【番外編】トッテンビッターと3つのメリークリスマス!

第1話『トッテンビッターの憂鬱』

 海の上を走る、黒い蒸気機関車。通称“無番汽車むばんきしゃ”は、世界中、あらゆる時代を巡る。

 そんな、不思議な汽車の、とある天井の隙間に、ピクシーたちの巣があった。ボロきれでできたそこに、針葉樹の葉の様な姿をした、5匹のキョウダイが、身を寄せ合って眠っていた。ドタバタ と、騒がしくなる前までは──……

「銀紙ってどこにあるの? 」

 最初の ドタバタ が言った。

「私の部屋にあるわよ! リク、ついてきて頂戴」

 2番目の ドタバタ が言った。

「ニック! 板はこっちだ」

 3番目の ドタバタ が言った。

「幅が広いなあ、扉をめいっぱい開けてくれ」

 4番目の ドタバタ が言った。

 ドタバタ たちは、気の済むまで騒ぐと、ピッタリ と何処かへ消えてしまった。


 その騒音に、すっかり目を覚ましてしまったピクシーたちは、むっつりと巣の中から抜け出した。

「全く、こんな早くから何かしら! 」

 先ず、口を開いたのは、キョウダイたちの中で、いちばん おしゃべりの、リーレルだった。

「折角の快眠が、台無しだわんっ! 」

 キョウダイたちの中で、いちばんの気取り屋のチェーリターは、そう言って、自らのほおでた。

「でも、でもお、とってもみんな楽しそうだったねえ! 何かがあるのかも知れないよ? 」

 キョウダイたちの中で、いちばんの お調子者のパヨーニルは、ワクワク して言った。

「楽しそうだっただと⁉ オレ様たちの睡眠を邪魔じゃましておいて、許せん! 」

 キョウダイたちの中で、いちばんの怒りん坊のオオッコーは、案の定、ご機嫌斜めだ。

 そんな中で、唯一、まだ巣の中に潜んでいるピクシーがいた。

「あら? トッテンビッターは? 」

 キョロキョロ と周囲を見回して、リーレルがたずねた。

「どうせ、また巣の中でおびえてんだ! ほら見ろ、腰抜けめ! 」

 オオッコーが、イライラ して言った。

「ボ、ボクは腰抜けなんかじゃないっ! 」

 布の向こうから、か細い声と共に現れたのが、トッテンビッター。カレは、キョウダイたちの中で、いちばんの臆病者おくびょうものだ。

「腰抜けじゃないトッテンビッター! それなら、オイラたちと一緒にサロンへ行こうよ。なんだかおもしろいことをやっていそうだよう! 」

 パヨーニルが言い、ミンナがそれに賛成した。

「行こう、行こう! 」と飛んで行くキョウダイたちの背中を、ソワソワ と見つめていた、“腰抜けじゃないトッテンビッター”だったが、ようやく覚悟を決めると、「待ってよう」と後に続いた。


 7号車にあるサロンは、いつもと少し、違っていた。普段なら、乱雑に放置されている椅子たちが、大きなテーブルを囲う様に、行儀正しく中央に並べられ、汽車の従業員たちが、何やら会議を開いているみたいだった。

「何を話しているのかしらねん」

 チェーリターが言った。

「どうせくだらん話さ! 」

 オオッコーが言った。

「いいや、楽しい話に決まっているよ」

 パヨーニルが言った。

 そうして、一斉にリーレルを向いた。カノジョは、ピクシーのキョウダイたちの中で、唯一ゆいいつ、人間の言葉を理解できるのだ。

 リーレルは、ほとんど無いに等しいあごを指先で押さえて、「うーん」とうなると、「クリスマスパーティを開くらしいわよ」と言った。

「クリスマス! 」お祭りが大好きなパヨーニルがさけんだ。「最高じゃないか! 」

 一方で、ずっと不機嫌なオオッコーは、腕を組み、「ほら、くだらん話だった! 」と言い放った。

「くだらなくないわん。特別な日よ」

 チェーリターがオオッコーをしかった。

「それで、それで? パーティを開いてどうするって? 」

 “クリスマス”という響きに頭がいっぱいのパヨーニルが、続けて質問をした。

「ちょっと待って頂戴ね」

 頼られて、得意になっているリーレルが、澄ました顔でパヨーニルを制すと、「ふんふん、なるほどねえ」と首を上下に振った。

「どうやら、“プレゼント交換”ってものを、やるみたいよ」

「“プレゼント交換”? 」

 キョウダイたちは首を傾げた。

「それぞれが、いちばん だっていう物を持ち寄って、交換することよ」

 物知りなリーレルが答えた。

「それなら、オイラたちが適任じゃないか! 」“いちばん”という言葉に目を輝かせて、パヨーニルが大きな声を上げた。「ピクシーであるオイラたちに、集められない物なんてないからね! 」

「それもそうね! 」

 リーレルも、カレの言葉にうなずいた。

 数ある妖精の種類の中で、いちばん 数の多いピクシーたちは、ジブンたちの力を過信するくせがあるのだ。

「今こそ、オレ様たちの力を見せつける絶好の機会だ」

 いつもなら「くだらん」と終わらせてしまうオオッコーでさえ、張り切ってしまった。

「ところで、何を集めるの? スミレのお花とか? 」

 ミンナの話を、静かに見守っていたトッテンビッターが、まゆを下げながら尋ねた。

「スミレのお花! どうせなら、もっと凄い物がいいわ! 」

 リーレルが悲鳴の様な声で言った。

「それならさ、それならさあ」

パヨーニルが ニッタリ と笑った。その顔を見て、トッテンビッターは身の内が凍える様な感じがした。嫌な予感がする。

「《サンタの灯火》なんてどうだろう? きっと皆ビックリしてくれるよ」

「あのまぼろしと言われている⁉ 見つかるかしら」

 パヨーニルの提案に、リーレルは不安そうに言った。

「ボクも、難しいんじゃないかと思う! 」

 トッテンビッターが言おうとした、その時。

「でも、面白そうね! やってみましょう! 」

 リーレルが頷いてしまったのだ!

 他の2匹のキョウダイたちも、パヨーニルの提案に満足している様子だ。

「そんなあ」

 こうして、ピクシーたちのプレゼントは、《サンタの灯火》に決まってしまった。

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