第99話 嫁へのクリスマスのプレゼントを考える俺
「しっかし、お前との付き合いもそこそこ長くなって来たけどよ」
高校時代からの友人、
「ん?」
「こうして泊まりで遊ぶのも初めてだな、と」
「言われてみれば。別にわーっと皆で騒ぐタイプでもないしな」
何かしらイベントごとにかこつけては、あるいは何もなくても日頃友達の家に押しかけて遊ぶのが好きな級友は珍しくなかった。ただ、あまり多人数だと気疲れするので積極的にそういう集まりに参加することはなかった。
「同じく。こういう風に二人でゲームでもやってるのが性にあってるわ」
今プレイしているのは、昔からあるらしい鉄道をモチーフにしたすごろく型対戦型ゲームだ。プレイヤー(四人まで)はスタートの時に資金1億円を渡され、ゲーム終了時にもっとも多くの資金を持っていたプレイヤーが勝利。初心者も楽しめるけど、カードを使ったライバルプレイヤーの妨害、一発逆転狙いの駆け引き、貧乏神のなすりつけあいなど、スキルがあればあるほど楽しめる奥深さもある。
「ほいっっと。ようやく貧乏神とおさらばか」
ちょうど近くのマスに宗吾がいたので、通り過ぎざまに貧乏神を押し付ける。貧乏神はプレイヤーに取り憑いて、毎ターンなにかしらの不幸を呼んでくる存在なので、できるだけ早くなすりつける戦略も重要だ。
「……うーん、おまえってさ」
「どうかしたか?」
「貧乏神にとりつかれても、悔しがることなく、淡々としてるなあと」
「近くならカードでも何でもつかってなすりつける。遠くなら諦めて目的地まで最短で突っ走るとか。やることは大体決まってるだろ」
百合とこのゲームをプレイしたときも、割と淡々としていた記憶がある。
「高校の頃から思ってたけどさ。百合さんにしろお前にしろやっぱ頭いいんだよな」
「ん?百合はともかく俺は言うほどじゃないと思うけど」
「いやいや。百合さんはまた別ベクトルとしてだ。お前も「読み」が上手いんだよ」
「読み」か……。
「意識したことはないけど。まあそういうとこはあるかもな」
小さい頃から器用だとよく言われてきた。
「ところで、今日はせっかくだからちょっと相談があったんだけど、いいか?」
難しいことを考える必要もないゲームだ。
画面にときどき目を向けながら問いかける。
「ほぉ。あんまり俺に相談らしい相談なんてしたことなかったのに」
珍しいものを見た、とばかりに少しニヤリとする宗吾。
「そうかもな。で、相談ってのは百合へのクリスマスプレゼントなんだけど」
「ん?まだ決まってなかったのか?お前にしては珍しいな」
「夫婦になって初めてのクリスマスだろ。ちょっと迷っててな」
たまには友人の意見を聞くのも良いかもしれないと思ったのだ。
「といってもさすがに目星はつけてるんだろ?」
「そりゃな。ペアで使えるマグカップは発注済みだ」
クリスマス前日には届く手はずだ。
「いいと思うぜ、マグカップ。何か問題でもあるのか?」
「まあ、な。でも、見てみると意外と安くて、だけだと手抜き感が……」
「値段の話か。別にお前たちなら気にしなくても良さそうだけどな」
「それはわかってる。男としての意地みたいなもんだ」
百合をわっと(良い意味で)驚かせられるような。
そんなものが思い浮かばないのだ。
「夫婦なら、それこそアクセサリーや手袋、靴下なんかの衣類とかどうだ?」
「それも少し考えた。ネックレスは結構似合いそうなのあったし」
「ネックレスなら、それこそ安すぎず高すぎずで良さそうだけど」
「ただ、ネックレスは前にプレゼントしたんだよ。同じものも芸がないだろ」
「誕生日とかも含めりゃ色々送ってそうだな」
「そういうこと。付き合いが長くなってくると「前にも似たようなの送ったしな」て感じの多くなってさ」
できれば毎回違うものを、と考えてしまう。
「なら、一点ものってことで手作りの方向はどうだ?」
「被りを避けるならやっぱそうなるか……」
当然ながら、そっちも多少検討はしている。
「駄目なのか?」
「いや、手作りはアリだと思ってる。ただ、手作りの……たとえば、アクセサリーとか他の何かを送ったとして。百合に似合うかどうかちょっと自信がな……。家に置くものとしても、やはりデザインは気にしたいし」
百合はもちろん気にしないだろうけど。
「じゃあ、ちょっと方向性を変えて「思い出」はどうだ?」
「思い出?」
「そう。百合さんとは昔からの付き合いだろ。思い出に訴えるようなもの。たとえばフォトフレームとかさ」
「なるほどな……。それはありかもしれない」
スマホに撮りためて。
クラウドに保管されている二人の思い出が残る写真はいっぱいある。
それをフォトフレームという形で一緒に見返せるなら。
「だろ?それこそ、昔の写真を色々放り込めば二人で楽しめそうだしよ」
「よし。じゃあ、もう一つはデジタルフォトフレームにしよう」
ようやく納得の行くプレゼントが決まってほっと一安心だ。
「お役に立てたようで何より」
「ありがとな。ほんと助かった」
「ところでさ。クリスマスは二人でホテルなんだろ?」
「ああ。まさか猥談系の話か?」
「いや、そっちの話が苦手なのはわかってるから。百合さんがはしゃいでお前が苦労してそうだなって思っただけ」
「ホテルにゲームセンターもあるしな。夢中になる可能性も否定できない」
猫のように気ままな彼女のことだから。
「その割には嬉しそうだよな」
「好きな人が楽しんでくれたら嬉しいものだろ」
だいたい、百合がちょっと変なことをするのだって昔からのことだ。
今更気にすることでもない。
「はいはい。ご馳走様」
なんか呆れた顔だけど。
「お前もクリスマスは優と過ごすんだろ」
「もちろん嬉しいけど、色々気恥ずかしさがあるんだよ。お前らと違って」
「はいはい。読めた。またバカ夫婦だの何だの言うんだろ」
「そんなことまで先読みしなくていいっつーの」
そんな馬鹿話をしながら友人の家で過ごす夜は更けていく。
(さてさて。クリスマスはどうなることやら)
きっと、また予想の斜め上のことが起きるんだろうと。
半ば諦めつつ、楽しみにしている俺だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます