第三話 兄妹の日常・夜
「「いただきます!」」
夕刻。もう薄暗くなった夜の森の片隅。小さな山小屋からは暖かい
「ん、
「はは、それなら良かった。作りすぎちゃったから、明日も一緒だけど、その分おかわりはいっぱいあるから。食べたいだけ食べていいよ」
「うん!」
小さな茶碗に
「お兄ちゃん、そういえば、どうやってソクをつかまえたの? ソクってすばやいんでしょ?」
少女が茶碗二杯分の炊き込みご飯を完食し、三杯目を食べ始めた時。ご飯からふと顔をあげ、そんなことを少女は聞いた。
ソクは少し標高の高い森林に住む、緑色の羽根を持つ小さな鳥だ。素早く地面を飛び回りながら、地面に潜む小さな虫を
二杯目のお代わりをおひつからよそっていた少年は、食卓に戻ってから話し始める。
「割と簡単だよ。罠を仕掛けるんだ」
「でも、ソクはかしこいよ! わなは見抜くってずかんに書いてあった!」
そう。ソクは他の鳥達の平均より〈意識〉の性能が良い。つまるところ、賢いのだ。だから、餌となる小さな虫に針を刺して地中に埋めても、器用にそうでないものだけを選んで食べてしまう。そのために人間が自分で捕まえなくてはならず、ソクの小さい身体では余りにも労力に対して収益が乏しいのだ。
「それは、金属の針を使うからさ。ソクは金属にはすぐ気付くから。ズズルの蔓で餌を結んで、一日放置してから地面に設置すれば、割と簡単に引っかかるよ」
……という世間の常識は割と、山の麓の小さな山小屋でぶっ壊されたりもする。
ソクは確かに賢い。金属からする非生物的な匂いを嗅ぎ分け、それを避けることが出来る。だが残念ながら、毒を検知することは出来ないのだった。
ズズルは、涼しい山の麓にだけ生える、細い蔓を持つ植物だ。食用は勿論、薬用や建材などにも用いられない雑草で、山にしか生えないために知名度も低い。だが、実はその蔓は極々微量の毒を持っており、人間ほどの大きな生物なら問題はないが、小さな生物は長時間触れていると毒が回って死に至る。少年は、小さな虫にこの蔓を巻いておき、小さな虫に毒を浸透させることで、それを食べたソクの動きを麻痺させたのだ。
「で、そこで茂みに隠れてた僕が飛び出して、捕まえるってわけ。一日だけでも結構捕まるから、ソクが多い時期は便利だよ」
「すごい! お兄ちゃん、かしこい!!」
「あはは、昔からの知恵かな。ありがと、ルリ」
そんな兄の知恵に、少女は興奮しっぱなしだ。本に書いてあったことを、自分の目の前の兄が覆してしまったのだから、仕方がないのかもしれない。妹から手放しで褒められて、少年は恥ずかしそうにはにかんだ。
「……あっ、お兄ちゃん! 私、森にぼうし置いてきちゃった!」
そんなことを話していたから、森のことを思い出したのか。少女は少し焦った様子で、麦藁帽子を忘れてきたことを告げる。見れば確かに、服掛けにはあの白い麦藁帽子は掛かっていなかった。
「あ、ほんとだ。何処に置いてきたか分かる? 僕が取ってくるよ」
「ほんと? ううん、でも分からないの……。」
「うん、大丈夫。半刻ぐらいで戻ってくるから。お兄ちゃんを信じて!」
そう言って少年は、山小屋を出る。夏の夜はまだ何処か蒸し暑くて、四方八方から虫の鳴く声が響いてきていた。
今日遊んでいたところは、山小屋の裏手の場所だ。入口から山小屋の裏に回り、森に入っていく。軽く整備された道を進んで奥に行けば、森の中の小さな広場のような場所についた。
「かくれんぼのあと、ここらへんでお花摘みしてたんだけど……あ、あった!」
その場所から少し外れた、小さな茂み。その隅に、少女の白い麦藁帽子は落ちていた。
「良かった、殆ど汚れてない。ユヅの花もついてるし、大丈夫かな」
持ち上げた麦藁帽子の土を払って、少年はそれを眺める。見ればその麦藁帽子には、最近付けたのであろう綺麗な黄色い花が留められていた。
それからそれを大切そうに抱えて、少年は来た道を戻る。思ったよりすぐに見つかったので、きっと妹も喜ぶだろう。戻ったら、食べきっていない炊き込みご飯を食べてしまおう。そんなことを考えながら、山小屋の扉の前まで戻って、
「ルリ、ただい……、ま?」
山小屋の中の、黒ずくめの男達を見た。
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