第98話 クリスマスのプレゼントを考える私

「クリスマスプレゼント……どうしよっかな。優ちゃんはもう決めた?」


 クリスマスまであと十日ほどになったとある夜。来客部屋にて、幼馴染である優ちゃんこと、春日優かすがゆうに問いかけてみる。


「それは当然よ。むしろ百合ゆりがまだ決めてないことの方が驚き」


 今夜は旦那さま……修ちゃんは家にいない。優ちゃんの恋人であり、修ちゃんの友達でもある川村宗吾かわむらそうご君の家で夜通し遊ぶらしい。それならというわけで、優ちゃんを我が家に招いてお泊りということになったのだった。


「プレゼント、修ちゃんに変化球はナシって言われて、直球でいくって言っちゃったんだけど、直球ってどうすればいいんだろって考え込んじゃって」

「百合も変なところで悩むわね。今までも渡してきたんでしょ?」

「それはそうなんだけどね。今まではどうだったかな……」


 受験前、高校二年のとき、その前を思い出す。


「高校一年のときがお洒落なカスタムメイドUSBメモリ。二年のときが……恋人になった後だから、らしいのにしようと思ってマフラー。受験前は特製合格祈願のお守り」

「マフラーは普通ね。マフラーだけは」


 案の定、渋い顔をされてしまう。


「修ちゃんはちゃんと喜んでくれたし、別にいいでしょ」


 私だってちょっと変わったものを送ってるというのは百も承知。


「もちろん、あなたたち二人の問題だから好きにすればいいけど。でも、悩む必要ないんじゃない?百合が考えたもののなら、何でも修二君なら喜んでくれるでしょ」


 今は友達の家で遊んでいる旦那様の顔を思い浮かべる。ちょっと変なものでも「百合らしいな」と笑って受け取ってくれる姿が目に浮かぶ。


「それはそうだけど……」

「悩まずにそう言えるのが、あなたたちらしいわよね」

「馬鹿にしてる?」

「別に。むしろ羨ましいくらいよ」

「とにかく。直球って言っちゃったから、お嫁さんらしいクリスマスプレゼントを選びたいんだけど」

「だけど?」

「検索してみると、バッグとかハンカチとか、時計とか色々でてくるんだけど……ありきたりじゃない?」


 直球とは言ったものの、なんとなくしっくりこない。


「ありきたりでいいと思うんだけどね……要は修二君への気持ちがもっと伝わるのがいいってことよね」

「そうそう。直球とありきたりは少し違うと思うんだ」

「なら、あんまり日数はないけど何か手作りのものをあげるのはどう?」


 手作り、かあ。確かに直球でそれでいて気持ちが伝わるかもしれない。


「私がプレゼント!とか?」


 額に手を当てて呻く優ちゃん。


「直球どころか変化球過ぎでしょ!というか、クリスマスの夜、ホテル予約したんでしょ?そっちの方は別にやるんじゃないの?」

「ヤるって……優ちゃん、いやらしー」

「茶化さない!たとえば、手編みの手袋でもいいし、既製品にちょっと味付けするなら、バッグにちょっとした刺繍を入れるとか。名入りボールペンっていうのもあるみたいね」


 スマホに目を落として何やら眺めている優ちゃん。こういう風に真剣に相談に乗ってくれるところがやっぱりいいところだ。


「手間かかりそうな気がするけど、間に合うかな?」

「調べてみると、作り方動画もあるし、ものによっては手作りキットもあるみたい。なんとかなるんじゃない?」

「むー。手作り路線……やっぱりそっちかな」


 毎年のクリスマスプレゼント自体、二年のときのマフラーをおいとけばだいたい手作りだった気がする。


「そうそう。講義で使うこと考えて、特製ボールペンなんかも悪くないと思うわよ」

「そうだよね。どうせなら普段遣いしてもらえるのが嬉しいし……」


 ただ、特製ボールペンも悪くないんだけど。


「もう一捻り……」

「直球でって言われたの忘れたの?」

「だって。せっかく夫婦になってから初めてのクリスマスプレゼントだから……」

「夫婦、ねえ。それなら、ペアで使えるものはどう?」


 ペアで使えるもの。確かにそれなら。


「それいいかも!お揃いのキーホルダーとか、あとは講義のときに使うボールペンがお揃いっていうのもなんだか嬉しいし」


 うん。この方向性・・・ならしっくり来そう。


「ふう。ようやく決まりそうね」


 肩の荷が降りたとばかりにため息をつく優ちゃん。


「ありがとうね。色々アイデア出してくれて」

「付き合いも長いからね。百合が変なことで悩むのもよくあることだし」

「優ちゃんはやっぱり姉御だよね」


 なんとなくうれしくなって、同い歳で面倒見のいい、昔からの友達にぎゅっと抱きつく。


「ちょ、ちょっと」

「たまにはいいでしょ」

「私には別に百合ゆり趣味はないからね?」

「駄洒落?」

「……」


 おふざけが過ぎたみたい。いい加減にしろとばかりに睨まれてしまう。


「冗談冗談。ちょっとしたスキンシップだってば」

「ま、いいけどね」

「そういえば!優ちゃんはどんなクリスマスプレゼント送るの?」


 少し気になってはいたのだ。


「手編みのマフラー」

「……きっと喜んでくれるよ」

「百合に生暖かい目で見られると少し腹が立つんだけど」

「なんで?」

「なんでも!」


 賑やかに談笑しながら過ぎていく、クリスマスを目前に控えた夜。


(修ちゃんはどんなプレゼントをくれるんだろう)


 同じ空の下にいる旦那様を思いながら、親友と二人で過ごす私だった。


☆☆☆☆第90話あとがき☆☆☆☆

これからコツコツ更新再開していきます!

完結までこのまま突っ走れればと思いますので(久しぶりですが)応援コメントなどお待ちしております。

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