第86話 紅葉狩りに行こうとしてみたけど部屋でイチャイチャ
11月も中旬になり、いよいよ朝も冷え込んで来るようになったとある土曜日の朝のこと。私たちは夫婦の部屋で一緒になんとなくテレビを見ていた。
どっちもあんまりテレビは見ない方なのだけど、なんとなく手持ち無沙汰だったのでテレビでも見ようということになったのだ。
「そういえば私たち、紅葉狩り行ったことなかったね……」
お花見と並んで季節のデートだと定番な紅葉狩り。でも、これまで不思議とそんな話にはならなかった。修ちゃんがインドア寄りなせいもあるのかもしれない。
「今まであんまり興味なかったけど結構いいかもな。のんびりできそうだし」
ちらちらと私の方を見ながらつぶやく修ちゃん。何だか結構乗り気?
「私は紅葉狩りデート行ってみたいけど、修ちゃんも興味アリ?」
「その……紅葉を見ながらお前とイチャつくのもいいかもな、て少し思ったり」
意外過ぎる言葉に、私は失礼なことだけど「これ本当に修ちゃん?」なんて思ったりした。結構照れ屋なところがある修ちゃんは、自分から「イチャつく」なんてことをあんまり口にしたりはしない。
「何だよ。その奇妙なものを見るような目は」
「だって、修ちゃんが素直にイチャつきたいなんて言い出すなんて……」
「ガラじゃないのはわかってるよ。でも、もうちょっと素直に言ってみてもいいかもなっていうちょっとした心境の変化ってやつだよ」
ものすごい早口になってる辺り、旦那様としても照れくさい台詞だったらしい。そして、私はといえば―胸キュンという奴だろうか?―照れてる旦那様がとても可愛らしいな、なんて思ってしまった。
「修ちゃんがすっごく可愛い!」
思わずぎゅっとして頬ずりまでしてしまう。普段照れ屋な修ちゃんだからこそのギャップ萌えみたいなもの?
「ちょ、ちょっと。さすがにいきなりは照れるんだけどな」
「だって修ちゃんが可愛いから」
「俺も……最近、百合のことよく可愛いなって思ってる」
少し抑えめの声で、でも、はっきりと言ってくれるのが嬉しい。
「紅葉狩りとかどうでもよくなってきちゃった。今日はお部屋でごろごろしない?」
だって、せっかく修ちゃんがこうして素直になってくれたのだ。今から紅葉狩りに行く準備をして雰囲気が普通に戻っちゃうのもなんだか勿体ない。
「そういうところほんと気まぐれだな」
「猫みたいっていつも言ってるよね。嫌い?」
「……好きに決まってるだろ」
ホント、今日の旦那様はどうしちゃったんだろう?
「ね、ね。もうベッドにGOしようよ」
別にエッチなことじゃなくても、密着するのはベッドに限る。その方がお互いの温もりをいっぱい感じられるし。
「だな。俺もそんな気持ちになってきた」
目と目で見つめ合う私達。
(なんか幸せ……)
というわけで朝からパジャマに着替えてダブルベッドでごろごろ。
もちろん、お互いハグをしながらの密着状態。
「こういうの温もりが伝わってくる感じでいいよな」
「うん……私も同じことを思ってた」
「……」
「……」
しばらく何も言わずにただ黙ってぎゅっとし合う私達。こんな風に何もせずひたすら抱き合うのも結構いい。
「でも、修ちゃん、急にどうしたの?昨日は少し様子が違うなって思ったけど」
研究所のバイトから帰ってきたときのことだ。修ちゃんが私を愛してくれてることは疑ったことはないけど、それでも自分からハグをしてくれることは意外と少ない。大抵は私から抱きつきに行っている。
それが昨日はどんな心境の変化が修ちゃんの方からハグを求めてきたのだ。
「……言わなきゃ駄目か?」
「聞きたいな」
それに、別に言うのを嫌がってないのはわかるし。
「昨日、俺を雇ってくれてる研究者―一杉さんって言うんだけど―に言われたんだよ。奥さんのことがホントに大好きなんですねって」
ちょっと。
「バイト先の人に一体何を言ってるの?そんなこと言われるなんて。まさか、修ちゃん実は外で惚気てたりするの?」
だとしたら意外過ぎる。
「違うって。単にデートスポット色々行ったけど、新しいところ開拓したいと思って、その人に相談しただけ。結構気さくな人だから、ちょっとプライベートなこととかも話すんだよ」
修ちゃんがいつも私のことを考えてくれているのはわかってるつもりだった。でも、そんなことまで相談してたとか、なんだかジーンとしてしまう。
思わず旦那様の顔を挟み込んで、チュッとキスをしてしまう。と思ったら旦那様からもすぐにお返しとばかりのキス。
「なんだか嬉しいな。ところでその人は何かオススメスポット言ってくれたの?」
「VR体験施設が最近近場に出来たんだってさ。知ってるか?」
「知ってるよ。VRアクションとかVRリズムゲームなんかを体験できるんだって」
その内、デートで行きたいなって思っていた場所だった。
「じゃあ今度行くか?」
「うん。行こ?VRデートっていうのも楽しそう。二人プレイの協力型ゲームもあるみたいだし、一緒にプレイもできそうだよ?」
「それいいな。百合と協力プレイとかいつも家でやってるけどVRでやるとまた違う良さがありそう」
言いながら旦那様は首筋をつつっとなぞってくる。
「ちょ、ちょっと。そこは止めてって」
「百合はそこが弱いの知ってるからな」
「今日の修ちゃんはなんだか意地悪だね」
「ちょっと素直になってみただけだよ」
嬉しくないわけじゃないけど、いつも攻めるポジションのわたしが攻められるのはなんだか負けた気がする。
「むー。それならこっちも反撃するんだから!」
同じように首筋をつつーっとなぞってみる。
「ちょ、ちょっと。やめろって。くすぐったいんだよ」
笑いながらも手をどけようと必死にもがく旦那様。でも、私だって伊達に鍛えていない。
「やめない。それに、きっとそのうちくすぐったいだけじゃなくなるよ?」
「いやいや。俺はくすぐったいだけだって」
「やってみなくちゃわからないよ?」
お昼になるまで、温かい部屋の仲でたっぷりとじゃれあう私達。
(でも、これからは……)
修ちゃんから積極的に愛の言葉を囁いてくれたりするようになるんだろうか。
(他にもエッチなこととかも、もっと積極的になってくれるかも)
そんなこれからを想像して、少しだけドキドキする私だった。
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