第72話 同期の男女二人組(3)

「俺と百合の馴れ初めを聞かれてもなあ」

「あんまり参考にならないかもね」


 お互いの家まで徒歩数分。

 初めて会ったのが小学校一年でウマがあったからずっと仲良くしてきた。

 高校生になって周りから色々言われて、付き合うっていう選択肢もアリかもしれないって考えて、じゃあ付き合おうというノリだった。


 花守はなもりさんの恋の参考にはならなそう。


【私としゅうちゃんの場合だとあんまり参考にならないかもしれません。昔から仲が良かったのもありますけど、付き合うときも、どちらともなくという感じでしたし】


 こっちだけ、いきなりタメも悪いかなと丁寧語で返してしまった。


【そうですか。察してるかもしれませんが、私、高校の頃から高田たかだ君のことがずっと好きなんです。情報系が好きなのは本当なんですけど、こっちの大学を選んだのは高田君の志望だったからですし】


 うわー。乙女だ!


「修ちゃん、修ちゃん。見て見て!」


 思わずスマホを旦那様の目の前にずいっと押し付けてしまう。

 でも、高校の頃からずっと片想いって凄いしおおーってなっちゃう。


「おお……花守さんも凄いよな。片想い相手を追いかけて大学までとか」

「でしょ?これは是が非でも協力してあげなくちゃ!」


 うん。こういういじらしい片想いは見ててホント応援したくなっちゃう。


「百合もはしゃいでるなー」

「乙女の恋路は応援してあげたくならない?」

「百合は乙女じゃないのか?乙女レーダーとか言ってた癖に」

「といっても結婚してるから」

「お前どっちなんだよ」


 他愛のないい言い合いをしながら文面を考える。


【高田君とは結構仲良さそうですよね。思いつきですけど、高田君を誘って二人っきりでどこか遊びに出かけるというのはどうでしょうか?】


 送信してから、ひょっとして既にそれくらいはしてるかもしれないと思い直した。


【私から誘って何度かあるんですけど、アピールに全然気づいてくれないんです】


 気づいてくれない、かあ。


【服装も高田君が好きそうな可愛らしいのにしてみても、スルーされますし。デートコースを一通り回った後に、次どうする?って聞いてみても、じゃあ帰るかって感じで。友達としてか思われてない気がします。ちょっとお茶でもくらい言ってくれてもいいのに】


 ああ。これはすっごい苦労してそう……。


「修ちゃん、修ちゃん。見てみて。どう思う?」

「ああ……花守さんも苦労してるな」

「だよね。高田君は気付いてないのかな?」

「どうだろう。気付いてないてのもありそうけど、男性目線でいうと、変にみられたくないからあっさりなんてパターンも聞いたことはあるな」

「どう考えても花守さんはアタックしてるのに?」

「何の気なしに仲良くしてくれてるかもだろ。俺たちだってそうだったしさ」


 それを言われると……難しい。


「花守さんはどうすればいいと思う?」

「それなんだけど、高田君からも別に相談ありそうなんだよな。そっから一度話広げて花守さんのことなんとなく聞いてみるから待ってもらえないか?」

「うん。そっちの方が確実だよね」


 男同士、きっと花守さんをどう思っているのかを聞き出しやすいハズ。


【苦労してますね。実は今、修ちゃんと一緒にいるんですけど、あとで高田君にそれとなく花守さんのこと聞いてみてくれるそうです。それを待って次考えるのはどうでしょうか?】


 友達の恋愛相談なんて考えてみれば初めてで、なんだか楽しい。

 優ちゃんたちは気がついたらくっついちゃってたし。


【ありがとうございます!なんてお礼を言っていいか……】


 ちょっと大げさだけど、本当に好きなのが伝わってくる。


【全然。お礼を言われるほどじゃないですよ】


 なんて書きつつちょっと気恥ずかしくなってくる。


「というわけで、高田君の方はお願いするね?」

「もちろん。ただ、高田君の方も相談待ちなんだよなあ」

「まさか、恋愛相談だったり?」

「いや、花守さん絡みだけど恋愛とは違うってさ」

「ふーん。なんだろうね?」


 ヴヴヴ。ヴヴヴ。何やら音がすると思ったら修ちゃんのスマホからだ。


「お。高田君からだな。っと……」


 何やら読んでいる内に急に真顔になっていく旦那様。

 どうしたんだろう?


「予想以上にマジな相談だっだ。ほれ」


 スマホの画面に表示されたメッセージを読んでいくと。


【花守の件なんだけど。初見の時に先生に食ってかかってたの修二君は見てただろ。あれって高校の頃からなんだ。でもって、先生はいいんだけどクラスの一部から嫌われる原因にもなったからあいつも治したいって言ってるんだけど、とっさに言っちゃうんだと。何かいい方法知らないか?】

 

「うわあ。確かにちょっとむずかしいね」


 私も思わず唸ってしまった。


「高田君に振り向いてもらうよりも、こっちの解決が先かもな」


 そうため息をついた旦那様だった。

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