第7話 光の剣

 最初は星の光かと思われたそれは、徐々に輝きと大きさを増し直線上に伸びていく。レグとゾルーガルはほぼ同時に、巨大で長い線状の光を目撃し呆気に取られる。


「あれは、まさか光魔法か?」

「な、なななんじゃああ!?」


 死霊術師の動揺が大きくなっていくのはここからだった。その光は真っ直ぐ下に落下を始め、体を絡み合わせて形成されていた巨人が丁度半分に分断されていき、最終的には真っ二つに引き裂かれてしまった。


「ひいいいい!? う、嘘じゃ。ワシの、ワシの最高傑作が」


 ゾルーガルは悪夢のような光景に発狂している。大小様々なゾンビ達は落下しながらも、地面に衝突する前に消滅していった。


「浄化効果が速すぎる。一体何の魔法なんだ」


 レグは近くで発狂したままの老人とは違う感情が芽生えていた。憧れか畏怖か。長い直線上の光は消え去ったが、その出どころに一人の男がいることに気がついた。着地するなり、遠くからこちらへと向かってくる。


「嘘じゃ! 嘘じゃ嘘じゃー! ワシの最高傑作がこんなところで負けるはずがないい! せっかく竜族から教わったというの……ぐえ!」


 呆気に取られるレグの横を、何かが通過した。はっと気がつき振り返ると、ゾルーガルが仰向けに倒れていた。一本の矢が胸を貫通している。矢には魔法が内泡されているのか、一定の秒数ごとに赤い光が発せられている。恐らく、もうすぐ何かしらの魔法が発動するのだろうと彼は予想した。


「待て。貴様が編み出した術ではないのか? さっき何か言っていたな」

「わ、ワシは。ゴードリック様に、」


 次の瞬間、赤い光が一際強く輝き爆発を起こし、老人の体は粉々になった。多くの村人をゾンビに変えた男は間違いなく絶命したのだ。


「君、大丈夫か?」


 レグはこちらにやってきた少年に声をかけられ、いささか戸惑いを覚えた。予想していたより若い。


「ええ。私のほうは無事ですよ。あなたですよね? 先程ゾンビの集合体を討伐されていたのは」

「何とか倒せたから良かったけれど、大変だったよ。僕では難しいと思っていた」

「すみません、これは無粋な好奇心なのですが、先程のものは光魔法ですか? それとも聖属性魔法でしょうか?」


 少年は少し困った顔をしている。首を傾げながら考え込み、やがて口を開いた。


「よく分からないんだよ。ただ、本来は向いてない技ってことは間違いない。古い事典いわく、竜翔斬っていう技らしい。僕はほとんど、竜と戦う為だけの技ばかり覚えるんだ」


 何気ない返答だったが、レグは驚きで目を見張った。


「つまりあなたは、かのドラゴンスレイヤーであるということでしょうか?」

「え? ああ……そういうスキルを貰ってしまったね。あんまり使えないけど」

「使えないなどと、とんでもない! あんな怪物を一撃で葬るなんて、本来不可能なことです! いや、これは素晴らしい。今日は最高の日です」

「え? あ……ああ、うん」


 突然興奮しだすプリーストに困惑していると、少し離れた草原から一人の少女が駆けてきた。


「やっほー。ロラン! 最後はあたしがキッチリ決めてあげたよ。ねえねえ、この人は?」

「これは失礼。ご挨拶が遅れてしまいましたね。私の名はレグ。旅のプリーストをしている者です。隣村より、こちらでゾンビを発見したという話を伺いまして、浄化に赴いたというわけなのですが」


 少女はふうん、という表情で目をパチパチさせた後、自身はセリナという名であると共に、相棒であるロランについても紹介した。


「隣村というのは、ここから近いのかな。僕達は西にしばらく向かった先にある港町で噂を聞きつけていたんだ。これも魔王の仕業に違いないと思ってね」

「魔王、ですか?」

「ああー、うん! ちょっとね、ロランは変なところがあるの。あはは」


 セリナは今までの経緯を軽くだが説明してくれた。どうやら彼らは、現在いるかどうかも怪しい魔王を討伐する為に、世界を周るつもりでいるらしい。普通ならば怪訝な顔をしてしまうところだが、若きプリーストは心躍らせて微笑を浮かべている。


「それは素晴らしい目標ですね。しかしお二人とも、聞けば回復役はいらっしゃらないご様子。でしたら如何でしょう。この私、レグを同行させてはいただけませんか」

「……君を?」とロランは少々呆気に取られた顔で返した。

「はい! 私なら必ずお役に立てます」


 二人の間に入ったセリナは、若干だが目を細めて怪しんでいる。


「ちょっとちょっと。仲間にしてほしいってこと? いきなりそんなこと頼んでくるってどういうことなの」

「私には二つの目的があるのです。一つは世界中の人々を癒して周ること。もう一つは、自分達の活躍を書き記し、後世に伝えることです。言うなれば、伝記を書くことが目的であり、夢です」

「伝記ー? ねえロラン、どうするの?」


 まるでワケがわからないという困惑した顔で、ロランは腕を組んでいた。


「とりあえず、近くに村があるんだろう? そこに案内してもらえないかな。一旦落ち着いてから考えたい」


 レグは爽やかさ満点の笑みを浮かべる。


「ええ、勿論ご案内させていただきます。これから宜しくお願いしますね!」

「いや、まだ組むと決まったワケじゃないんだが」


 三人は一旦はとりあえずの名目で村まで同行することになり、結局は一緒に冒険をしていく流れになった。


 この時、レグは自身が主人公となる伝記を書くことを密かに辞め、代わりに一人の少年を中心にして物語を綴っていくことになる。

 その筆にはこれから活躍することが間違いないであろう少年への、大いなる期待と憧れが熱くこもっていた。

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