第3話
いつも通りの道を歩きながら考える。親友は何でわざわざ明日写真を撮ろうだなんて言ったんだろう?別に毎日私たちは何も言わなくても写真撮ってるし。今日だってプリクラ撮ったし。ケータイの壁紙は修学旅行の時に二人で撮ったやつだし。なんだか変だな。でもまあ、改めて言いたくなったって事か。
そう自分で結論付けた時、突然空からゴゴゴ、と聞いたこともないような轟音がした。
そういえば電車を降りてから空の色はやけに変だった。おかしいなと少し思っていた。咄嗟にケータイを開けて、親友や家族に連絡を取ろうとしても圏外。
でもケータイの画面を見たところで私は気付いてしまった。
今日は2月29日だ。
2月29日。そういえば朝のニュースに出てた面白くない芸人が一応ブレイクしたきっかけは「隕石も珍しい閏年を体験してみたい」みたいなネタだった。あれは予言だったんだ。親友に来てたチェーンメールだって「このメールを4人に回さなかったら4時間以内に日本がボコボコになります。あなたがこれを回さなかったせいでボコボコになるのです」とか書いてあった。本当にそうなってしまうんだ。そりゃ隕石落ちたら物理的にボコボコになるわ。
そして2月29日という日付にハッとさせられた。今日は2月29日。明日は3月1日。つまり卒業式があるという事になる。
だからか。だからか。
だから親友は「明日絶対写真撮ろうね」って言ってたんだ。これまで体育祭とか文化祭とか大事な時に限って写真撮るのを忘れてたから。隣のクラスの男子が私にメールをしてきた理由も何となく想像がついてきた。きっと最後に話したい、告白したいのかもしれないんだ。
でもそんな事今気付いても既に遅い。近くにあるビルの崩壊する音がそうやって私に言ってる。ああ、私が明日を生きる事は多分無いんだろうな。家に帰って家族と話したかったな。結局プリクラは全部保存出来なかったな。せっかく受験頑張ったのに高校卒業も大学入学も出来ないんだな。隣のクラスの男子と私がどうなるのかは分からずじまいだった。親友と卒業写真も撮れなかった。今日この日を、2月29日を、ただのフツウな、いつも通りな日だと思っていた。前の日も、その前の日も、というか今までずっとフツウな日のままだと思っていた。
段々と意識が薄れていく。この状況をどう言葉で表せばいいんだろう。フツウ?いつも通り?そんなモノとはかけ離れている。こんなことが起こるだなんて。普通が、いつも通りが、自分の命が突然なくなるだなんて。今まで考えもしなかった。
ああ、2月29日は。前の日は。その前の日は。これまでは。有るはずだったこれからは。
いつも通りじゃ、フツウな日なんかじゃ
「姉ちゃん、牛乳嫌いだっけ?」
弟の声が聞こえる。真っ白な視界から声のする方を向くと弟が見えた。辺りを見渡すといつもの朝の光景。面白くないニュースが付いていて、私は制服を着ていて、十数年一緒に過ごしてる家族とリビングで朝食をとっている。
「牛乳を5秒間くらいずっと見つめてたけど、どうしたの?明日の卒業式、今日のうちから緊張してるの?」
「別に。…なんでもない」
どうやら私は牛乳を5秒間くらい見てたことになってるらしい。なんだかよく分からない。
朝に戻ったってこと?どこか違う世界に行っちゃってたってこと?隕石は?日付を確認しても今日は2月29日。テレビを改めて見るとやっぱり面白くない芸人が隕石をネタに話している。もう何がなんだか分からない。家を出ても道はいつも通り。崩壊したビルだって元通り。隕石の欠片も全く落ちていない。定期だって普通に使えて、何もなかったかのようにいつもの時刻に電車が来る。
電車に揺られながら考える。
私が体験したことはただの妄想なのかもしれない。でももしかしたら本当なのかもしれない。これから友達から遊びに誘われるのかも、隣のクラスの男子からメールが来るのかも分からない。隕石が落ちずに明日無事卒業式が行われるとは正直断言できない。
でも確実に分かることはひとつ。
今日もまた、きっとフツウなんかじゃ言い表せない一日が始まる。
2月29日 旅音。 @tabi_666_
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます