第96話 12月のはじめに
キーンコーンカーンコーン。
6限目の終了を告げるチャイムの音が鳴る。
「では、予告した通り、来週は小テストをしますので。今日もお疲れ様でした」
まだ年若い講師の先生が一礼をして出ていく。
今受けていたのは離散構造で、二学期の講義もいよいよ後半戦。
やっと講義が終わったーと伸びをしていると、
「グラフ構造か……難しいわけじゃないけど、まだピンと来ないな」
ポツリと旦那様のつぶやき。
「うーん。でも、現実世界のことはかなり色々グラフで表せそうな気がしない?」
今日の講義では「グラフ構造」について教わった。
「そうそう。たとえば、Twitterのフォロワー関係なんかもグラフで表せるよ!」
こういう話題になると急にウキウキし出すのは
「陽毬はまたこういう話題になると急にテンション高くなるんだから」
ため息をつきつつ応じるのは
「まあまあ。でも、確かに相互フォローとかの関係もグラフで表せるな」
「うんうん。たとえばこんな感じだよね」
修ちゃんの講義ノートに書き込んでみる。
涼介君 <-- [恋人] --> 陽毬ちゃん
^ ^
| [友達] | [友達]
| |
v v
修ちゃん <-- [夫婦] --> 私
「
我ながら即席でよく出来た、と思ったのだけど。
「……間違ってはいないけどさ」
「こういうふうに具体的に書かれると、ちょっと、な」
何故か修ちゃんと涼介君は少し渋い顔。
「夫婦って響き、やっぱりいいですよねー」
「陽毬ちゃんも涼介君といつかそうなるよ」
「だと嬉しいんですけどねー。どう?涼介君は」
陽毬ちゃんはと言えば涼介君に何やら意味深な視線を送っている。
「そりゃ、このまま付き合いが続けば……とかいちいち言わすな」
おお。涼介君が何やら照れている。
「男の子の照れてる顔ってちょっと可愛いかも」
「百合さんにもあげませんからね」
冗談めかして涼介君の前に立ってガードする陽毬ちゃん。
付き合い始めてもう一ヶ月以上だろうか。
(だいぶラブラブな感じになったね)
(ま、骨を折ったかいがあったな)
旦那様とこっそりささやきあった私たちだった。
「じゃあ、また来週ね。お二人とも、ラブラブな週末をー」
講義棟を出たところで私たちは解散。
「百合さん。そういうのちょっとやめて欲しいんだけど」
「えー。私たち、ラブラブじゃないの?」
「いや、そういうんじゃないけどさ……」
わいわいやってるカップルを尻目に私たちは退散。
「でも、だいぶ寒くなってきたなー」
「もう12月だもんね」
言いつつ、旦那様が羽織っているコートのポケットに手を入れてみる。
「んー。ぬくいー」
人肌のぬくもりを感じる。
寒いは寒いでこういうスキンシップが出来るのもまたよし。
「はぁ……」
仕方ない、とばかりに旦那様も私のコートのポケットに手を入れてくる。
「ぬくい?」
「まあまあ」
「ノリが悪くない?」
「まだ結構人目があるだろ」
私たちがいるのはまだキャンパス内。
同じく講義を終えて家路に帰る学生もちらほらだ。
「もうだいぶ暗いから、大丈夫。ね?」
12月の6限が終わる時刻といえば18時頃。
もう日も落ちて遠くのカップルが何しているかなんてよくは見えないはず。
私は見られても別にいいんだけど。
「なら、いいか」
「そうそう。寒い時だからこそこうしなくっちゃ」
「何が「だからこそ」なのかわからないけど」
結婚してもう半年以上になるけど、こういう些細なスキンシップを幸せに感じる私がいて、新婚さんしてるなーなんて思ったりする。
「そういえば、12月か……。クリスマスももう少しだな。どこか行くか?」
キャンパスを出たばかりのところでつぶやく修ちゃん。
ちなみに、お互いのポケットに手を入れたままだ。
「うーん。夜景の見えるホテルとか?ホテル代は出すよ」
高校生のときはする機会がなかったけど。
バイト代も貯まってきたことだし、ドラマなんかで見たことのある、
恋人同士の聖夜というのに少し憧れもある。あ、夫婦か。
「それ、いいな。バイト代は百合程じゃないけど出てるし、割り勘にしよう」
「今から楽しみになってきたよー」
我が家でぬくぬくとクリスマスもありかなーとは思うけど。
結婚して初めてのクリスマスだから、ちょっとしたあこがれもある。
「それにー……前に買ったアレ、まだ使ってみてないもんね」
ダブルデートの時に買ったアレだ。※第94話参照
「いや、さすがにクリスマスに使うのはどうなんだよ」
「それもそっか。ところで、今日は一緒にお風呂入らない?」
我が家の浴槽凄く大きいわけじゃないけど、大人二人が
向かい合ってくらいならできなくもなくくらいの広さだ。
「お義母さんたちいるだろ……」
「今日は二人で外泊だって」
「なんでまた急に?」
「たまにはお母さんたちも、二人で小旅行行って来たら?ってけしかけてみたの」
「それなら、まあ……」
少し頬を赤くしている旦那様が妙に可愛らしい。
思わずぎゅっと横から抱きしめてしまう。
「ちょっとお前な。人が見てるっつうの……」
「いいでしょ?こういうのも新婚夫婦の醍醐味」
「否定はしないけどさ。ちなみに普通に一緒に入るだけだからな」
「別にそれ以上でもいいよ」
「単純にのぼせるんだよ。前のホテルでのこと覚えてるだろ」
確かに……。
「じゃあ、じゃあ。一緒に入るだけでいいけど、着て欲しい水着とかある?」
「待て。そんなに種類ないだろ」
「そう思う?こんなこともあろうかと色々と揃えてみたんだけど?」
プール用の奴に高校の頃使った奴。それだけじゃなくて、
実は見せる用の水着という奴をいくつか買ってあるのだ。
「……なんでこんな嫁さんを選んでしまったんだか」
「飽きなくていいでしょ?」
「水着については帰ってから相談させてくれ」
「……ふふ。一緒にお風呂ー♪お風呂ー♪」
なんとなくウキウキしてきた私は、わけのわからない
鼻歌を歌いながら二人ですっかり暗くなった道を帰ったのだった。
☆☆☆☆あとがき☆☆☆☆
かなり久しぶりの更新です。
リアルの季節=夏と正反対の冬のお話ですが、楽しんでくださると嬉しいです。
応援コメントや★レビューなんかもお待ちしてます!
☆☆☆☆☆☆☆☆
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