第21話
8月30日、月曜日。
始業式のある今日、教室はいつものにぎやかさを取り戻した。
「なあいずみ、結局この前は上手くいったのか?」
柊馬は興味津々に、委員長はちょっと遠巻きに聞いてくる。
「何とか渡せたよ。気に入ってもらえたみたいだし、上手くいったと思う。三人ともありがとう」
素直に伝えると柊馬は自分のことのように手を叩いて喜んでいた。
「ほんと、上手くいってよかったよ。朝早くから呼び出されたと思ったら、いきなり髪留め作るの手伝ってなんて言われて。結局私たち三人とも三日間つきっきりだったじゃない」
「まあ、そのうち二日はいずみ君の作業を眺めながら班別学習の方を進めてたけどな」
ツンとした態度の一ノ瀬さんを茶化すように委員長は言った。
「まあ一ノ瀬が三日間つきっきりだったのは本当だけどな。いずみだってあんなに厳しく言われるとは思ってなかったんじゃないか?」
続けて柊馬も茶化す。
からかわれるたびにちょっとずつ脹れる一ノ瀬さんが可愛らしく、僕もちょっと冗談を言ってやろうという気になってしまう。
「そうだねえ、色の調合は覚悟していたけれど、まさか色塗りが厳しいとは思わなかったし、防水云々であんなに色々することになるとは思わなかったよ。
でも、手をかけた分だけいいものになったと思うし、一ノ瀬さんの協力がなければ完成すらできなかったと思う。3日間僕のために付き合ってくれてありがとう」
そう言って手を差し伸べる。
途中から褒められ始めたのがそれはそれで恥ずかしかったのか顔を赤らめた一ノ瀬さんはしぶしぶといった感じで握手に応じてくれた。
「そーれーでー、例の女の子はどんな感じの娘なんだ?」
「こら柊馬、あんまりそういうことをずけずけと聞くな」
再び興味津々に聞いてくる柊馬をたしなめるように委員長が軽くたたく。
それを見ていた一ノ瀬さんもいつもの光景が可笑しかったのか口元を抑えて笑っていた。
いつも通りの日常にホッとする。
三人が茶化しあい、じゃれあっている風景が羨ましくて愛おしい。
大切なものがなくなってしまわなくて本当に良かった。
「それで結局どんな娘なんだよ。髪が長いとか短いとか、そんなんでいいからさ」
「んー、髪は長くて病的なまでに肌が白く、枯れ枝のように細い手足に…」
「ほーらお前ら、席着け席」
彼女がどんな人かの説明は突然入ってきた先生によって遮られてしまった。
柊馬はタイミングの悪さに恨めしそうにしながらしぶしぶ自分の席へと帰っていく。
同じようにしてクラスの全員が席に戻った。
先生は待っていたかのように口を開く。
「今日から二学期だが、宿題の回収の前に伝えることがある。入ってきなさい」
そう言って教室の扉はひとりでに開き、廊下から一人の生徒が教室へと入ってくる。
長い黒檀の髪に病的なまでに白い肌、枯れ枝のような手足に青い桜の髪留め。
よく見知った『幽霊』が堂々とした態度で教壇の前まで歩いてくる。
「桜庭真白です。訳あって学校をお休みしていましたが今学期から復学します。
皆さんどうぞよろしくお願いいたします」
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