第2話 どうか俺と組んでほしい!


 墜落?現場からカサンドラを半ば強引に連れて、冒険者ギルドに戻る。様々な冒険を斡旋するギルドには、多くの冒険者たちが様々な依頼をこなして、報酬を得て生活をしている。俺もやっとこのギルドに登録した初心者なのだ。

 ギルドのある建物は3階建てで、1階が冒険者たちが集う飲食と酒場。2階がギルド受付、3階がギルド事務所となっている。

 俺はカサンドラとこの1階のギルド酒場に戻ってくると、とりあえず彼女に空いている席を勧める。きょろきょろと周りを見回しながら彼女は席に着いた。

「あ、ありがとう…ロイドさん」

 彼女は礼を言う。

「いえ、あ、ロイドと呼び捨てでいいですよ。カサンドラさん」

「それではわたしのことも、カサンドラでいいです」

 うーん、お互い名前を呼び捨てにし合うなんで、相手が美人ならちょっとうれしい。

 俺が笑ったので、彼女も少し迷いながら微笑む。

 うん、美人は笑うといいね。


 それよりも、周りの冒険者たちの視線が痛い。まあ、先ほど、ドワーフが一人で逃げかえってきたので、俺が一人で帰ってくるものだろうと思っていたのだろう…。

 そこへ、エルフを連れて帰ってきたので、不思議そうに視線を向けてくる。そうだろうね。エルフはこの辺ではほぼ見かけないしね。


 俺が君達でも同じ反応をしただろう。おまけに彼女は飛び抜けて美人だ。きっと唖然として見つめるだろう。俺たち、全身、埃だらけだけどね…。


「あらあら、ロイドさん。随分と美しい女性とご一緒していますね」

 そう声をかけたのはギルド受付係のエレン。元冒険家で実力はかなりある。なにかと気にかけてくれる、ありがたい存在だ。冷たい水を運んでくれるが、少し苛立ちのような声にも思えた。皮肉ですか?


「あ、エレンさん。こちらは、えーと、カサンドラ…さん」

 カサンドラは立ち上がると、丁寧に会釈をする。その所作がまるで軍か騎士団上がりのようなに思え、周りの冒険者たちも訝しげに見ている。

 へぇー、と俺も彼女の振る舞いに驚いた。


「カサンドラさん? あの、どこかの軍に所属されていました?」

 エレンにもルシードの実力を測りかねているようだ。カサンドラは困惑するような表情を見せる。

「エルフはこの辺ではまず見かけないのです。それにあなたの装備がしっかりしたものなので、軍か騎士団に所属されているのかなって…」


 少し彼女は少し逡巡していたが、彼女を見て信用したのだろう。

「はい、国では騎士団に所属し、団長をしていました」


“騎士団長!”

 となると、かなりの腕前なのだろうな。美人だけど怒らすと怖いかもしれない…。周りの冒険者たちも皆、カサンドラの言葉に耳をそば立てている。皆、エルフが気になるらしい…。


 そんな人がなぜ、こんな辺境の居酒屋にいるのかしら? そして、なぜロイドと一緒なの? とエレンも他の冒険者たちも、そして俺自身も疑問は尽きないのだ。


「騎士団長? それは前職ですよね? それで、現在はロイドさんのパーティなのかしら?」

 ルシードは驚いたように目を開く。

「パーティ? それは何ですか? ロイド」

 エレンでなく、俺に聞いてくるところは、とりあえず一番信用してくれているらしい。それは嬉しい。そこで簡単に、冒険者の仲間であること、ギルドの仕組み説明した。

「なるほど、一緒に冒険する仲間…ですか?」

 下を向いて考える。


 カサンドラはロイドとの関係をどう説明していいかわからない。少なくとも、冒険する仲間ではないと言うだろう…、悩んでいるカサンドラを見ているとき、俺は強引に彼女を誘ってみようと考えた! どうせ、ダメ元である。


「いえ、そうでは…」

 と否定とするカサンドラの声を、俺が否定した。


「はい、そうです! 彼女は俺の新しい仲間なんです」


「!」

 同時にカサンドラもエレンも驚いた顔でこちらを見る。


 このロイド、自慢ではないが、今までパーティを組んだことがない!(まったく自慢できない)パーティが組めないと、どうしてもレベルの高い依頼がこなせない。レベルが低いと誰もパーティを誘わない。悪循環なのである。これを打破したい! 彼女を仲間にしよう! もう強引に宣言しよう。そう決めたのだ。


 このままでは俺はまた置いてけぼりだ。この空間に飛ばされたカサンドラ。彼女の話を聞くとかなりの戦士らしい。しかも、エルフ。美人。こんな優良仲間、他にありるだろうか? いや、ない! これは神からの授かりし奇跡だ。

 ならば、絶対に、なんとしても、なんとしかして彼女を仲間にしたい…。自分でも驚くほど、大胆に宣言した。


「本当ですか?」とエレン。

「聞いていないが?」とルシード。

 二人の声が同時だった。君たちの驚きの顔…当然だよね。

 俺も今、初めて言ったからね。


 呆気にとられている二人に、なぜそうなるのか? 俺が二人に(半ば強引に)説明を試みる。えーい、なんとか押し切れ、俺!


「さきほど、俺のやっと仲間になってくれた奴が(と言ってエレンの方を見ると、彼女は苦笑した)、ルシードが俺たちの間に落下してことで、そいつは逃げてしまった。俺は…俺は貴重な仲間を失ってしまった…」

 俺は悲しみに打ちひしがれたように、下を向いて、悲しい声で訴えた。


 まずはいかに大切な仲間を失ってしまったのかを、その原因は誰なのか、それを力説した。大切? 逃げた仲間は、エレンさんに斡旋された偽装仲間だったけど…。

 これはもちろん、屁理屈である。しかし、「屁理屈も理屈のひとつ」だ!


「カサンドラ。次の仲間が来るまででも、その代わりをしてほしい。戦士としては当然、果たさなければならない責務である、と言えよう」

 戦士の責任、責任感の強そうな彼女には悪いけど、こう言えば無下に断れないだろう…。強引すぎるとは思う。でも、本当に困るんだよ。

 俺も…彼女を仲間にしたい。


 カサンドラが美人だから? そんな邪な理由? それはあるかも…!

 騎士団長で一緒に居れば経験値ががっぽり入る? それもあるかも。


 しかし、何よりも俺の心の中で、この娘、をつかまえなくてはだめだ! 離してはいけない。そんな気持ちでいっぱいだったのである。



「……」

 酒場中が沈黙している。

 え、何、この静けさ…。周りの冒険者たちも“えっ? そうなの?”という顔でカサンドラを見つめている。


「……」


 え、カサンドラの考え込まないで。そんなに真剣に悩まれたら、俺、耐えられない!


 ああ、自分で言ってて、彼女に、ごめん、と謝りたくなってきたその時、彼女の透き通るような声が店中に響いた(そんなに大きな声ではないけどね。皆が静かだからさ…)。


「そういう事情があるのですか…」

 俺の剣幕に圧倒されたように思案する素振りをしていたが、

「それならば仕方ありませんね…。わたしにも責任はあるし、当面は行く当てもないのですから…」




「えっ? いいの。」




「はい」




「………」





「カサンドラ、仲間になってくれるの?」






「はい」





 神よ! 感謝します! 俺はあふれる涙を抑えるように天に向かって、拳を突き上げていた。




 やったぁ! と心の中で叫んでいた。



「どうでもいいけど、声に出てるよ」

 エレンが苦々しい顔で指摘する。彼女は“どうせ、今、誘ったんでしょ”と、バレバレである。あ、これは失礼しました。



 他の冒険者たちも、この展開に呆気にとられている。

 あのロイドが、あのエルフとパーティを組む。しかも、超・美人だし、超・戦闘力ありそうだし、超…羨ましい! そんな彼らの心の声が聴こえる…。


 わかるよ、わかる。確かに羨ましいだろうね。

 フフフ…フフフフ…フフフフ…。


 いかん! 心の底からにじみ出てくる薄ら笑いが止まらないぞ。

 カサンドラの前では毅然としていなければ…。


 フフフフ…(ニヤケテハ)いかーん!



 そんな俺を見ていたエレンはつまならい、という不満顔である。仕方ないな、と諦め顔でカサンドラに声をかける。

「それでは、カサンドラさん、こちらで冒険者登録してください。どうせ、未登録でしょ?」



 果たして、彼女のレベルはどれくらいなのだろう?

 カサンドラがギルドの測定水晶に触れる。


「カサンドラ・エル・ルシード

 職業:魔法騎士 

 レベル:320

 従属レベル:1」


 “うそ?”とエレンは数値を疑った。しかし、再度測定しても同じ結果だ。


 「おーい、エレンどしたの?」

 俺は嬉しさでぴょんぴょん跳ねるように、想定している二人に近づく。

 そして、測定水晶に表示されているカサンドラのレベルを見た。


“なるほど、なるほど、ふんふん、レベル320ね”


 320!!


「えっ⁉ エレンさん? これ変だよね…」

 彼女の顔を見ると本当らしい…。真顔である。


 えっ! これ本当なの?


 次にカサンドラの顔を見る。彼女は困った顔して笑っている。どうしてなのか、彼女にもわからないらしい。どうやら測ったことがないので、これがどの程度が判断しかねるらしい。


 冒険者たちも当然、エルフの実力が気になっている。

 っていうか、全員、周りに集まってるじゃん!

 いつの間にか、“押すなよ、押すな”とか”見えないぞ!”とか、声がする。


 で、冒険者たちもの主だった声を以下にまとめるとこうなる。

「お、おいどうした?」

「な、なんでも320とかで…」

「は? 320。それはレベルなのか?」

「ありえないだろう…」

「ドラゴンじゃないんだからさ…」

「32の間違いじゃないのか?」

「エルフは美人って本当だね」

「いい匂いがしないか」

「俺ももっと近くで見たい!」


 最後の方はどうでもいいコメントだったが、とにかく、規格外のレベルなのだということはおわかりいただけただろうか。


 自分の知識では“レベルは100が上限”と考えていたのだが、とエレンに聞く。彼女はこっそりと俺に顔を近づけ

「はい、レベルは人間の力を基準にしてますから、その認識は正しいですね。ただ、エルフやドワーフの中に100オーバーを出す人がいます。人間でも騎士団クラスだといますよ」


 うーん、そうか、エルフの騎士団長は、そんなに強いのか。


 俺は冷や汗をかいていた。

 それはそうだろう。レベル1の初心者と、レベル320の規格外のカップル(カップルの部分は俺がそう望んでいるだけ)だ、いやパーティだ。


 バランス悪すぎだろ!


 そして、“こんな人でいいんですか?”とエレンが俺に囁く。つまり、余りにレベル差があり過ぎますよ、と言いたいらしい。


「こんな人で悪かっですね!」

 エレンの耳打ちの言葉がカサンドラにも聴こえたらしい。どうやらエルフのあのとがった耳は、とっても聴覚がいいらしい。



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