第73話 二人の架け橋

高田たかだ君に振り向いてもらうよりも、こっちの解決が先かもな」


 思わずため息をついてしまうな。


「そうだね。ってそういえば、高田君にそれとなく聞いてみる話は?」

「忘れかけてた。ちょっと聞いてみる」


 しかし、どういう流れで聞くべきか……。高田君は花守はなもりさんのことを凄く心配してるのは確かなわけで、少なくとも友達としては凄く想っているんだよな。その線で行ってみるか。


【いい方法は俺もすぐ思いつかないけど、百合と相談してちょっと考えてみるよ。百合も大昔だけど、似たようなことやらかしたことあるから、何か思い当たるかもしれないし】


 やらかしたってのもちょっとアレな文面だな。と思っていると、


「やらかしたって……やっぱり黒歴史……」

「悪い悪い、言葉の綾だって」


 よっぽど忘れたい思い出らしい。百合もどこかしょぼんとした佇まいだ。


【初めて会ったときになんか言ってたな】

【そりゃ聞こえてても不思議じゃないか。そんなわけで時間くれると助かる】

【もちろん。一日二日でどうなるもんでもないしな。ほんと恩に着る】

【いいって。これくらいお互い様。それより、高田君は花守さんのことどう思ってるんだ?なんていうかすっごい心配してるのは伝わってくるんだけどさ】


 よし。いい感じで聞く流れに持っていけた。


【どう思って……?まあ、変な癖はあるんだけど花守はいい奴なんだよ。俺も花守に助けられたことは結構あるしな。ただ、時々危なっかしいていうか……花守には言わないで欲しいんだけど、兄的な心情?】

【兄的か……。ひょっとして、高田君には妹でもいたりするのか?】

【二歳下のが一人だけど、そいつも危なっかしくて……花守に重ねてるのかもな】

【なるほどな。いや、悪い。急に変なこと聞いて。ところで、もしもの話なんだけど、仮に花守さんから告白されたらどう思う?】

 

 とさすがにこれは踏み込みすぎたか?


「修ちゃん、ちょっとそこは踏み込み過ぎじゃない?」

「あー、やっぱそう思うよな」


 花守さんの頼みがあるし、ちゃんと聞かないととつい焦ってしまった。

 ただ、親しくもないのにここまで踏み込まれたら嫌な人だっているだろう。


【んー……?まあ、悪い気はしないな。でも、正直、告白されてみないとなんとも。花守が俺に告るとか想像しづらいけど】

【そっか。いきなりずけずけ踏み込むような真似して悪かったな】

【こっちも変な相談したんだからお互い様だって】

【なら助かる。ちょっと気が合いそうな気がしてきた】

【修二君も百合さんに苦労してるのか?】

【苦労って程じゃないけど、色々振り回されてるな】

【今度ぜひ、その辺りの話聞かせてくれないか?】

【いいけど、嫁さんが居ないところでな】

【色々助かった。じゃあ、また今度】


 というわけで相談は無事終わったのだけど。


「修ちゃん。私に振り回されてるって……」


 あ。隣で百合が見てるのすっかり忘れてた。


「待ってくれ。それも含めて愛らしいってことだって。これは本音!」


 さらにしょぼーんとしてしまいそうだったので慌てて弁解する。

 こんな事でギクシャクするなんてたまったものじゃない。


「冗談だよ。冗談。そういうとこも可愛がって・・・・くれてるもんね?」


 急にニヤっとしたと思えば「可愛がってくれてる」のとこだけやけに猫なで声。


可愛がって・・・・のところに卑猥な匂いを感じるんだが」

「それは修ちゃんが卑猥なことを考えたせいだよー」

「嘘つけ。わざわざ急に猫撫で声しといて白々しい」

「猫撫で声なんて出してないよ―」


 と廊下で掛け合いをしていたわけだけど、運悪くも目の前を通ったのはゆうとその彼氏である宗吾そうご


「もうほんとに馬鹿夫婦ここに極まれり、ね」

「他山の石、他山の石」


 白けた目線で二人にそう言われてしまった俺たちだった。


「俺も百合に毒されてきたのかもな」

「否定できないけど。大学ではもうちょっと自重しようね?」

「ああ」


 同じような出来事が続くとさすがに凹む俺たちだった。


 その夜。いつものようにご飯を食べて、いつものようにお風呂に入って、そして寝る前の時間なわけだけど。


「んー癒されるー」


 今の俺はといえば百合にがっつりホールドされていた。

 秋らしい紅葉をイメージした暖かそうなパジャマもなかなか似合っている。


「なんていうか、落ち着くよな」


 なんていいつつ俺も同じように百合を抱きしめていた。

 ハグをすると幸せになるとかストレスが解消されるとどこかで読んだことがある。

 ホントかどうかわからないけど、こうしてると色々なことがどうでもよくなってくる辺り、そんな効果があるのかもしれない。


「ハグしてるとオキシトシンが出るって聞いたことがあるよ」

「俺もそれ聞いたことがあるな。最近、よく聞くよな、オキシトシン」


 ペットと触れ合ったり、好きな人とスキンシップをすると出やすいのだとか。

 別名、幸せホルモンとも言うらしい。


「でも、オキシトシンって実はいいことばかりじゃないんだって」


 んーとやっぱり気持ちよさそうに頭をこすりつけながら、意外な言葉。

 やっぱり百合はなんだけ猫っぽいななんて心の中で思う。


「へー。ネット記事だと大体いいことしか書いてなかったけどな」


 とはいえ、深掘りする癖がある百合がいうのだ。何かしら根拠があるんだろう。


「オキシトシンってね。いい意味でいえば愛着を強めてくれるんだけど、誰にでもっていうわけじゃないらしいの。身内がすごく愛しく思えるけど、身内じゃない人が憎く思えたり、排除したいと思うことにもつながるみたい。それと、オキシトシンが出過ぎる人は初対面の人でも信じ過ぎてすぐ騙されるんだって。研究紹介サイトでそういうのをちょっと読んだことがあるよ」

「最近、そういうサイトよく見てるよな。でも、なんでも過ぎればまずいって話か」


 百合と話してて感心するのはこういうところだ。


「でも、今は修ちゃんをギュッとしてオキシトシンをいっぱい出すけどね♪」

「そういうオチか!」


 ふと、少し悪戯心が湧いてきて首筋をつつっと撫でてみる。


「ちょ、ちょっと。いきなり首筋触れるの反則!」

「オキシトシンがもっと出るかもしれないぞ?」

「出ないよ―。変な声は出るかもしれないけど」

「ならオキシトシンはいいけど、声聞きたい」

「わかった。でも、修ちゃんも首筋が感じるようになってもらうんだから!」

「だから、くすぐったいだけだって言ってるだろ」


 首筋をつつっと撫でられるのだけど、くすぐったくてたまらない。


「そのうち感じるようになるかもしれないよ?」

「ならない、ならないって」


 というわけで。

 寝る前に、首筋をひたすらお互いに撫であうことになってしまった。

 結論。首筋をあんまりいじるのは止めておこう。


「そういえばさ、あの二人のこと。百合はどうしたい?」


 ちょっとしたいちゃつきを終えて今度は本当に寝る前のわずかな時間。


「せっかくだから。花守さんの片想いが報われて、欲しいかな……」


 徐々にとろんとしてくる瞼。


「俺も。高田君が心配してるみたいだし、出来ることならなんとかしてやりたい」


 とろんとした彼女の瞼を見てると、徐々に俺も眠気が強くなってくる。


「恋のキューピッドでもやってみる?」


 もうほとんど瞼を閉じそうな中、少し微笑んでの言葉。


「また似合わないことを。でも、いいかもな」

「でしょ?……」


 すー、すー、と胸元から聞こえてくる寝息。

 本当に無邪気なもんで。


「でも、恋のキューピッドか。悪くないかもな」


 やっぱり百合に毒されてきたかもしれない。

 そんなことを考えながら眠りに落ちたのだった。


☆☆☆☆あとがき☆☆☆☆

二学期最初の頃のお話でした。

大学の様子や新しい人の出会いやちょっとした変化。

そんなものをお届けできたなら嬉しいです。


次は「恋のキューピッド」的なお話をメインに進めようかなと思っています。

乞うご期待!


新婚夫婦の先を読んでみたい方は、応援コメントや

もっと先読みたい!:★★★

まあまあかな:★★

この先に期待:★

くらいの温度感で応援してくださるととっても嬉しいです。

☆☆☆☆☆☆☆☆

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