エアコンで中々に冷えた部屋、マヒロの淹れてくれた熱いコーヒーを飲む、自然の摂理に反するこの行動、俺は嫌いじゃない。


 一息入れて、「ルカズ」という名前のファイルを開く、そこにはSNSに上がっていたルカズの写真、動画は勿論のこと、ルカズの日本での生活や、海外への渡航履歴と滞在期間を纏めた文章データ、ルカズ名義の携帯電話の発着信履歴、インターネットの閲覧履歴等々のコアな情報まで綿密に纏まって保存してあった。

 「さすがだな」俺はぼそりと呟いた。


 「なぁ、マヒロ、このパソコンのデータなんだけど、保存日が三角と連絡が取れなくなった時期と合わない気がするんだけど、なぜだか分かるかい?」


 「保存日?いつになってるの?」


 ツルミツはいつの間にかマヒロの膝の上で撫で撫でされている。まったく、ネコって奴は気ままで羨ましい。


 「4月4日なんだよ、ルミナさんが言うには確か2月くらいのはずだ、それであれば2ヶ月はずれてる、その期間、三角がマヒロとだけ連絡を取っていたってことはないのかい?」


 「ないよ、パパは2月6日に連絡が取れなくなった…その日から音信不通、緊急用の携帯電話とメールアドレスに連絡しても全然ダメだった、だから2月6日から更新は無いはずだけど」


 「そうか、であれば、他の誰かがこの件に絡んでいるってことだな、心当たりはある?」


 「全然、パパは私を仕事に関わらせないようにしてたもん、でも、念のため連絡取れなくなったらこうしろっていう決まりだけは教えてくれてた」


 「そうか、そうだろうな、俺たちが扱う依頼はヤバイ案件が多い、何処から情報が漏れるともわからない、至極当然だよ、ところで、連絡が取れなくなったらどうするように言われたんだ?」


 「教えない、それが約束なんだもん、でもそのパソコンのPWはそこからの情報ってことだけは教えてあげるね」


 「ああ、それだけ分かれば十分だよ」


 俺はその言葉に安心した、少しだけれどマヒロを試していたんだ、極秘の情報を守れるのかどうか、今さら心配ないが、俺が吼鸞を名乗る別人ってこともあり得るって話しさ。

 慎重に慎重に、限りなく完璧に秘密は秘密のまま、闇から闇へ隠密行動するのが俺達の仕事なんだ。もう分かるよな?


 「マヒロ、お願いがあるんだけれど、このパソコンのデータ、コピーさせてくれないか?」


 「えー、どうしようかな、ダメって言いたいけど、吼鸞ならイイよ、パパもそうしろって言うだろうし」


 「ああ、ありがとう、助かるよ」


 「いいの、いいの、でも…吼鸞、パパのことお願いね、少しでも分かったことがあれば絶対連絡してね!!」


 「ああ、必ず連絡するよ」


 まったく、マヒロの気持ちが伝わって俺の目頭が熱くなって困るってもんさ、しかし感傷に浸るべからず、仕事だ仕事!

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