第2話
思いの外皆さんの頭に血が上り過ぎている様子でしたので、一旦休憩を挟みました。
まだ会議を始めて10分も経ってないんですけどね。
私は思わずため息を吐いてしまいました。これでは幸せが逃げてしまいます。これから人間に罰を与えて、幸せを獲得しようというのに。
会議長というのは、こうも心労するものなのでしょうか。こんなことなら、会議なんて開かなければよかったですね。はぁ。
「あんまり気負いしないで、気楽にね、エルちゃん」
そう私を励ましてくれたのは、先ほど人間への不殺生を提案してくれた、ベテラン天使のカリギュラさんでした。
「ありがとうございます。ですけど、気負いしないで気楽に、と言われても、それはあまり出来ないですね」
「あらどうして?」
「そもそも私には全員を纏める統率力はありませんし、それに、失敗しても神様に怒られ、成功しても楽園追放という未来があるなかで、中々気楽とはいけません」
しかも、同士達までそうなる可能性があっては、余計に気楽になんていけません。本来ならこんな会議、開くべきではなかったんです。
「そんなことないわエルちゃん。もともと私たちは、楽園追放されるつもりで、その覚悟でこの会議に参加しているんだから」
そうなんでしょうか、そうには見えませんが。まぁ、ベテラン天使が言うんですから、きっとそうなんでしょう。と、私は疑問を飲み込みました。
とにかく、今の私がするべきは疑問を浮かべるのではなく、会議を無事終了させ、人間に罰を与えること。
「ありがとうございます。私、頑張ります!」
「ウフフ、うん、頑張って。あたしも良い案出せるように、頭を捻っておくわ」
「どんな案が出るか楽しみです」
そうして、休憩時間は終了しました。彼女のお陰で、私の心は幾分か気楽になりました。
「では、人間に罰を与える会議を再開します!」
清々しい程に大きな声が出てしまいました。いつもの私じゃないですね。心が少し跳ねるだけで、こうも人は変われるのですね。ま、私天使ですけど。
「それでは、意見のある方は挙手をお願いします」
私のその一言で、40枚の布が擦れる音がしました。先程に比べ、その数は半分以下ですが、それでも多いですね。
私は、意見者の顔を見回しながら、最後に目に付いた138歳の天使、ツァイガルニクさんを当てました。
「人間は、嫌なことをよく覚えてしますよね。成功したことよりも、失敗したことの方を、それって凄く辛くないですか?ですから、人間への罰はこうしましょう、これから一週間、自分のやることなす事、全て失敗させ、無力感、劣等感、欠落感、そんな感情を与えましょう」
心に訴えかけるというのは、中々に良い案ですね。それに、無力感や劣等感によって、その感情が怒りになり、同族同士で争ってくれれば万々歳です。ウシシシ。
しかし、私たちは決めました。人間は殺さない、と。
「人間が自殺、そして殺し合わないような案が良いですね。なのでツァイガルニクさんの案は、今回は受け入れれないですね」
他人の意見を無下にするというのは、やはり心苦しいですね。彼女が彼女の想いを込めた意見を、軽々しい一言で無かったことにするのは、はぁ、心労です。
しかし、私はその覚悟で会議長になったんです。採用する案はそもそも一つのつもりで来ました。なら、どちらにせよ、ここにいる99人の天使、その内の98人の意見にバツを付けないといけないということです。
心苦しいなんて、言ってられません。
「次、案を思い付いた方は挙手を」
私のその一言で、39枚の布が擦れる音がしました。
私は、次々と当てて、そしてバツを付けていきました。
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