突然降ってきた僕のカノジョは最強説‼ 最弱彼氏が最強彼女をどう口説くのか?

ルグラン・ルグラン

第1話 降ってきた最強彼女?

「あれ、ロイドさん。この二時間でスライムが二匹倒せただけですか?」

 その声から落胆しているのがわかる。俺の方が落胆したいくらいだよ。もう少し倒せると思ったからだ。


 魔術もダメ。素養がないと魔術学校でも言われた。なんとか基礎レベルが覚えられたが、仲間たちが卒業時には中級魔術を唱えられるのに対して、自分は初級しか唱えられなかった。将来性もないので、女子にも当然、人気がない。


“ダメダメ・ロイド”、“弱虫ロイド”と言われて久しい。いや、弱虫ではない。体術はそれなりにできる。剣ならある程度使えるのだ。校内の剣術試合では上位に入れる。しかし、実際に剣は高くていいものが買えないのだ。魔物退治には、やはり魔法攻撃が効率がいい。


「もう少し先に進みませんかね?」

 仲間になってくれたパーティのドワーフが提案する。彼はもっと手ごたえのある魔物を倒さないと、経験値が稼げないのだ。もっともな提案だ。

「そうですね(自信ないけどね)」

 昼食の準備をしながら、彼の提案に曖昧に答える。


 おかしい…、一年たってもスライム相手に戦う日々…。迷宮探索、ドラゴン退治、そして隠された秘宝を手にする…俺の野望は、冒険者として成功し、富と名誉、そして大きな屋敷を構えることだった。そんな愚かににも冒険者らしい夢を夢見ていたが、それは魔術の才能が全くないことによって潰えようとしていた。


 なぜ、なぜなんだ、神よ! 俺にチャンスはないのか! 心の中で叫んだ。


 しかし、世界は何も変わることなく、目の前の鍋がぐつぐつと煮えているだけであった。


「……」

 鍋をはさんで座っている仲間も呆れた顔だ。


「そりゃ、そうだよね…」

 溜息をついて、鍋に入れる食材を探すために見回す。

「人参がこの辺にあったはず…」


 そのとき、頭上はるか上から、小さな音が響いていることに気がついた。

(なんだろう?)

 ふと、上を見上げると、何かが落ちてくるように見えた。それはやがて音と共に大きくなっていく。

 キィィィーン

 空気を切り裂くような音、かなりの大きさだ!

 おいおい、ありえないだろう!


「危ない!!」

 その声と、凄まじい音とが、ほぼと同時だった。

 辺りが一瞬、暗くなるほどの土が舞い上がり、俺たちは吹き飛ばされた。


 その衝撃にしばらく身体中が痺れていたが、やがて動けるようになると、近くにいたはずの仲間を探す。すぐに近くにドワーフの足が見えた。どうやら、ひっくり返ったまま土に埋まりかけている。

「大丈夫か?」

 埋もれている仲間を引きずり出すと、彼は気を失っていた。


 先ほどあった食事の場所を見ると、そこには直径数メートルほど穴ができていた。


「隕石?」

 まさか、ね。

 ああ、せっかくの食事が台無しじゃないか! 食材も鍋も跡形もない…。


 すると、気を失っていたドワーフが、土埃を頭にのせたまま突然、立ち上がった。

「な、なんだ! もう! ロイド、俺は無理だよ。君と組むのは…」

 え、これって俺のせいでは…。

「ギルドの案内嬢から、どうしてもって頼まれたからけど、無理だ」

 と逃げるように立ち去って行った。

 “え、エレンさんの頼みだったの…”

 走り去っていく仲間を眺めながら、ああ、いつものことだ、と思った。

 遅かれ早かれ、そうなるだとうと思った。



 これで仲間に逃げられたのは軽く十回を超える、

 溜息をつきながら、散乱した道具を集めていると、隕石の穴の底で何かが動いている!


 まさか…。


“あの衝撃で死なないのか”

 これは危険な生物ではないのか? 俺は身構えた。


 しかし、それは怪物ではなく、人のようだ…。

 驚いた…しかも、どうやら女性のようだ。 ま、まさか…よく生きているな⁉


 彼女は戦士のような鎧に身を包み、必死に立ち上がると剣を構える。近くに敵がいると思っているらしい。しかし、構えた剣も彼女の目の前で粉々になっていく。

「えっ、わたしの剣が…」

 彼女の手に持っていた剣は柄だけが残った。


 そして、敵だと思っていた場所に、自分が立っている。唖然としてまま微動だにしない。


「君、だれ?」

 彼女に声をかけるが、あきらかに混乱しているようで、答えられない。

 しかたないだろう。俺でもパニックになる。


 天から落ちてきたので、天使なのかと思ったが、どうやら、見た目からエルフらしい。エルフは美人が多いと聞いていたが、初めて見るその顔は埃だらけでもその通りだと思った。彼女は僕の問いに答えることもなく、その場で崩れ落ちるように座りんでしまった。


「大丈夫か?」

 小さく頷いたようにみえた。言葉も通じるらしい。彼女の手を引いて、近くの木陰の中に座らせると、持っていた水筒の水を渡した。


 暫くコップの水面を見つめていたが、それをゆっくりと飲む。小さく息を吐くと落ち着いたようだ。

「あ、ありがとう…ここはどこかした?」


 今のこの場所は、東方の大陸にある小さな村、フェルド村だと告げると、東方大陸と聞いて驚く。彼女はどうやら数千キロも離れた西方大陸にいたらしい。


「助けてくれて、ありがとう。わたしはカサンドラというの」

 貴族なのかもしれない…。改めて見ると、彼女額には小さな菱形の印のようなものがある。高貴な一族らしい気品もある。これは俺には縁のなさそうな人だなぁ…。


 落ち着いて話を聞くと、彼女は直前まで、敵対する勢力に追い詰められ、最後は空間の狭間に落ちたらしい。もしも彼女の話が本当だとすると、かなり遠いところから移動したことになる。


 いったい、なぜ? どうして、こんなことが起きる?


 これは先ほど神に願ったせいなのだろうか? 


 確かに美人もいてほしい、心のどこかで願っていたかもしれない。

 いや、願っていた!


 しかし、唐突過ぎないか、神様…。もっとこうドラマチックな展開に…。いきなり天から降ってくるというのはドラマチックというよりも、ハルマゲドン的な展開ではないか…。


 ま、待てよ。彼女は“敵と戦ってた”と言っていたな。すると、ここまで敵が追って来るかもしれない…。そんな敵が来たら、本当にハルマゲドンになりかねない!


 き、危険だ。エルフもいいが、もれなく強大な敵も一緒に来られてはたまらない!


 このまま、ここに居ても危険だと思い、カサンドラを連れて村にあるギルドまで戻ることにした。幸い、というか不思議なことに、彼女の身体に怪我一つなかったのである。


 これが俺、ロイドと、そして、カノジョとなるエルフ戦士、カサンドラとの出会いであった。



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