第3話『第二のお願い』
灰色の町に住む犬から案内された通りに飛ぶと、海辺に建つ一軒の家に辿り着いた。言われていた通り、崖の上に建っていたのだが、そこから見下ろす海と言ったら、身の毛のよだつものだった。
厚い雲と対面する、それは、泥の様な色をして、ビュンビュン と吹き付ける冬の強い風に、サブンサブン と激しくその身を打ちつけていた。
「海全体が
トッテンビッターは、青ざめてそう言うと、家の窓を覗き込んだ。
「おや? おやおや! 」
窓の向こうのテーブルの上に、粗末な
その暖かそうな火の光に、トッテンビッターは口を パクパク とさせた。
「も、もしかして、あれが、あれが──! 」
「《サンタの灯火》ではないわよ」
体の下から声が聞こえた。
見下ろすと、そこには、体中を金色に塗りたくらせたガチョウがいた。
金ぴかのガチョウは、ひん曲がった口で、グアー と鳴くと、地面に降り立ったトッテンビッターに、ヨチヨチ と歩み寄った。そして、「《サンタの灯火》は、ここには無いわ」と言った。
「そんなあ」
ガックシ 肩を落とすトッテンビッターに、ガチョウは「でもね」と続けた。
「それが、どこにあるかなら知ってるわ」
「本当に? それなら、どこにあるのか教えてくれる? 」
トッテンビッターが
「でもね、タダで教える訳にはいかないわ。ワタシも探している物があるの」
「探している物? 」
トッテンビッターは首を
「“黄金でできた2つのカップ”よ」
ガチョウは、ウットリ とした表情でそう言うと、ションボリと長い首を垂らした。
「あなた、この土地ははじめて? 」
ガチョウはトッテンビッターに聞いた。
「うん、はじめてだよ」
トッテンビッターは答えた。それを聞いて、ガチョウはもっと、首を折り曲げた。
「とっても
その話を聞いて、トッテンビッターは「間抜けな主人もいるんだなあ」と思ったが、胸の中に仕舞い込み、代わりに「うん」と首を縦に振った。
飛んで上から海を見下ろすのは、少ししか怖くなかったからだ。
「いいよ。探してあげる! 」
そう言って、機嫌良く飛び出した。
崖の側から、徐々に奥へ奥へと進みながら、トッテンビッターは不安になっていた。
「こんなに大きな海の中から、どうやって小さなカップなんか見つけられるんだろう? 」
さっきまでは何とも無かった風も、こうも心細いと、ずっと冷たく感じるのだった。
「あのガチョウは嘘をついていたのかな? カップなんて本当は無くって、ボクをこうして、凍えさせる為に、意地悪をしてるのかな? 」
トッテンビッターは、ジブンの恐ろしい想像に、ブルリ と身体を震わせた。その時。
「あ、あれは! 」
海の真ん中に堂々と
「あれは何だろう? 」
トッテンビッターは、近づこうとして、尻込みをした。
海は相変わらず不機嫌に白い波を、ところどころに
「それでも──」トッテンビッターは歯を食いしばった。「それでもボクは、あの凶暴な野良猫から勇敢に逃げて見せたんだ! こんな荒波、どうってことないさ! 」
トッテンビッターは、遂に、岩の上に着地して見せた。
「やったぞ! 」
カレは嬉しさのあまり、羽根を思いっきり震わせた。そして、本来の目的を思い出すと、例の ピカピカ の正体を探った。
ピカピカ は、すぐに見つかった。それは、2つの、黄金でできたカップだった。
「これが、ガチョウが言っていた、“黄金でできた2つのカップ”だね」
トッテンビッターは、さっそくそれらを運んで行こうとしたが、カレのか細い腕では、どうしても持ち上げることができない。
「どうしよう」困ったカレだが、すぐにあることを
トッテンビッターから案内されたガチョウは、ガーガーグアーグアー 鳴きながら、ようやく岩に辿り着いた。
「こんなに危険な海水浴は生まれてはじめてよ! 」海水に
「ここだよ! 」
トッテンビッターが指し示すと、ガチョウは目を輝かせた。
「これよ! 」
そう言って、ピー と
崖の上の家まで着くと、ガチョウはトッテンビッターに振り向いた。海に洗われ、身軽になった白いガチョウは、カップの ひとつを妖精の目の前に転がすと、「あげるわ」と言った。
「助けてくれたお礼よ。あんなに危険な所にまで行ってくれたのに、何もしないままでは申し訳ないのよ。貰ってくれる? 」
その黄金のカップは、滑らかな曲線が
「いらないよ」
「“靴下に入った金貨”よりも、もっとずっと高価な物なのよ? 」
トッテンビッターの言葉に、目を真ん丸にして、ガチョウは言った。
「ボクはいらない」それでも、カレは ハッキリ、そう断った。「それはキミたちの物だし、それに、ボクが欲しいのは《サンタの灯火》だけだからね。それ以上を貰ったって、ボクの体じゃ重すぎて、持ち運べないよ! 」
「うふふ、そうだわね」
トッテンビッターの返事を聞いて、ガチョウは
「《サンタの灯火》なら、山小屋に住むトナカイ飼いが持っているわ! ここを真っ直ぐ行った、雪山の頂上にあるお家よ」
「ありがとう! じゃあ、またね」
トッテンビッターは羽根を広げると、ガチョウの
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