第54話 嫁がいつもより甘えてくるんだけど
夏休みのある日。新婚旅行も終えて、少し百合が変わって。そんな中でもやっぱり新婚生活は続いていく。で、以前より百合が尽くしてくれるようになったのは嬉しいっちゃ嬉しいんだけど―
「
サークルのメンバーで集まろうと大学に行く道すがら、上目遣いで俺を見上げてくる白ワンピの少女。俺の嫁である百合なんだけど……距離が近い!髪も以前より少し短くした感じだけど、正直ドストライクだ。百合のことだから以前見たエロ本から色々研究したに違いない。
「腕組むのはいいんだけど……前より距離近くないか?」
それはもう密着度が高くて、友達としても恋人としても長い付き合いの俺でも照れてしまうくらい。二の腕までぴったりとくっついてくる。
俺だって今更こんな仕草で気恥ずかしくなるなんて思ってもみなかった。
「修ちゃんはこういうの嫌?」
また上目遣いで蠱惑的な声。新婚旅行から帰って来てから色々変わったけど、こんなところまで変えてくるとドキドキしてしまうというかクラクラする。
「嫌なわけはないけど……えーと照れ臭い」
なんていうか百合が今まで甘えてくるときは無邪気な部分が結構あった。でも、今の甘え方は明らかに男の視線を意識してるっていうか。良くも悪くも今までの百合らしくない。
「実はね……私もちょっと恥ずかしい」
それは俺も感じていた。元々、自然に異性にそういう仕草が出来る奴じゃないから意識してやってる感じがしてた。
「その……今までと違う感じで色々可愛いんだけど、どうしたんだ?」
問うと少しの間無言が続いたかと思うと、
「私も……他の女の子みたいにこういう甘え方してみたかったの」
あー、そういうことか。
「お前、昔から他の女子とちょっと違うこと気にしてたもんな」
だからこそってところか。
「それで、女性向け雑誌とか見て、こう甘えるといいみたいなの読んでみたの」
そこまでで言いたいことはわかった。
「あ、ありがとう。正直、ここ最近でかなりときめいてるかもしれない」
普段奔放な百合だからこそのギャップ萌えというやつ?
「んふふ。なら、やってみてよかった♪」
なんて言いつつますます密着してくる。
暑さに弱い俺だけど今はそれどころじゃなくて色々落ち着かない。
ふと人から見られない路地があるのを発見してしまった。
いや別に連れ込んで妙なことしようってわけじゃないんだけど。
「百合。えーとさ、あっちにちょっと移動しないか?」
人気のない路地を指差してお伺いを立ててみる。
「変なこと……しないよね?」
なんて言いつつも全然嫌そうじゃない。
「たぶん」
「じゃあ行こっか」
日光が降り注ぐ大通りから日陰の路地へ。
その間もやっぱり百合は俺に密着していた。
「あのさ……」
路地に移動するなり、衝動に抗えずに百合を抱きしめていた。
汗の香りや香水の匂い、それと色々な香りが混ざってくらくらする。
「う。修ちゃん、すっごく照れるんだけど」
「百合がそういう男心くすぐる仕草するから悪い」
「修ちゃんもふつーの男の子だったんだね」
何故だか少し可笑しそうにくすくする笑う百合。
「普段の百合も可愛いけど、そういうのされたら色々堪えられない」
あー、俺も何言ってるんだろうな。
暑さと誘惑(?)で頭やられてるんだろうか。
「今の私は尽くす女だからね♪」
「尽くすっていうか……まあいいや。昔から勉強家だよな」
「だって、もっと修ちゃんに喜んで欲しかったから」
抱きしめあったままそんな会話してると、唐突にキスしたくなってきた。
手を放して少し見つめ合った後、顔を近づけて自然に唇を合わせていた。
キスなんてもう何度もしてるはずなのに、なんだか今日は少し違う。
舌を絡め合うようなキスじゃなくて、浅いキスを何度も繰り返す。
「修ちゃんのエッチ」
「別にキスだけでエッチとか……」
「少し、胸触れてた」
「それはその……すまん」
別にそんなところで致す程俺も非常識じゃない。
ただ、ちょっと触れたくなってしまったのだ。
「いいよ。ちょっと嬉しかったし」
少しはにかみながら言う百合はやっぱり以前の彼女と少し違って、それはそれで凄く魅力的だ。
「これは俺ももっと百合をドキドキさせられるようにしないとな」
百合がこうするようになった理由はなんとなくわかる。
俺も今度はちょっとこいつをドキっとさせるように何かしてもいいかもしれない。
「いいよ。今も十分ドキドキしてるもん」
「あのさ……今日、サークルから帰ったらその、いいか?」
「修ちゃんのエッチ」
「いやだって、お前がそういう仕草するから」
「冗談だよ。私もそういう気分だし、いいよ」
再び腕をぎゅっと組まれて密着状態でそんなことを言ってくる。
こういうことしといて茶化すでもない辺り、色々本気なんだろう。
「……じゃ、気を取り直して大学行くか」
朝っぱらからムードが盛り上がり過ぎても困る。
「そうだね。続きはまた後でね♪」
ようやくムードを平常運転に戻そうとしたのに。
「ああ、また後でな」
少しだけ密着した距離を離しつつ二人で大学への道を歩いたのだった。
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