第100話 クリスマス(その1)
それからの日々はあっという間に過ぎて、気がつけばもうクリスマス当日の夕方。
「修ちゃん、どう?似合ってる?」
出発前に自室でクリスマス仕様の衣服を披露している私。
下はストライプのフレアスカートに上はベージュのふんわりとした感じのニット。以前に修ちゃんからプレゼントしてもらったネックレスと、あとはダブルデートの時に買ってもらった桃色のシュシュで髪をまとめてみた。
私なりに「可愛らしさ」を演出してみたけど……どうだろう。
「そうだな……かなり似合ってるぞ。うん」
少し照れた様子の旦那様に心の中で私はガッツポーズ。
「ちなみにどの辺りが?」
「シュシュが予想以上に……って言わせるなよ」
「ありがと。修ちゃんも似合ってるよ」
上は茶色のオックスシャツに黒のジャケット。下は黒のチノパン。全体的にいつもより大人っぽい感じの装いだ。
「今回はちょっと頑張ってみたんだが……変じゃないなら良かった」
「そこまで気にしないでもいいのに」
「百合だって気にしてただろ」
「それもそっか。よし。出発ー!」
目的地は最寄り駅の数駅先にあるホテル。
氷の彫刻におもちゃの電車、小さいゲームセンターなどなど。
夫婦になって初めてのクリスマスデートだから自然とテンションが高くなっているのを感じる。
「そういえば。修ちゃんはクリスマスプレゼント、何を選んでくれたの?」
道中、気になっていたことを聞いてみる。
「着いてからのお楽しみってことで」
けど、あっけなく躱されてしまう。
「それもそっか」
実は一つは検討がついている。
昨日、届いていた荷物を両親が玄関に置いていたのだけど。
ちらっと見たところ「ワレモノ」という記載があったのだ。
たぶんだけど、コップか何かだろう。
ただ、それだけにしてはやや荷物が多めに感じる。
もう一つ何かあるんじゃないかって思うのだけど。
「百合の方こそ、何を用意してるんだよ」
怪訝な目線だ。完全に信用されていない。
「大丈夫。ちゃんとしたものだって。優ちゃんにも相談したんだよ」
「優に相談したのなら、そこまで妙なことにはならないか」
何故か納得した様子の旦那様だけど。
「信用の格差……」
不満があるわけじゃないけど、少し納得がいかない。
「百合は前科があり過ぎるんだって」
「それもそうだけど……」
もう少し普通にした方がいいだろうか。
「別に、今更そこで「普通」をやらなくていいからな」
私の葛藤を見抜いたかのような言葉に、心がキュンと来てしまう。
「このタイミングでそれはずるい……」
嬉しくて、ちょこんと旦那様の方に身を寄せる。
「別に、言うほどのことじゃないと思うんだけどな」
なんて言いつつも満更でもなさそうだ。
こういう風に甘えて、修ちゃんが少し照れて。
「女の子らしいこと」が出来るのはやっぱり嬉しい。
その後はお互い言葉少なに、でも身を寄せ合って、
クリスマスの雰囲気を味わったのだった。
◇◇◇◇
「……すごく綺麗」
ホテルのエントランス前にある氷の彫像に思わず目を奪われる。
サンタとトナカイを模したもので、相当な手間暇がかかっているのがわかる。
「作る方もかなり大変だよな」
どこか慈しむような目線で彫像を眺める旦那様。
「作る人の苦労に想像がいくのが修ちゃんらしいね」
「そうか?」
「昔から私の世話に手を焼いてただけあるなって」
そんなところも、きっと好きになった理由なんだろう。
「これからも手を焼かされそうだけどな」
「ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします」
冗談めかして、頭を下げる。
「ま、いいってこと」
どこかくすぐったそうな彼だった。
「とにかく。まずはチェックインしようぜ」
「そだね」
手早くチェックインを済ませ、7Fにある部屋へと案内される。
部屋からの眺めもなかなか良さそうだ。
「わー。ベッドがふっかふか……!」
荷物を手早く置いて、ベッドにダイブする。
いかにもクリスマスにカップルが過ごす部屋っていう感じで、
ダブルベッドの大きさもかなり余裕がある。
「あー。確かにこれは……」
同じくベッドの感触を堪能している様子の修ちゃん。
「う……少し眠気が……してきたかも」
部屋がほどよく温かい上に、極上のふかふかベッド。
昨日は
眠くなるのも仕方ないのだ。
「もうすぐ、夕食だから寝るなよ……」
「でも、修ちゃんも眠そうな顔してる」
まさか眠気に襲われるなんて、ちょっと予想外。
パチン。頬を叩いて跳ね起きる。
「うんうん。寝ちゃ駄目、寝ちゃ駄目」
「だな」
同じく頬を叩いて跳ね起きる旦那様。
「よし。夕食行こう。エアコンの温度も少し下げて……と」
「一階にコンビニあったよね。エナドリ買わない?」
「……念の為、買っておくか。最後の手段ってことで」
クリスマスの夜を、ただ単に寝て過ごしました。
それは避けたいという思いは一緒だったのだろう。
ささっとコンビニでエナドリを買ってから、
コース料理が待っているであろうレストランへの道を急いだ私達だった。
(でも、逆に飲んで寝られなくなったらどうしよう)
そんな一抹の不安を抱えながら。
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