第6話

 現神様の社は、正直言って社と言えるような建造物は無く、下界が見える大きな穴の側に、ただ大層な椅子が置いてあるだけである。


 しかし、だからこそ神様は、人類に起きた異常に、すぐ気付いていました。


 神様は、私たちが社内(どこからが境内なのかは分からないので、半径100メートルからが社だと、私は思っています)に入った瞬間に、聞いたこともない怒号が飛んできました。


 「お前達は一体何をしたんだ!」


 随分とお怒りのご様子で。まぁそらそうですよね、自分の大好きな人間を、細胞一つ残さず消されてしまったのですから。


 しかし、そうなると人間は、細胞の一つすらも好いていたということですか。理解が追い付きませんね。


 ここで言い訳など無粋でしょう。そもそも私たちは、何故人間の好きな物を消したら、全てが消えてしまったのか、その理由を訊きに来たのですから。


 私は、神様を前に臆することなく、素晴らしくすべすべな両足を雲の上に着けて立ち、そして神様に言います。


 「私たち天使一同は、邪な心を持った哀れで救いようのない人間たちに、罰を与えました。『人間の嫌いな物を二倍にする』という罰を」


 「ああ、確かに二倍になったな。地球だけでなく、他の惑星まで二倍に増えていた。危うく宇宙滅亡だったぞ」


 え、では人間は太陽系の惑星まで嫌っていたということですか。信じられませんね。


 「はい。それで、罰を与えた筈なのに、同じ地球が増えただけでは、あまり罰としての意味が無いように思えたので、今度は『人間の好きな物を全て消す』という罰を与えました」


 「すると、地球どころか、太陽系全てが失くなってしまった、と」


 「ええ、そうなん。え!太陽系失くなったんですか!?」


 「ああ、消えたさ。銀河まで消えたかもしれない。その所為で、宇宙は無限に続く闇に変わり果ててしまった」


 つくづく意味が分かりません。人間は何を好いて、何を嫌っているのだ。私は、ようやくそれについて訊きました。


 すると神様は、答えてくれました。


 「人間は、世界の全てを嫌っている。しかし、それと同時に、世界の全てを愛しているんだ」


 「そ、それが意味分からないんです。何故嫌っていて好いているんですか、普通片方だけですよ」


 「君たちは、どうして個人に対して罰を与えなかったのかな」


 「個人だけを攻撃するのは不平等ですし、それに人間は、誰しもが同様に罪を犯しています。だから全員に罰を与えることこそが正しいと思ったからです」


 「なるほどね、良い考えだ」


 やっべ!神様に褒められちった!出世間違いなしですね。


 「しかし、それが間違いだったんだ」


 否定されちゃいました、これは出世できませんね。


 「人間は、好き嫌いの感情で成り立っているんだ」


 「好き嫌いの、感情ですか?」


 「勉強は嫌いだが、友達に出会える学校は好き。怒る母親は嫌いだが、普段の優しい母親は好き。政策の悪い政府のことは嫌いだが、給付金をくれる政府は好き。勿論、この方程式が成り立たない場合もある。しかしだ、例えば、誰からも嫌われているろくでなしの少年でも、世界のどこかには、彼を好いている人だっているんだ。誰もが誰かを愛し、誰もが誰かを嫌っている」


 「おかしな生物ですね」


 「それが人間さ。一つの感情じゃ生きられない」


 人間、つくづく理解の出来ない生命体です。ですが、中々素晴らしいじゃないですか。誰かが誰かを好くことで、その誰かは一人ではないと思える。互いが互いを支えあっている。


 なぜ、神様が人間を好いているのか、それが分かったように思えました。

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