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 座布団を枕に、ぼ〜っと横になっていると、店先の方から、話し声が聞こえてきたんだ。

 当たり前だけど、石丸夫婦が接客をしているのさ。


 「いつもありがとうございます、少し雲行きが怪しいみたいだから、突然の大雨には気を付けてお帰りください」


 丁寧な挨拶と気遣いに、この店が長く続く理由が、なんとなくわかった気がした。

 

 (まだ、返信はないか…)


 返信がないのは当然といえば当然で、ルミナは日中、美容品会社の製品開発部門で働いているらしい。

 

 (返信は早くても、今日の夜だろうな)

 

 少し手詰まりな状態になったので、俺はあるところへ行くことにした。

 

 「大将、少し出るよ。帰りは遅くなるだろうから、気にせず上がってくれ」


 「へい、承知しました。ですが旦那、どうも雲行きが良くない、もう少し様子を見たらどうですか?」


 そう言われて、軒先から空を見ると確かに遠くで入道雲が出ている。

 でもな、ここに居ても返信を待つだけだ、俺はそれに耐えられない、晴れてる内に出掛ける事にしたよ。

 

 「旦那いいんですか、ほんとに?」


 「大丈夫さ、近くだから間に合うはずだよ」


 強行する俺に解せない太我だが、それでも裏口の鍵を俺に渡すと、店の奥で作業中の夏海と少し話してから、夫婦揃ってニッコリと見送ってくれたぜ。

 

 だが、石丸夫婦の思った通りになっちまった…


 (くそ、間に合わなかった)

 

 再びバイクに跨り、目的地へ向かっていると案の定の大雨さ。

 

 さすがの俺も、この豪雨じゃ運転する気は失せる、丁度良く出て来た道沿いの屋根付きの自販機コーナーで雨宿りする事にしたんだ。


 (何々、全商品80円、ギンギンに冷えてます、出来たてうどん300円〜…)

 

 俺は多々ある自販機の中から、懐かしさと珍しさもあって、きつねうどん400円を選んだ、気付けば、昼も遠に過ぎている。

 仕事に没頭すると、すぐこれだ、お腹も空いていた。

 いいタイミングで、ずずっと麺を啜ったわけさ。


 (うまいな、出汁かなぁ…)


 コンテナルームの様な、ちょっとしたイートインスペースでお手軽グルメに舌鼓を打っていると、忽然と此方に向かって来る黒のワンボックスカーが猛スピードで現れたんだ。


 (品川ナンバー、乗っている奴等は目出し帽か…きな臭いな…)


 思った通り、悪い予感は的中するもので、車は駐車場で反転し、泥水を跳ね上げて急停車する、と、同時にドアが開いて、目出し帽の人間が三人飛び出して、こちらに向かって来たんだ。

 

 俺は直ぐ様テーブルをイートインスペースの入り口へ蹴り出してから、後ろ正面の窓をくぐって外へ逃げ出すと、裏手にあった資材置き場に身を隠したんだ。


 「いやいや、これは物騒な世の中になったもんだぜ…」


 

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