…。しかし、彼女との実力に差があるのも事実だ!


 カイトに反論したいが…彼の言い分に、どう反論できる? 俺のレベルの低いのは事実だ、悔しくて握るこぶしに力が入る。


“ああ、もっと俺に力があれば…”


そんな忸怩たる思いでいる俺をよそに、カイトの偉そうな一人舞台は続く。

「選択を間違ってはいけない。今は混乱しているから、正しい判断ができないのであろう! 今からでも遅くはない! 彼とのパーティは解消し、わたしのパーティにぜひ加入してほしい。さあ」

 手を広げ、こちらへ来るように頷く。彼の仲間たちも同様に頷いて、手を差し伸べている。さすが同じインチキ劇団員。皆の動作が似ているよ。




 しばらく、その言動をカサンドラは見ていた。




 そして、目を閉じて自分の考えを整理すると、俺とエレンを交互に見る。そして、ゆっくりとカイトに向かうと、彼の勧誘に対する回答を口にした。


「そうですか…。誘っていただき、ありがとうございます。しかし、わたしはロイドのパーティから出ていくつもりはありません。」


 そのハッキリとして口調に、俺も、カイトも、エレンも、その場にいた冒険者たち全員が驚いた。


 そのときの俺が、どんなに嬉しかったか!

 いつも、いつも、最後には「ごめんなさい」とか「他をあたってくれ」だった…のだから。


 カサンドラ、君ってやつは、本当に惚れてしまいそうだよ(もう惚れているけど!)。俺は泣きそうになった。


「なぜだ! どうしてだ! おかしいだろう。なぜ俺たちでなく、そのロイドなんだ!」

 指を指し、カイトの目が血走っている。当然だろう。彼にしてみれば断る理由が見当たらない!


「あなたより、ロイド…の方が強そうですし」

 と言うと、カサンドラが俺を見た。


 まっすぐに見られて今度は俺が困った。なぜなら、彼女の読みは…残念ながら、間違いだからだ。



「ちょ、ちょっと待ってくれ! そいつは未だにレベル一桁だぜ。そいつよりも下に見られるのは論外だな!」

 それは正しいな。悔しいがね…。冒険者は実力主義。レベルが全てなのである。カサンドラ、俺のレベルは一桁なのさ。ごめんな…カサンドラ。


 予想外の返答に、顔を真っ赤にすると、怒りの矛先をエレンに向ける。

「おい、エレン。お前も斡旋もロイド優先し過ぎるぞ。ギルドの受付は戦士の実力で上から優先すべきだ。明らかな、えこひいきだろ。どうしても助けたいならお前がパーティに入ればいい」

 エレンも、思わぬ飛び火に苦笑する。彼女にしてみると、多少の優遇をしていたのは確かなので反論ができない。

「あ、あたしは今の業務から離れられないのよ…」

 そして

「そりぁ、できればしたいですよ」

 と小さく呟く。その言葉を聴覚の良いルシードが不思議そうな顔で見つめる。


「エレンが俺の仲間なら…、そりゃ、助かるけどさ」

俺がそう呟くと、エレンはまんざらでもない顔をする。

「ま、あんたじゃ、わたしも大変だと思うけどね」

そうでしょうね。おそらくエレンは、この地方都市ギルドならカサンドラを除けば、もっとも強いレベルだ。俺の前にいる女性二人は、まあ、俺には勿体ないレベルなのである。


そうだなぁ…、エレンが俺の姉さん的な、カサンドラが俺の彼女的な存在で、パーティを組めたら理想なんだけどなぁ…。


いかん、いかん、それじゃ、俺はひもじゃん。ただの…ひもだ。カサンドラの彼氏じゃないよ、ひもだよ。


いつか、カサンドラに相応しい男になるんだよ! 俺は! しかし、320かぁ…、それは難しいなぁ…。


俺はきっと困った顔をして、カサンドラを見ていたのだろう。

「大丈夫ですか? ロイド」

彼女の優しい言葉が、逆に俺の心に悲しく沁みてくるのだった。


 




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