第91話 ダブルデートその2~ボウリング勝負!~

 というわけで、3ゲームでボウリング勝負をすることになった俺たち。

 早速空いているレーンに案内され、各々ボールを選んたところで、


「あ。ちょっと私着替えてくるわね」


 そう言って、優が何やら手提げ袋を持って去っていった。

 

「ん?……って、ああ。そういうことか。優の服だと動きづらいよな」


 百合とボウリングをするときは両方とも動きやすい格好をしてくるのが普通だったので気が付かなかった。


 って、何か忘れているような。

 ふと、百合の方に視線をやると大きく目を見開いて、口をパクパクしている。


「しまった……!着替え持ってきてなかったよー」


 あああーと頭を抱える百合。


「動きづらいのもだけど、結構汗かくんじゃないか?」


 心配になってきた。


「百合さんにあうようなインナーなんて貸し出してないだろうしな」


 隣の宗吾そうごも心配そうだ。


「違うの。インナーは着替え持ってきてるけど、この服、結構動きづらいの……!」

「そういうことか!」


 百合の今日のファッションは清楚系をイメージしただけあって、膝下まである長いスカートだ。どう考えてもボウリングには向いていない。


「どうする?ひとっ走りすればジャージくらいなら買って来れるけど」


 駅近だけあって、衣料品を扱う店はいくつもある。

 ジャージくらい置いてあるはず。


「……うーん。皆に悪いし、このまま続行する!」

「百合がそれでいいなら。でも、こけないように気をつけろよ?」

「うん。それはいいんだけど、かなり不利かも……」


 百合としては目下の関心事は勝ち負けらしい。

 

「百合さんって結構負けず嫌いだったりするのか?」


 隣の宗吾が耳打ち。


「実はかなり」


 そういう、どこか子どもっぽいところも百合らしさだけど。


「あれ?百合、どうかしたの?」


 更衣室から戻ってきた優が不思議そうな表情。


「ううん。着替え忘れたけど、問題ないから」

「……大丈夫?」


 優も心配になってきたらしい。


「大丈夫。これも含めて勝負だから!」

「もう。百合はそういうとこも変わらないんだから」


 ため息をつく優。


「これでさらにハンデついたわけだし、百合が負ける可能性も高いんじゃないか?」

「負けるつもりはないから……投球フォームを工夫すればなんとか」


 意地になってるらしい。

 他の二人と目配せをすると苦笑いだ。


 ともあれ、こうしてハンデをでかくしたボウリング勝負が始まったのだった。


 一番手は百合。果てさて、どうするのか少し心配になりつつも見守ると、


「……えいっ!」


 転ばないようにゆっくり歩いての投球。

 コントロールはさすがだけど勢いがない。


「あー。端っこ残ったか。辛いな」


 両端を残して倒したピンは6本。

 なんとかめげずに次で2本を倒したもののスペアならず。


「どんまい、百合」

「むー」


 必死で次はどうしようか頭を巡らせているらしい。

 俺の言葉も届いてないらしい。


 次の番は俺。


「せい……!と」


 久しぶりだけど、投球フォームは身体が覚えているらしい。

 無事、スペア獲得。


「よし。まずまずだな」

「おめでと!」


 相方とハイタッチ。

 とはいえ、百合の顔は浮かない。

 

 三番目は宗吾そうご

 危なげなくスペアを出して、


「さすがね!」

「それほどでも」


 あっちはあっちで恋人同士でのハイタッチ。

 

 最後は優の番だ。

 

(そういえば、優の投球フォームはちょっと独特だったな)


 球速が出ないから色々工夫したと中学の頃言ってたっけ。

 ジャージに着替えた優はたたたっと助走をつけて……玉を「置いた」。

 ゆっくりと向かっていくボールはガガガッと全てにピンを倒してストライク。


「ふふ。幸先いいわね」

「優さんもさすが」


 とやっぱりハイタッチする二人だ。

 一方、うちの嫁さんはどうかというと……じっとレーンを睨みつけていた。


「最初からこれだと結構きついかも……」

「まあ、百合はその服だと全力出せないだろうしな」


 結局。

 1フレーム目は、百合が8、俺と宗吾がスペア、優がストライク。


(これ、百合が最下位で優がトップってのもありえるかもな)


 元々、ハンデがついている上に初回からストライクと調子がいいらしい優。

 調子がブレると言ってたしな。


 対して、服のせいで色々制限つきの百合。

 調子云々以前にそもそも不利だ。

 しかも、後の祭りだけど、ハンデをあげての勝負だ。


 結局、1ゲーム目は、

 優>俺>宗吾>百合

 という順番だ。

 

「あー。これはさすがに勝負あったな」


 優のスコアが120で百合のスコアが110。

 3ゲームして最高のスコアが得点になる優と、

 最低のスコアが得点になる百合。


 俺たちはともかく百合が勝てる目はなくなった。


「お願い、旦那様。なんとか勝って……!」

「そんなに優に勝たせたくないのかよ」

「だって、一体何を聞かれるか……」

「なら賭けなんてしなけりゃ良かったのに」

「だって……着替えのこととか忘れてたもん」

「まあ、頑張ってみるけどさ」


 しかし、そもそも勝負にこだわっていなかった俺は、

 百合ほどじゃないけどハンデをあげてしまっている。


(俺が勝つより宗吾が勝つ方がありそうだな)


 心の中でそんなことを思いつつ勝負を続行したわけだけど。

 最終結果は、

 宗吾 > 俺 > 優 > 百合

 という順番だった。


「なんか勝っちまったな」


 女同士の勝負に水を差した気分なんだろう。

 そこまで嬉しそうでもない宗吾に。


「おめでとう、宗吾君!質問は例のやつで」

「了解」


 ん?


「なあ。ひょっとして談合してたのか?」

「結果によってはね。百合に質問できるまたとない機会でしょ?」

「優も今回は大人げないな……恋人としてはどうなんだ」

「ノーコメントで」


 なんだかんだで仲の良い恋人同士の二人だ。

 まあ、宗吾としてもこのくらいは可愛いもんだろう。


「優ちゃん、ちょっとそれはずるいと思うんだけど?」

「百合だって昔、勝負するときは卑怯なことしてきたと思うわよ」

「それ、小学校の頃のことじゃない」

「百合が入ったゲームはたいがいロクなことになってなかった気がするけど」

「それは……小学生のやることだし」


 身に覚えはあるんだろう。目をそらす百合だ。

 確かに、ボードゲームの類でも最下位になれば腹いせとばかりにトップを狙い撃ちするようなことをよく百合はやっていた気がする。


「そういえば、小学校の頃の百合は色々やってたなあ」


 頭も運動神経も良い百合だって小学生の時分なら負けることだってある。

 そういうときは、決まって勝った奴への嫌がらせプレイをしていた。

 すっかり忘れてたけど、昔の百合の負けず嫌いは今以上だったのだ。


「修二も結構大変だったんだな」


 何故か同情の目で肩をぽんと叩かれる。


「別に百合のことだしな」

「いくら夫婦と言っても修二もたいがい寛容だよな」

「そうよ。ほんと、昔から百合には甘かったんだから」

「そこまで甘かったつもりはないんだけどな」


 ただ、幼馴染の優から見ればそうでもないらしい。


「まあいいや。とにかく、移動した後、質問タイムと行こうぜ」

「了解」

「……むー」

「これだけ悔しそうな百合は久しぶりね」


 ボウリングを終えた俺たちは、ちょうどお昼どきということで

 予約していた飲食店に。

 各々が好きなものを頼んで、料理を待つ間のこと。


「というわけで、優さんからのリクエストということで質問いいか?」

「まあ、百合が言い出したことだしな」

「……わかった」


 百合は不服そうだけど、負けたのだから仕方がない。


(一体、どんな質問が来るやら)


「「あなたが修二君を好きになったきっかけってどんなだったの?」だってさ」


 微妙に口元をもにょもにょさせる宗吾だった。


(そう来たか)


「うー……予想外過ぎるよー。優ちゃん」


 百合の反応は予想通りと言うべきか。

 どう言えばいいか困っているようだった。


(ま、そりゃそうだよな)


 さて、百合はどう答えるやら。

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