第88話 猫娘コスプレを披露してみた

「むぅ……猫耳ひとつでも色々あるんだね」


 学生ラウンジにあるソファーに背中を預けながら、小声で唸る私。修ちゃんは今日はバイトがあるということで、別行動だ。


 そんな私が何をしているかというと先日思いついた猫系グッズの通販サイトを見て回っているのだった。与助を見ていて思いついたことなのだけど、猫娘コスプレはうまくやれば旦那様的にもグッと来るような気がする。


 ただ、猫娘系のグッズでも猫耳カチューシャだけの物もあればパーカーやポンチョもある。予想以上に奥が深かったみたい。


(尻尾も色々だー)


 どうも猫の尻尾にはアブノーマルなプレイに使う方向のやつもあるみたいだけど、そっちはちょっと方向性が違う。ベルトとして固定する奴がいいかもしれない。


(ウェストや胸を強調する系はどうなんだろ)


 修ちゃんは肌をちら見せするのはそんなに好きじゃない印象がある。胸やウェストを強調する路線よりもパーカーの方がいいかもしれない。


(それに……パーカーなら普段遣いできるかも)


 ちょっと甘えてみたいときに猫耳パーカーに着替えて、一緒に抱き合って寝るのも良さそう。なんて考えていると、学生ラウンジを通りがかる人たちが時折私の方をちらちらと見ている気がする。一心不乱にノートPCの画面を見つめている学生がいたら確かに少し気になるかもしれない。


(色合いは何がいいかな)


 ピンク、茶色、黒、ゴシック系なんかもある。修ちゃんの好み的にはピンクか水色辺り?ピンクは似合わなかったらという不安もあるし水色にしておこう。


(これでお値段は一万円)


 猫耳パーカーに尻尾グッズ、それに細々としたものを合わせてそのくらいになってしまった。家庭教師のバイトを始めてから月五万円稼げるようになったけど、なかなか大きい出費かもしれない。


「よし!買おう!」


 夫婦円満のための投資と思えば安いもの。なんて自分に言い聞かせているけど、本当はただちょっと普段と違う形でイチャイチャしたいだけだ。


 エンターキーを押して購入完了。家に発送だと修ちゃんにバレる可能性も高いので、最寄りのコンビニ受け取りだ。


(修ちゃん、喜んでくれるかな)


 当日までにどんな台詞がグッと来そうか考えておかないと。

 こんなことを考える時間も結構楽しかったりする私だ。


◇◇◇◇数日後◇◇◇◇


「で、話があるってどうしたんだ?」


 夕ご飯とお風呂を終えた夜の時間。既にパジャマに着替えた修ちゃんはといえば何やら訝しげな目で私のことを見てくる。


「んーと。数分だけでいいから後ろ向いててくれる?」


 いざするとなると少し恥ずかしくなってきた。クローゼットに既に買ったコスプレグッズは入っているのだけど……。


「また変なことして驚かせようってか?こないだ猫耳云々言ってたっけ」


 早い。もうバレている。


「むぅ……なんでわかったの?」

「だって、あの様子だと絶対何か買うだろ?でも、俺が居ない間に通販で何か届いた感じもしないし。お義母さんやお義父さんに一応聞いてみたけど、特に何も届いてないって言ってたしな。外で買ったとかそんなところじゃないか?」


 我が家はお父さんやお母さんと同居してる関係もあって、誰か一人だけが留守番の時間は案外少ない。修ちゃんとしては通販で私が何やら買うだろうと思っていたのに何もないとなれば不審に思うのかもしれない。


「実はコンビニ受け取りにしたの」


 でも、修ちゃんに見抜かれていたとあっては無駄な努力だったらしい。


「そこまで手が込んだことしないでも。じゃあ、後ろ向いてるから」


 やれやれと言った様子だ。


(少しもやもやとする)


 準備万端。どんなものでも来いという姿勢だからだろうか。

 でも……。


(諦めて着替えよう)


 少しテンションが下がりながら、水色の猫耳付きパーカーにベルトで留める尻尾。肉球手袋と肉球靴下に着替えた私だった。


「修ちゃん。もうこっち向いていいニャ?」


 ニャ、とか言ってて恥ずかしい。

 でも良い感じの演技が思い浮かばなかったんだ。


「ニャとかちょっとわざとらし……!」


 振り向いた旦那様はといえば何やら固まっていた。


「ど、どうかニャ?」


 結局、語尾しか思いつかない私の発想が貧困過ぎる。


「うん。思った以上に似合ってる。か、可愛いと思うぞ?」


 おお?予想以上に照れてる?

 目を逸らして妙に落ち着かない様子だし。


「ふにゃー」


 鳴き真似をしながら抱きついて頭をこすりつける。普段と違う自分を演じているからか、変な気持ちになってきそう。


「お手」


 実はやってみたかったんだろうか。旦那様からの「お手」リクエスト。


「ニャ」


 肉球のところを旦那様の手のひらに重ね合わせる。


「よ、よしよし。偉いぞ」

 

 顎の辺りを撫でられてさらに恥ずかしくなってくる。

 やってる修ちゃんも微妙に落ち着かない様子。


「その……色々かんがえてみたんだけど、どうだった?」


 聞かなくてもわかってるのだけど、言葉で聞いてみたい。


「反則だろ。寒くなってきたからパーカーもちょうどいい感じで似合ってるし、色もいい感じ。尻尾とか肉球も可愛い感じを引き立ててるし。そ、その、ありがとな」


 その言葉を聞いて心の中で「やった!」と叫んでいた。

 結構な出費もしたし、やっぱり喜んでもらえるとお嫁さんとしても嬉しい。


「その。もし修ちゃんがしたければ、そのままエッチなこととかでも、いいけど?」

「いや。さすがにせっかくのグッズを汚すのは気が引けるだろ」

「じゃあ。今日はこのまま一緒に寝ていい?」

「そりゃもちろんいいけど……与助が見たらびっくりするかもな」


 今は二階のリビングにいるであろう我が家の飼い猫。

 明日の朝にでも見つけたら一体どんな反応をするだろうか。

 案外、何も気にしないような気もするけど。


「じゃあ、寝ましょうか。ご主人様?」

「メイドプレイは別に頼んでないんだけど」

「猫耳メイドだってあるんだよ」

「わかった、わかった」


 その夜は猫的な服装で一夜を明かした私だった。

 たまにはこういうのもアリだよね。

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