第6話

もう日が暮れた頃、今度は柊馬に連れられて歩く。委員長と一ノ瀬さんはどこに行くのかわかっているようだが、僕には皆目見当がつかなかった。

歩くにつれて人通りが少なくなり、明かりも減っていく。

しばらく歩いてようやくどこに向かっているのか気づいた。

学園だ。

この道を曲がってすぐにあの坂が見えるはずだ。


 「あっ…」


目に入った景色に思わず見とれてしまう。

あの坂道は月明かりに照らされて見事な桜並木になっていた。

風はなく、ただ寿命を迎えた桜の花びらだけがほろほろと落ちていく。


 「すごいだろ?どうしてもこの景色を見せたかったんだ!」


柊馬が無邪気な笑顔を向けてくる。その桜並木は誰に聞いても素晴らしいと答える美しさだった。

見れば委員長や一ノ瀬さんも笑っていた。


 「この桜はね、今日限りできっかり散っちゃうんだよ。だからこの景色を見れるのは来年までお預けなの」


そうか…もう当分桜を見ることはできないのか。

そう思うと途端にこの桜が恋しくなってきた。この美しさを永遠にできたらどれほどよかっただろうか。


 「その…ありがとう。まだ会ったばかりなのにこれだけ仲良くしてくれて」


 「なーに言ってるんだよ。せっかく同じ島に住んでるんだ、卒業までずーっと付き合ってもらうからな!」


柊馬にどんと肩を叩かれる。ちょっと痛かったが、それも嬉しかった。


 「その…」


また来年も誘ってほしいと、喉まで出かかった言葉を直前で飲み込む。三人に少し心配そうな顔をされた。

ほんの一瞬だったが怖いと思ってしまったのだ。彼等の時間に自分が入ることを。そして約束をしてしまうことを。彼らは自分が輪の中に入ることを本当は快く思っていないのではないかという嫌な考えが、過去の思い出とともに頭をよぎってしまう。

とっさに笑顔で取り繕う。


 「ううん、なんでもない」


僕の笑顔に彼らは安堵してくれたようだった。一ノ瀬さんだけは疑うような眼をしていたが、委員長や柊馬が笑顔なのを見てすぐに笑顔に切り替わった。


 「さて、これが僕たちの班行動の記念すべき一つ目。七不思議のひとつである、『一夜限りの満開桜』です。いったいどうして桜が散ってしまうのか。科学的な根拠は探せば出すことができるだろう。だがしかし、この美しさは一瞬で、永遠ではないからこそ美しいのだ。君にもきっと覚えがあるだろう?あの一瞬の美しさが!」


委員長が声高らかにしゃべりだす。驚いて柊馬を見たが、やれやれといった感じで首を振っていた。


 「こうなったら誰にも止められないからな。俺たちは諦めて聞き流すしかないんだぜ」


なるほどそういうものか。それにさっきまで永遠を誓う儀式をしていた人が何を言っているのやら。見れば一ノ瀬さんも顔を赤くしている。

でも…永遠ではないからこそ美しい、か。

僕はきっと美しくなくても永遠を選ぶだろう。その一瞬を後で懐かしみ、後悔するくらいなら最初からそんなものは知りたくなかったと言うに違いない。



それから僕たちは街全体から明かりが消えるまで語り合った。

僕が住んでいた東京のこと、この島のことや学園での出来事など。

柊馬が帰ろうと言い出さなければ朝まで語り合えたような気がした。

帰り道、一人で桜並木を見てようやく気付いた。この桜がきっとこの島に住む彼らの誇りなのだと。

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