6
白髪混じりの中年は、微かな
立ちはだかるように、グッと腕を組むと、俺を柔らかく睨むんだ。
「君、確か吼鸞くん、そう言ったね、私は室長の中村だ。君は探偵だそうだけど、一体どんな
「いや、まぁ、なんというか…成り行きでね…」
俺が口籠もっていると、エレナが気まずい空気を切り裂くように、会話に入ってきたんだ。
「私の責任よ。全部、私の一存で決めたの。彼は何も悪くないは、何か問題が発生したら、その時は、私が全て責任を取る。それでいいでしょう?」
「はははっ、エ、エレナ、もういいよ、冗談だ。そんなに本気ならなくていい」
エレナの懇願に、反するように、室長は腹を抱えて笑っていやがる。こいつは侮れない、俺の直感が、そう言ってるぜ。
「室長…タチの悪い悪戯はやめてください。こっちは本気なんですよ」
「ははっ、悪い悪い、でもな、エレナはいつも稚拙なハッタリに引っかかるから、面白くて、ついな。よし、何はともあれ、吼鸞くん、こっちへ来なさい」
室長は、そう言うと、俺の眼を見つめるんだ。少し気持ちは悪いけど、嫌悪感は自然と湧いてこなかった。
ずるずると、室長に引きづられるように、診察室に連れて行かれると、半ば強引に椅子に座らされたんだ。
少々荒っぽい親切に驚いたが、それ以上に驚ろくことが起きたぜ。
なんと、室長は一目で俺の右脚に、痛みが生じていると見抜いた、それだけじゃない、俺以外に知るはずも無い、この脚の秘密まで言い当てたんだ。
「吼鸞くん、君、この切断された方の脚、どこかで保管しているだろ?」
「おい、な、なんで、いや…していない。どこか消えちまったよ」
「嘘なんてつくな、俺にはお見通しだよ。吼鸞くん、いいかい、科学者が言うのも可笑しいんだが、世の中には科学じゃ説明出来ない事もあるって事だよ。当の本人だって
「そうか、だとしたら、どうだって言うんだ?」
「これはな、会いたがってるんだよ、離れ離れの脚がさ。要は恋しいのさ片脚が。吼鸞くん、俺なら、その脚を付け直せるかもしれんよ」
「まさか、室長こそ嘘は良くないぜ、切断されてから、もう何年も経っちまってるんだ、無理さ」
「そうかい、じゃあ聞くが、なんで脚を保管している?一縷の望みを信じてるんじゃないのか、違うか?」
俺は、何も言えなかった。
室長の言う通りで、俺は切断された脚を、とある場所で保管している。
ただし、それは脚を元通りにするためじゃない、あの事件を忘れないように、そうしているだけなんだ。
「吼鸞、どうしたの?大丈夫?」
エレナが心配そうに話しかけてくれた、俺は黙って頷ずくと、室長に問うた。
「室長、ひとつ尋ねるが、右脚の所在についてだが、保管場所まで見えている、って事はあるのか?」
「それがな、そこ迄は見えないんだな、なんとも中途半端ではあるが、とはいえ、どうだ?この神通力、中々すごい力だと思わないか?」
「ああ、恐れいったよ」
「で、吼鸞くん、どうするんだい?」
「まぁ、即決は出来ない、少し考えさせてくれ」
「だよな、そりゃ俺でもそうする、気が向いたら連絡してくれ。いつでも力になるよ、エレナの新しい恋人なんだろう?」
「ちょっと!室長、違いますから!」
「ははは、これはすまんすまん」
室長の中村の神秘的な力を目の当たりにした俺は、その衝撃で、すっかり脚の痛みなど忘れちまったようだ。いや、痛みそのものが消えちまったのかな。
それじゃあ、先に進むぜ。
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