第90話 ダブルデートその1

 優ちゃんたちとのダブルデートの約束をしてから数日経った土曜日。


 私たちはいつものように駅前の時計台に来て優ちゃんたちが到着するのを待ってい た。わかりやすい目印が駅前にあるのは便利。 


「にしても……」


 さっきから修ちゃんが私の方をまじまじと見つめてくる。

 なんだか少し恥ずかしい。


「何?」

「いや。清楚系?いや、お嬢様系?やっぱ普段とイメージ違うなって思っただけ」


 心なしか照れているような気がする。


「……似合う?」


 今日着ているのはダブルデートに備えて新調した冬物。

 お嬢様風、というのに惹かれて挑戦してみたのだった。

 ネックレスも以前プレゼントしてもらったものを身に付けてみたのだけど、朝、家を出るときはあんまり反応がなかったから、実は少し落ち込んでいた。


「正直、意外なんだけどかなり似合ってる。最近買ったのか?」

「せっかくダブルデートだからね。朝、無反応だからちょっと落ち込んでたの」

「いや、悪い。感想を言うタイミングを逃したんだよ」


 髪の毛をポリポリとするのは照れているときの癖だ。

 

「そっかー。そんなに似合ってる?」

「まあ。百合に以前プレゼントしたネックレスもつけてきてくれたんだよな」


 旦那様がちゃんと見てくれていたことがわかって、テンションが上がる上がる。


「ありがと。修ちゃんのも似合ってるよ」

「俺は自信ないし、冬物を店員さんに見繕ってもらっただけだからなあ」

「それでも似合ってるからいいの!」


 修ちゃんもダブルデートを意識して、普段と違うのを新調してくれたんだ。

 その気持ちがとっても嬉しい。


 手持ち無沙汰で……というわけじゃなくて、何となく待っている間、手を繋ぎたくなって、ぎゅっとする。と、何も言わずにぎゅっと握り返してくれた。


「修ちゃんの手、温かいね」

「百合の手はちょっと冷たいな」


 暑がりなことと関係あるのかわからないけど、修ちゃんの手はいつも温かい。

 反対に私の手は結構冷たい。

 

 もうすぐ12月でだいぶ寒くなってきたけど、駅前は相変わらず人通りが絶えなくて、地方都市としては結構栄えてるんだなあというのがわかる。


「もうそろそろかな?」


 時計を見ると待ち合わせ10分前。

 優ちゃんは時間にきっちりする方だし、もうそろそろ来るはず。

 と思っていたら、駅に向かって歩いてくる一組のカップル。

 パステルピンクのワンピースに白のジャケットを羽織ったゆうちゃん。

 それと。

 長袖の灰色のパーカーに黒のコート、

 カーキ色のパンツといった出で立ちの宗吾そうご君。

 そして、二人とも手をしっかり繋いで歩いてくる。


「お待たせ!二人とも!」


 とおもったら、ぱっと手を離して手を振ってくる優ちゃん。


「別に恥ずかしがらなくても、手を繋いだままでいいのに」


 きっと恥ずかしくなったんだろうけど。


「百合も言うようになったわね」


 妹分が生意気な、という感じの優ちゃん。

 

修二しゅうじもお待たせ」

「ま、たまのダブルデートだからな。ちょっと早めに来ただけだって」


 まだ午前10時前だから少し肌寒い。


「早めにボウリング場入っちゃわない?」

「だな。俺もちょっと寒い」


 今日は特に寒い。

 早めに屋内に入ってしまいたいのが本音だった。


「そうね。じゃ、行きましょうか。宗吾君も」

「ああ」


 というわけで連れ立って、駅から徒歩5分のビルにあるボウリング場へ。


「そういえば、優たちのスコアはどのくらいなんだ?」

「あ。私もそれ気になる!」


 ボウリングをやるとは聞いていたけど、実力はどのくらいなんだろう。


「私は120くらいかしら。悪いときは100切るけど」

「俺は130くらいかな。そっちは?」


 二人から問われて、最近、ボウリングやってなかったことを思い出す。

 最後にボウリングやった高校の頃だと確か……。


「私が160くらい?」

「俺は140くらいだったかな」


 お互い、高校の一時期、スコアを上げるために結構練習したっけ。


「うげっ。二人とも上手いじゃん」

「最後に一緒にやったのって中学の頃だったかしら。随分上手くなったわね」


 苦い顔をする二人。


「俺は割と調子ブレるんだけどな。百合は安定して強いぞ」

「んふふー。それほどでも?」


 これなら半ば勝ったようなものかもしれない。

 でも、せっかくボウリングをするのだから面白いことをしたい。

 ふと、いいアイデアを思いついた。


「ねえねえ。賭けしない?」


 早速思いつきを二人に持ちかけてみる。

 隣の修ちゃんは苦笑いだ。


「それ、明らかに私達が不利でしょ。特に百合に勝つの絶望的じゃない」

「そうそう。修二にはワンチャン勝てるかもだけど、ちょい分が悪いぞ」


(予想通り)


 さすがに二人とも、実力差があるとなっては乗ってくれない。


「じゃあじゃあ。ハンデ戦はどう?私は-30点するから」

 

 言いつつ隣の旦那様に目配せをすると、


「じゃあ、俺は-10点ってとこで」


 これなら勝負になるはず。


「百合の申告が嘘じゃないのなら勝負にはなるでしょうけど……何を賭けるの?」


 明らかに警戒した目つきを向けてくる優ちゃん。

 さすがに付き合いが長いだけあって、よくわかってる。


「一位の人が最下位の人に何でも一つだけ質問できる、というのはどう?」

「それあからさまに百合が私を狙い撃ちに来てるでしょ……」


 渋い顔をする昔馴染みの姉御肌。

 

「じゃあ、じゃあ。どうしたら賭けに乗ってくれる?」


 ボウリングは多少は調子も絡むとはいえ、基本的には実力勝負だ。

 ハンデをつけたとしても、調子の振れ幅が大きい優ちゃんの分が悪い。


 優ちゃんはうーんと考え込んだかと思うと、


「3ゲームで百合は一番低いスコアが得点。私は一番高いスコアが得点。どう?」


 優ちゃんは聞く限り調子にブレが大きそう。

 なら、3ゲームして一番良いのを結果にするのは作戦としてアリだ。


「じゃあ、それでやろ?私が勝ったら色々聞かせてもらうからね?」

「私もこの際だから色々聞かせてもらおうかしら」


 こうして、晴れてボウリングでの賭けが成立したのだけど。

 

「なあ。修二は俺にどうしても聞いてみたいことあるか?」

「興味本位でいいなら。でも、どうしてもって程じゃないな」

「同じく。優さんがいいならいいんだけどさ」


 やる気が出てきた私達とは対照的に、あんまりやる気がなさげな、

 旦那様と昔馴染みの彼氏さんだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る