第92話 ダブルデートその3~きっかけのお話~
「うー……予想外過ぎるよー。優ちゃん」
唸り声をあげてしまうくらいには。
「確かに説明しろと言われても困るよな……」
さすがに旦那様としても、どう言ったものかもにょもにょらしい。
「ま、約束は約束だからな。俺もせっかくだから細かいとこ知りたいな」
「そうよ。付き合った直後に話は聞いた気がするけど、結局何が決め手だったの?」
「うーん……」
この話は本当に困ってしまう。
「なによ。そんなに恥ずかしい話なの?」
考え込んでいるのを恥ずかしいと勘違いしたらしい。
訝しがる優ちゃん。
「そうじゃないんだけど……呆れない?」
「別に百合のことだし、今更ちょっとやそっとじゃ呆れないわよ」
「なんだかんだ、俺も百合さんの破天荒なところは見てきたからな」
負けは負けだし、仕方ない、か。
「好きになったきっかけだけど……はっきりとはわからないの」
これを言わないといけないのは微妙に気まずい。
「ええ?それはさすがに嘘よね」
「二人が付き合い始めたのって、俺らのクラスで修二が百合さんと付き合ってるんじゃない?みたいな噂が出てた頃だよな。その頃に何かあったんじゃないのか?」
ああ。そうか。宗吾君は当時の修ちゃんと同クラスだったっけ。 ※1、2話参照
「あったといえば、あったんだけど、思い返してもアレは最後のひと押しというか」
なあ、と目配せする旦那様。
「だよね。お互い、付き合ってもいいかなと思えるくらいだったし」
さらっと言っているけど、あの頃のことは思い出すと少々恥ずかしい。
「はっきりしない話だな。お付き合い一歩手前だったのを俺たちの噂が後押しした、みたいな?」
普通はそう取るよね。
「お付き合い一歩手前……言葉にすればそうかもだけど」
自分のことだっていうのにうまく言葉にならない。
「あれなー。言えばOKしてくれるんじゃないか、と思ったことはあるけど」
「修ちゃんとそのまま仲良くいられれば十分、くらいだったんだよね」
ひょっとしたら関係が変わるのが怖いというのもあったのかもしれないけど。
でも、それは置いておいても……。
「なんだか流れが見えてきた気がするんだけど」
「優ちゃん……」
「その時は既に両想いだったけど、別に交際しようと思わなかっただけ、てこと?」
私のちょっと変なところを見ている優ちゃんは何かに思い至ったらしい。
「そういうこと。中三くらいの頃には、なんとなく好きだった気はするけど。でも、はっきりきっかけって言えるほどの何かはないんだよね」
小学校高学年の頃にかけたもらった言葉や一緒に遊んだ日々。
一緒の高校に行けないかもしれないと思ったときの寂しさ。
そういうんのが影響したのかもしれないけど、結局、はっきりしない。
「……呆れた」
「さっき呆れないって言った気がするんだけど?」
「別に恋愛小説みたいなドラマチックな話を期待してたわけじゃないけど、もっとそれらしいきっかけくらいはあると思ってたのよ」
「人の恋愛にそんなもの期待されても困るんだってば」
にしても、私の事ながら、きっかけと言える程の大きな何かはやっぱりない。
「で、旦那としては当然聞いてたわけでしょ?どう思ったの?」
私を問い詰めても無駄だと悟ったらしい。
修ちゃんに矛先を向ける優ちゃん。
でも、それは意味がない気がする。だって……
「百合らしいな、とは思ったけどな。でも、俺も人のことは言えないしな……」
「え。修二君にだってきっかけくらいあるでしょ」
「百合よりはあるっちゃあるよ。こいつ、中学生以降も普通に好きとかいいながらハグしてきたりしたわけで。そういうのがきっかけになった部分もあるし。でも、はっきり好きと自覚したのがいつかと言われると正直言って困るな」
考えてみれば、当時の私は一体なんてことをしてたんだろう。
「そのくらいの距離感だったら、当然学校でも噂にもなるわよ」
「優ちゃんもそう思う?」
「同じく。百合さんの方は天然っていうか……そういうとこあったかもだけど」
なにげにひどいことを言われている気がする。
「修二君はそういうことされてドキっともしなかったわけ?」
「いやいや。さすがに照れ臭かったって。でも、まあ、百合だし」
「私だし、で全部解決するの?」
今更ながら、昔の私は周りからどう見られていたのか気になってきた。
「結論だけど、百合がどうしようもないのはわかってたけど、修二君も大概ね」
「ある意味お似合いかもだけど……両想いなのわかってたのに、付き合ってなかったのは、なんていうか別世界だな」
二人とも、どうコメントすればいいか困ったような表情だ。
「とにかく。というわけで、はっきりしたきっかけはないけどこれで満足した?」
「満足というか……まあいいわ。二人には二人の世界があるってことだものね」
「二人がバカップルやってる理由の一端はわかった気がするな」
そんな、微妙にテンションが下がった頃合いにようやく食事が運ばれてきた。
良かった。ちょうどお腹も空いてたことだし。
「ほら!ご飯食べて、ダブルデートの続き行こ?」
「珍しく百合に無理矢理感漂ってるわね」
優ちゃんからがんがんツッコミが入るけど、期待したような恋バナを聞けなかったのが不本意なのかもしれない。
「まあまあ。飯食いながら午後の予定でも話さないか?」
「賛成。俺もお腹へったし」
こうして。
時折話に出る「きっかけ」の話ははっきりしないまま終わったのだった。
(でも……)
ここまで言われると私のことながら少し気になってくる。
なんとなく、て思ってたけど、決定的なイベントでもあったりするんだろうか。
(ま、いっか)
あったらあったらでいつか思い出すかもしれないし。
なかったらなかったでなんとなく。
考えてもわからない事は気にし過ぎない。
気持ちを切り替えて、ハンバーグ定食を頬張り始めた私に、
「そういえば、午後はぶらぶらって感じだったけど、結局どうする?」
午後の予定について話し始める旦那様だった。
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