第78話 下見デート?
「はむ……マーマイトのトースト、おいひい♪」
休日の我が家。朝の食卓。
マーマイトを塗りたくった食パンをかじりながらしばし幸せな気持ちに浸る私。
「まあ割とイケるよな」
向かいで私と同じくトーストをかじりながら頷く旦那様。
しばらく前の新婚旅行で買ってきたお土産だ。
まだ消費しきれていなくて、ときどき朝食に出すこともある。
「にしても、味噌汁とはミスマッチだけどな」
「どっちとも発酵食品でしょ?」
「そりゃそうだけど……まあいいか」
言っても仕方がないと諦めたんだろう。
夫婦としても恋人としても友達としても付き合いが長い私たちだから、「そういうもの」として片付けているところがある。
「……
最近の心配ごとはそれだった。
妹のように見ている高田君に振り向いて欲しい花守さん。
是非ともうまく行って欲しい。
「なんとも言えないけど、彼女の癖はよくなったし、頑張り次第じゃないか?」
それはそう。なんだけど。
「男性の……修ちゃんの目線での意見が聞きたいの」
どれだけ仲がよくても私は女で修ちゃんは男。
男性心理は修ちゃんの方がきっとわかるに違いない。
「前も言ったけど、男は単純なものだしなあ。高田君も仲の良い花守さんにアタックされたら案外簡単に落ちると思うぞ」
「そういうもの?」
「元々、可愛いだろ。あの癖さえなければ高田君の見る目だって変わると思うな」
そっかー。
「じゃあ、そのまま見守るっていうので大丈夫かな?」
「そこまではわからないけど、あの感じだと高田君からいきなり距離を縮めるのはないんじゃないか?花守さんからアタックしないと、妹分って感じのままかもしれない」
そこは私も考えていたところだった。
「じゃ、あとはどう花守さんがアプローチするかだよね。良い案あるかな?」
「百合もこだわるなあ。月並だけど遊園地でデートなんかはどうだ?」
「高田君が意識してくれるかもってことだよね」
「ああ。観覧車なんかもいいんじゃないか?」
「確かにアリアリかも」
観覧車はやっぱりムードが出る場所の代表格だと思う。
二人っきりで乗れば高田君も意識してくれる……かもしれない。
「しかし、自分で言っておきながらだけど……」
思いきや途端に難しい顔になる旦那様。
「どうしたの?何かまずいことでもあった?」
「いや。俺たち自身がデートで観覧車って経験ないだろ。なんか想像で物を言ってるだけだよなあって思えてきたんだよ」
確かにそれはそう。
思い返してみても小さい頃に両家一緒にお出かけしたときに観覧車に乗った記憶はある。でも、大きくなってからは一度もない。
「確かに行ったこともない場所をオススメするのはちょっと違うかも」
実際に行ってみたら案外微妙だったということだってあるかもしれないし。
むむむ。
「百合がそうやって難しい顔してるのも珍しいな」
「そうかも。二人にはうまく行って欲しいからね」
「ならさ。下見ってことで俺たちで……その、観覧車乗るのはどうだ?」
少し気恥ずかしそうにそう切り出した旦那様。
「なんだか珍しいね」
「そうか?」
「だって、そういういかにもな場所はむしろ私の方がお願いして連れてってもらうことが多いし」
特に修ちゃんは出不精な節があるからなおさらだ。
「たまには、百合を見習ってみてもいいかって思ったんだよ」
ポリポリと頭をかいて言う旦那様の顔は少し赤い気がする。
「別に見習うほどのことはないと思うけど?」
「こういうのは行動あるのみ!てのがいつもの百合だろ?あーだこーだ言う前に下見でも行ってくりゃいいんじゃないかってな。それに、その……」
「ん?」
あー、とか、えー、とか何か言いづらそうにした後、一泊置いて。
「観覧車でお前と二人きりってのもロマンだなって前からたまに思ってたんだよ」
え。ということは……。
「夕日をバックに観覧車でキスとかもできちゃう?」
実はああいうシーンには個人的にちょっと憧れていたのだ。
それが修ちゃんとならなおさら。
「夕日が拝めるかは天気次第だけど、晴れたらそれもいいな」
「じゃあ、じゃあ。早速だけど、今週の土曜日なんかはどう?」
「よし、行くか。下見でもあるってことは忘れるなよ」
「その辺は修ちゃんに任せてるから」
「全く……とにかくどこ回るか決めていくか」
「うん!」
こうして、二人をくっつけるための下見という口実での、旦那様との観覧車デートが決まったのだった。他にもお化け屋敷とかいちゃいちゃするためのアトラクションは色々ありそうだし、楽しみになってきた。
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