第89話 ダブルデートに友達を誘おう!
11月も下旬になって、いよいよもう冬も間近という今日この頃。大学のキャンパスへ向かっている最中のことだった。
「ねえ。
目を何やら輝かせてそんなことを聞いてくる。
言うまでもなく、優は俺と百合の共通の幼馴染にして、高校からの友達である宗吾と付き合っている。
「気になる、ねえ……。トラブルがあったとは聞かないし、順調なんじゃないか?」
二人の間で不和があっただろうかと考えても特に思い当たらない。四人で一緒に講義を受けるときだって和気あいあいとしてるし。
「そういうことじゃないの。二人っきりのときにどんな甘い言葉を囁いているかとか、実は優ちゃんが宗吾君にごろごろと猫みたいに甘えてるかもしれないとか。そういうのが知りたいの!」
腕を振り上げて力説する嫁さんだ。
「しかし、優もアレで恥ずかしがりなところあるし、宗吾もそういうとこあるだろ。百合がまた何か参考にしようとでも考えてるのは想像つくけど……」
とイマイチ気乗りしないことを伝えようとした俺だったけど。
「もちろん!だから、ダブルデートだよ!前に一度やったこともあったでしょ?」
※20話~22話参照
出歯亀するのは気乗りしないけど、そういう話なら。
「そういうことなら全然ありだけど、問題は場所をどこにするかだな」
前のダブルデートは夏だったからプール。
でも、今はもう冬目前。
かといってクリスマスシーズンじゃないからイルミネーションもまだだ。
「そうだよねえ……あ!」
何かを思いついたようにポンと手を叩く百合。
「ん?何かいい案でも思いついたのか?」
「ボウリング!仲良く四人でやるにはちょうどよくない?」
「ボウリングか……いいな。案外やってると素が出てくるもんな」
点数差がついたときや、逆転できたとき、ガーターが続いたとき、ストライクが続いたときとか、「惜しい!」「これさえ倒せば……」「なんで真ん中だけ残るんだよ」などなど、思ってることが口に出てしまうことも多い。
投球を見てる側にとっても意外と退屈しない。他のプレイヤーがストライクを出したら次がどうなるか気になるし、9本倒して1本残したらどうなるのか気がついたら見守っていたりする。
「そうそう。結構、ダブルデートに向いてると思わない?」
「今回は百合の意見に賛成だな。二人ともボウリング苦手とかなかったはずだし」
「よし。じゃあ、誘ってみるね!」
動きを止めたかと思うと凄い勢いでスマホをタップしだす百合。
ちなみにキャンパスまであと10分くらいというところだ。
「相変わらず思いついたら早いな」
「修ちゃんも知ってるでしょ?」
「もちろん。百合は百合だなって思っただけ」
必死になってスマホにダブルデートのお誘いを打ち込んでいるであろう百合を見て、なんとなく頬が緩んでしまっているのが自分でもわかる。
「はい!二人ともOKだったから日程調整のためにグループ作っといたから」
「さんきゅ」
思い立ったら即実行なだけじゃなくて、こういう調整だって百合は上手い。
「ねえ。修ちゃんがなにか笑ってる気がするんだけど。私、変なことした?」
「いや、単に俺たちも本当の意味で夫婦になってきてるのかもな、とか思っただけ」
結婚したばかりなら素直に口から出てこなかったような台詞だ。
ただ、一緒にいるのがもっと自然に感じられるようになったせいだろうか。
そんな恥ずかしい言葉を自然と口にしていた。
「もう……!そ、それは私たちは夫婦だけど……旦那様、わかっててやってる?」
対する俺の嫁さんはといえば、予想以上に照れ照れだ。
「半分くらいは。これまでは百合の方が俺のこと照れさせたこと多かっただろ」
「だから仕返しって?」
「そんなつもりはないけどさ。百合をからかうのも面白いよな」
いつも振り回されてる分、やり返すのも結構楽しいかもしれない。
こんなことを思う時点で百合に毒されてきてるんだろうけど。
「むー。そういうイジワルな旦那様はちょっと嫌いかも」
「でも、たまにはこういうのもいいもんだろ」
「う……し、新鮮なところはあるけど」
弄り合うことは案外少なかった俺たち。
普段と違うやりあいだってちょっとしたスパイスだ。
「おはよう。二人とも……ってまたイチャついてるし」
気がつけばよく優たちと合流する道に来ていた。
でもって、白い目で見る優に。
「今度のダブルデート、いちゃつき過ぎて他のお客さんから変な目でみられないようにしてくれよ」
真顔で忠告してきた宗吾だった。
「いやいや、さすがにTPOは弁えるって」
「受験のときにじゃれあってたのは今でも覚えてるわよ」
優の氷点下の視線。
「ほらな。受験のときのこと、これから一生つつかれるぞ」
「あれは修ちゃんも許してくれてたでしょ?」
「どっちもどっち。あの時は百合さんがはしゃいでて修二は止められなかった感じだけど、最近は修二も止めるつもりないもんな」
二人してさんざんな言いようだ。
「そうそう。修二君、最近百合に染まってきてるわよ?」
「ま、まあ。それは否定できないけど」
「ほらー。そこで否定しないところとか変わったわよね」
そんな風に合流してからもわいわいとした俺たちだったけど。
(変わった、か……)
確かに以前よりも百合の行動にツッコミを入れることが減ったし、照れくさくてなかなか言えなかった言葉も素直に言えるようになってきている。
(ふふ。でも、結婚して変わったことって色々あるよね)
何を考えたんだろうか。そんな百合の耳打ち。
(そうだな。俺はもっと慎み深いつもりだったんだけどな……)
(私の作戦勝ち?)
(否定はしない)
(やった!)
小声でそんなやり取りをしていると、再び二人からの白けた視線。
「や、悪い。つい、な」
「もういいわよ。修二君も百合の暗黒面に染まりつつあるのね……」
「何?優ちゃん。私の暗黒面って」
「人目を気にせずイチャイチャするとこ」
「優ちゃんも気にしなければいいんだよ」
「さすがにそれだけは断固お断りね」
「優さんに賛成。やっぱり慎みは必要だよな、うん」
この二人とのダブルデート、いったいどうなることやら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます