第60話 花火デート
ひゅー。
光の筋が空高く打ちあがる。
どどん。どどん。どどん。
すっかり暗くなった夜空を花火が優しく照らす。
「たーまやー」
いつかの昔を思い出しながら、大きな声で叫んでみる。
「かーぎやー」
そして、隣にいる旦那様……修ちゃんも続いてお馴染みの掛け声。
「ちょっと子どもっぽかったかも」
言っておいてなんだけど、少し恥ずかしくなってしまう。
「そういう無邪気なのも百合が可愛いとこだって」
「……ありがと」
優しく私を見つめる旦那様からの褒め言葉は、やっぱり少しこそばゆい。
だから、そっと私より少し大きな手を握り締めてみる。
「着物の百合を見たのも久しぶりだけど……似合うもんだよなあ」
「褒め殺しをしても何もでないよ?」
本当は色々出ちゃいそうだけど。
「……実はさ。高校の頃も百合を誘って花火行ってみたかったんだよ」
「なら誘ってくれてよかったのに」
高二の夏か高三の夏なら、既に私たちは恋人同士。
修ちゃんはどうかなーって思っていたけど、花火のお誘いはなし。
暑いの嫌いな修ちゃんだし……と花火デートなんてものとは無縁だった。
「そりゃそうなんだけど……俺って暑いの苦手だろ。花火大会って長丁場だから、百合に気を遣わせてもなーってそんな感じ」
「変なところで気を遣うんだから。でも、今日はどうして?」
「俺たちももう夫婦だろ。しんどくなったら見栄張らずに撤退すればいいかって」
「夫婦じゃなくてもそれで良かったけど。でも、寄りかかってくれるのは嬉しいよ」
夫婦としてもっと距離が縮まったって感じられるから。
「そう言えば、小学校の頃さ。近場で花火よくやったよな」
「うん。ロケット花火打ち合ったりとか楽しかった」
「急にそんな光景を思い出した」
「私も。近くに花火OKの敷地があったから、色々持ち込んだよね」
当時からよく修ちゃんとつるんでいた私。
花火をやるときもそんな風に二人だけで色々したものだった。
「百合がロケット花火好き放題打ち込んでくるから、あれはひどかった」
「私が悪いとでも?」
「いや。俺も楽しんだんだし同罪。単に楽しかったなって」
「ならよし」
見上げれば旦那様の笑顔。
さらに上を見上げれば打ちあがり続ける花火。
今なら……正面から修ちゃんを抱きしめて、ちゅうっと唇を合わせる。
人も居ない穴場だから、思いっきり数十秒はそんなことをした後。
「花火大会でキス。ちょっとロマンチックじゃない?」
「お前、まさか……」
「せっかくだからやってみたくならなかった?定番だよね」
「いやもう……まあいいか。俺もちょっとやってみたかったし」
「でしょ?」
ちょっと雰囲気に酔っているんだろうか。
お互い抱きしめあって背中を少しまさぐる。
「はあ……エッチなのは帰ってからだよ?」
「わかってるって。今は普通に触れ合うだけ」
夫婦になってこういうスキンシップがだいぶ増えた。
修ちゃんが興奮してくれている証だし、嬉しい。
「修ちゃん。来年も来ようね」
こんな時間を過ごせるなら、毎年だって行きたい。
「そうだな。また来年来よう」
一瞬だけ目を見合わせて、笑いかけて来たかと思えば、
左肩がぎゅうっと引っ張られる。
「来年もその次も、ずっとよろしくね」
雰囲気に飲まれて気が付けばそんな言葉を発していた。
「ああ。ずっとよろしくな。百合」
「旦那様のためなら、何年でも」
ちょっとロマンチックな雰囲気で改めての誓いを立てた私たちだった。
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