第8話 不穏な動き
「ねえロランー。次はどこに行こっか? ハイランド大陸が近いけど、グラストルもいいね。そうそう、ドンディナ大陸にはカジノがあるよ!」
「カジノなんて行かないよ。どうしようかなぁ」
ゾンビ達との戦いから一ヶ月後。
ロラン達は新しい大陸へ移動することを計画していた。港町の運航表と世界地図を眺めつつ、次の行き先を考えている。
レグはここぞとばかりに目を輝かせている。
「お悩みのようですね。でしたら私の故郷、ダミアなど如何でしょう。皆ロラン様の実力を知れば、立ちどころにお認めになることでしょう。神殿には教皇もいらっしゃいます。もしかしたら、聖なる力を授けてくださるかもしれません」
「ダミアか。そういえば行ったことがなかったな」
プリーストの進言に、セリナは金色の耳を前に倒してげんなりしている。
「うそうそ。レグはロランをみんなに見せて自慢しておきたいんでしょ」
「まあ、ロラン様を紹介しておきたいという気持ちは、否定はしません」
「レグ自身の評判を上げたいだけでしょー。もう分かってるんだから」
レグは苦い顔をして頭を掻いた。三人は旅を続ける中で、既におおよその性格や趣向を理解している。
「ただ、悩むところだな。特に平和を脅かされている状況でもなければ、すぐ向かう必要はないかもしれない。うーん、」
悩みつつ、彼は道具袋から旅先で手に入れた資料を取り出した。その中で一通の手紙がこぼれ、風に揺られて飛んでいく。
「あ! ま、まずい」
「取ってきてあげるっ」
慌てるロランを横目に、浜辺へと飛んでいく手紙を身軽なセリナが追いかけ、海に浸る前に掴み取った。
「あちゃー。もうボロボロじゃん。封が開いちゃってるよ。誰からの手紙なの?」
「ありがとう! それは僕と親しい人なんだ」
「ふぅーん。中ちょっとだけ見ちゃお」
「こ、こら! やめないか」
ロランが手紙を取ろうとしたが、セリナは上手く身を翻して距離を取り、逃げながら中身を読んでいく。普段はあまり執着を見せないリーダーの様子がおかしいので、彼女は楽しくてしょうがなかった。
「えーっとぉ。女の人からじゃん。なになに」
だが、手紙の主が女性であると分かると、金髪の少女は途端にむくれた顔になる。
「その手紙はまだ読んじゃいけないんだ。返しなさい!」
「ほほう。秘密の手紙ですか。実に興味深い」
彼の慌てっぷりに、興味を惹かれたレグが遠間から微笑み観察しているようだった。
「え!? ちょっと待って。ロラン! これ、本当なのかな」
「言うんじゃない! まだ読んじゃいけないんだ。返してくれ」
「でも! なんか、とっても大変なことが書いてあるよ! ヤバいかも」
「大変なことだって? じゃ、じゃあ……解った。その大変なことだけ、話してくれないか」
約束を破ってしまうことに罪悪感は湧いたが、もしかしたらベラの手紙には今知らなくてはいけない何かがあるのかもしれない。真剣になったセリナの表情を見て、心の奥に不安が募ってきた。
セリナは手紙の全てを読んだわけではなく、サッと流し読みをした程度である。しかし、終盤に書かれていた内容は無視できなかった。彼女から告げられた情報を耳にした時、ロランは顔色を変えた。
そして、すぐにレシアへと戻ることに決めたのである。
◇
ロランが旅立ってから三ヶ月後。
彼の祖国であるレシアは変わらず平和な毎日を過ごしていたが、ある日奇妙な出来事が起こる。
「何? 例年の二倍近く入国者が増えているじゃと?」
国王ギルは大臣からの報告に眉を顰める。
「はい。観光の時期としてはしばらく先になります為、なぜ今ここまで増加しているのか、いささか不審に感じたもので」
大臣の発言を聞き、ギルは鼻で笑う。レシアは観光地として有名であり、夏は世界でも有数の美しい海を堪能するため、観光客が集まってくる。しかし、現在はまだ春先であり、時期的には人の流れが寂しい頃合いな筈であった。
「そんな時もあるんじゃないか。なにしろ、世間では魔物達が活性化して暴れ回っているようじゃしの。気にせんでええわい」
「は……はあ」
「ワシらには得があっても損はない。細かいことを気にするな。それより大臣、あの話はどうなっておる?」
「あの話、と言いますと」
「この愚か者めが! ワシの新しい女の話じゃ」
「は! 察することができず申し訳ございません。現在のところ、数名ほど候補が」
「む! そこに誰かおるのか!?」
小さな物音にさえ敏感になっていた国王が叫び、急いで大臣が扉を開けて廊下を見渡した。しかし、人の影は見えない。
「誰もおらぬようで。気のせいでございましょう」
「ふむ。な、ならば良いわ。では大臣よ。入国者の増加などどうでも良いから、あちらの件を頼むぞ」
レシア国は伝統的に、国王に対して強い規律を求める傾向があり、一般的によろしくないと判断されれば教皇や他貴族から大きな批判を受けてしまう。無類の色狂いであるギルは現在も女遊びを隠れて続けていたが、そのような行為が知れれば大問題になりかねなかった。
しかし、ギルはバレさえしなければ一向に問題はないと考えている。他国の国王は普通に行なっていることさえ、うちでは批判されると言うのはどうしたものかと、逆に不満を覚えていたほどだ。
ただ、こうしたギルの行為は、ごく一部の大きな怒りを買う程度でしかなかった。彼が失敗していたのは、以上に増えていた入国者に警戒をしていなかったことである。
入国者達は普段国籍がばらけていることが普通だが、奇妙なほど同じ国からやってきている者たちがいた。一見すれば彼らは皆普通の外見で、友好的な旅行者としか思えない。
入国者達によって事態が動きだすのは、わずか三日後のことであった。
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