第17章 冬本番
第97話 今年のクリスマスは
「あー。やっぱり長風呂だとのぼせるな」
一緒にお風呂に入った俺と百合。水着は……別になにかするわけでもないし、ということでワンピースタイプで大人しめのものを着てもらった。
「やっぱり修ちゃんは露出低めのが好きだよね」
わかったように言われたのが少しシャクだったけど、その通りなので返す言葉もなかった。
で、一緒にお風呂に入りながら雑談をしていると自然と長風呂になるわけで、例によってのぼせた俺はベッドに横たわって、スマホの画面を見上げていた。
隣には何やらパズルゲームをポチポチとやっている嫁さんだ。
(クリスマス……どうするかな)
二人で聖夜にホテル。そんな「いかにも」な過ごし方をしてみようということになったのはいいものの、ホテルごとに特色のあるプランがあって目移りしてしまう。
「クリスマスのホテルだけどさ。どうする?」
スマホをポチポチしている百合に聞こえるようにはっきりと言う。
「せっかくだし、なにか面白いところ行きたい!」
面白いところって……ムードのあるところとか夜景のきれいなところじゃなくて、面白そうが基準なところが彼女らしい。
「面白い、ねえ。ディナーショーとかあるけど、そういうのか?」
クリスマスにホテルで公演、なんてことまでするところもあるらしい。
ムードのあるホテルで劇を見るなんてのも確かにいいかもしれない。
「うーん。それよりもテンション上がるような何かがいいな」
「テンションねえ。こことかどうだ?氷の彫刻が展示されてたり、おもちゃの電車なんかも展示されてるみたいだぞ」
ぽいっとスマホを手渡す。そこのホテルの売りは多彩な展示物で、カップルの目を楽しませることを意識しているようだった。
「うんうん。浴槽も広そうだから色々できそうだし、ゲームセンターが中にあるのも楽しそう!」
(ゲームセンター……)
百合のことだから、目をつけるのがどこかしら変わったところなのはわかっていたけど、クリスマスにメダルゲームに興じる……いや、もっと悪ければ対戦ゲームに興じているかもしれない、そんな姿を想像してぷっと少し笑ってしまう。
「旦那様。何か言いたそうだけど?」
笑ったのが聞こえたのか、それとも表情から何かを読み取ったのか。
わざとらしく頬を膨らませて抗議の視線を送ってくる百合。
「何も。クリスマスの夜にゲーム機にかじりついてる嫁さんの姿を想像してただけ」
「スロットマシンとかちょっとだけやってみるのもいいかなって思っただけ」
「どうだろうな……」
「修ちゃんは私のことが信用できないの?」
「いや、信用してるけど。夢中になったら他のこと忘れるのも百合だし」
「むぅ。否定はできないけど……」
渋々と頷く百合の不満顔もどこか可愛らしい。
「とにかく。じゃあ、このホテルで予約取ってみるか?」
「うん。せっかくだし、一番眺めが良くて豪華な部屋をお願い♪」
ごろんと転がってきて、後ろから抱きしめながらの蠱惑的な言葉。
ある意味百合らしからぬ「おねだり」にちょっとうれしくなってしまう。
(俺も単純だよなあ)
幸い、最上階のロイヤルスイートルーム(部屋での夕食コースと翌朝の食事付き)という、おあつらえ向きの部屋が残り一部屋空いていたのですかさず予約。
「ほい。百合のメアドにも予約転送しといたから」
予約した部屋の案内をじーっと見ていた百合はといえば。
「うわー。ほんっとに恋人同士で過ごすクリスマスのための部屋って感じだね」
「そりゃそうだろ」
「すっごく楽しみになってきた。ありがとね」
なんて言いながら頭をすりすりとこすりつけてくる。
甘いシャンプーの香りがしてきて、不覚にも少し照れてしまう。
甘え方のバリエーションが増えてきたというか、なんていうか。
「ねえねえ。こっち向いて?」
甘ったるい声で誘ってくる百合。振り返ったら何をしてくるか。
薄々想像しながら向き直ると、ちゅっと唇に冷たい感触。
「こういうのも、なんかいいよね」
「クリスマスのプレゼント、今から考えとかないとな」
「私もとびっきりのを考えとくから楽しみにしといてね?」
いたずらめいた笑みはいつもの彼女のもの。
「できれば変化球はナシでな」
「むう……わかった。直球ストレートなのを考えておくから」
「直球ストレートと言われると、それはそれで不安になってくるんだけど」
「修ちゃん、それはちょっとわがままじゃない?」
「これまでのお前の行動見ると、な」
「ちょっと変な子だからね♪」
「開き直るなって」
そんな風にじゃれあいながら、夜を過ごす俺たちだった。
クリスマスのデート、果たしてどうなることやら。
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