第11話②
それから僕らは雨宮邸でもういくつかの伝承を聞いた。と言っても深い意味を孕んでそうなのは『桜の妖怪』の話だけでそのほかはよくある教訓系の話だったのだが。
「えー、柊馬おにいちゃんもう帰っちゃうの?せっかく今日は休みなんだよ?お祭りの時いっしょに行けなかった分埋め合わせしてくれるって言ったのに遊んでってくれないの?」
「でもなぁ、この後今日聞いた話についてある程度まとめないとだし…」
潤んだ目で柊馬を見つめる例の少女の誘いに、助けてくれとこちらに必死に目線を送ってくる柊馬。
「じゃあ柊馬の分までやっておくから遊んでてもいいよ。大体どんな感じにするかは決まっているから心配しないで」
「いずみ本当にありがとう!今度アイス奢るからな!」
「うん、それじゃあまた明日」
柊馬とはここでわかれて三人で四季に向かうことに。
三人だけになったのでずっと気になっていたことを二人に聞いてみる。
「あのさ、あの女の子僕のことを明らかに嫌っていたよね?僕何もしてないと思うんだけど、理由知ってたりする?」
ずっと気になっていたけれど、なんとなく柊馬には聞きづらかったのだ。
二人は顔を見合わせてどう伝えるべきか悩んでいるように見えた。
「まあ、思ってたより嫌われてたね」
「だな、冷たいお茶を出してもらえた時点でマシだったんじゃないか?」
一歩間違えると熱湯を飲まされるレベルだったのか。
「この島ってさ、意外と閉塞的なコミュニティなんだよ。さすがに島民全員が顔馴染みって程じゃないけど、話くらいなら自然に入ってくるし知ろうと思えば相手の情報はある程度は知れるのね。その中でも年長者は部外者が入ってくるのをかなり嫌ってるの。杏平のお父さんは島の重役だからいずみ君が引っ越してきたときなんかいろんな人を説得してくれたんだよ」
そうだったのか。確かに東京みたいに人が入り混じるような場所ではない。そういった人はいるだろう。今まであまりに普通に生活できていたので気付かなかった。
「知らなかった…ごめん、お父さんに迷惑かけて」
「ごめんじゃなくてありがとうな。そんでまぁ、年長者はしぶしぶ納得はしてくれたんだ。でも頭や理屈で納得はできても受け入れられるのとは別で、関わりたくない関わってほしくないっていう態度をとってる人は多い。まあ、そういう人とは基本関わらないから気にしなくてもいいんだけど…日菜ちゃんはちょっと難しいよな」
そう言って委員長は額に手を当てその場を歩き回り始めた。
「日菜ちゃんってあの女の子のこと?」
どう伝えるか悩んでる委員長に変わって一ノ瀬さんが言葉を引き継ぐ。
「そう、雨宮日菜。雨宮家のお孫さんで両親が仕事で島にいないからおじいちゃんと二人で暮らしているの。だから柊馬が遊び相手になっていたんだけど、最近柊馬が遊んでくれる時間が減っているの。今までは休み時間や放課後に柊馬は日菜ちゃんとか低学年の子たちと遊んでることが多かった。でもいずみ君が来てからはいずみ君が孤立しないように柊馬はいずみ君と一緒にいることが多くなった」
つまり僕と柊馬が一緒にいるから雨宮さんが柊馬と遊ぶ時間が減った。雨宮さんから見たら僕はいきなり現れて遊び相手を独占してる部外者ってことなのか。
「じゃあそれであの子は僕のことを敵視してたのか…ちょっと謝ってくる」
踵を返して雨宮邸に向かおうとすると委員長に手を掴まれる。
「待て待て、今行っても火に油だ」
そのまま手前に回り込まれる。
大人が子どもに言い聞かせるように、こちらの目を見つめながら諭すように話し始める。
「誠実さというのは大事だが、人間関係それが全てじゃない。正直に謝れば許されるなんて同級生より年上限定だからな。もっと大切なのは相手を知ることだ。時間をかけて相手を理解しようとして、それでようやく気持ちってのは伝わるもんだ」
誠実さだけでなく、相手を知ることで生まれる人間関係があるなんて考えたことがなかった。今までの僕は自分を知ってもらって誰かと関係を作るような、どこまでも受け身な人間関係しか知らなかったことに気づかされる。
今できるのは相手を知ることなのかもしれない。
「そっか、うん。そうかもしれない。委員長、ありがとう」
それを聞いて委員長がほほ笑む。
「それじゃあ、アイスでも買ってさっさと今日の話をまとめちゃいましょう」
再び三人で歩き出す。
人間関係が上手にできない辺り、自分はまだまだ子供だなと思い知らされる。
委員長に一ノ瀬さん、島のみんなが大人に見えて少し羨ましかった。
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