第3話

  「さて、今日の班別学習だが、まずはテーマ決めをしてもらう。いずみ君は委員長と同じ班で。それじゃあ決まった班から帰っていいから」


それだけ言うと北条先生は早々に荷物をまとめて教室を出て行ってしまっ

た。クラスのみんなも荷物をまとめて席を移動し始める。


 「ねえ、これってつまりどういうこと?」


同じく席を立とうとする柊馬に聞く。僕が聞くと柊馬にぽかんとした表情をされた。


 「とりあえず荷物まとめてついて来いよ」


それだけ言うと柊馬は荷物をまとめてすたすたと去っていく。

言われた通り荷物を持って後をついて行く。連れてかれた先は教室から少し離れた日当たりのいい空き教室だった。


 「委員長~、説明してないならそう言ってくれって」


教室の中には委員長と髪の長い眼鏡をかけたおとなしそうな女子が一人。会議で使うような長い机をくっつけて向かい合うような形で座っていた。


 「そりゃあ、お前がやってくれると思ってたから言わなかったんだよ」


それを聞いて柊馬がやれやれという感じで席に着く。僕も柊馬の隣に座る。


 「とりあえずメンバーが増えたから、胡桃は自己紹介して」


委員長が向かいに座る女子に向けて言う。胡桃と呼ばれた女子は読んでいた本を机においてこちらに向き直る。


 「一ノ瀬胡桃です。よろしく」


淡々と名前を告げられる。まじめで、固そうな人だなと思った。


 「それじゃあまずは班別学習の説明からね。まず、班別学習っていうのは文字通り班ごとにテーマを決めてそれについて調べ、二学期の文化祭で発表する学園の取り組みのことを指します」


 「そんでもって、班は基本的にくじ引きだけど、この班だけは違う。ここにいる三人は御崎島みさきじまに住んでいて、他の生徒はみんな隣の安登島あとじまから毎朝船で学園に通っている。だから御崎島住みは人数が少ないから同じ班にまとめられちゃうんだ。いずみも御崎島に住んでるんだろ?」


柊馬に聞かれてようやく昨日の先生の言葉の意味が分かった。つまり僕が御崎島に住んでいるから先生は帰り際の委員長にあんなことを言ったのだろう。


 「うん。港の近くに住んでるよ」


 「港の近くか。あそこらへん、朝結構うるさいだろ」


確かに朝はうるさい。あれは隣の島から学生が登校してきたからだったのか。昨日の登校は遅かったので船で来ているなんて気づかなかった。前通っていた学校は電車通学だったので、船での通学に特別疑問符は浮かばなかったが、それでもやっぱり大変だろう。

ところでなぜ隣の島に住んでいる人は向こうの学校に行かないのだろうか。それとも行けない理由でもあるのだろうか。


 「向こうの島には学校がないのよ。だからみんな桜ノ宮学園に来るか、本土の方に引っ越すかのどっちか。それでもって本土に引っ越す人が多いから人口流出に歯止めがきかなくて島自体も財政難に陥ってるって現状があったりもする」


少し考えていただけだったが、一ノ瀬さんに疑問とその答えをぴったりと言い当てられる。


 「そ、そうなんだ。教えてくれてありがとう」


どうして当てられたのか不思議でしょうがないが、ともかく感謝の言葉を聞いて一ノ瀬さんは少し満足そうにしている。


 「班別学習は週一回あって、その日は一日自由行動だからあんまり面倒くさいのは嫌だなって感じ。つ―ことで今日もぱっぱと終わらせようぜ」





 「えー、駄目?楽だしすぐ終わるしいいじゃんか『苗字調査』」


 「駄目に決まっているだろ。だいたい戸籍を役所で誰でも調べられると思ったら大間違いだからな」


柊馬が出した案で委員長と言い争いしている。

こっちはその間に今までにあった案や過去のテーマを一ノ瀬さんに教えてもらっていた。


 「…とまあ、こんな感じで動植物を調べる系が多いかなって感じ。これなら参考資料も多いからやりやすいかもしれないけど、いずみ君はどう思う?」


確かにこれだけ自然に囲まれた島だ。植物を調べるだけでそこそこな出来になるだろう。


 「悪くないと思うけど、植物だと季節で変わっちゃうから大変そうというか…柊馬が嫌がりそうなイメージ」


 「間違いない。それじゃあどうしようか」


再び二人で考え始める。小中学校での記憶を探ってみるがそれっぽいのが見当たらない。というか、人付き合いが苦手で班行動とか避けてたなーと。


 「ええい、埒が明かない。僕に案が一つあるから聞け。黙って聞け。」


委員長が声を荒げて柊馬を黙らせる。突然の大声に僕と一ノ瀬さん思わず椅子から落ちそうになる。委員長は全員の視線が集まったのを確認すると軽く咳払いをして口を開く。


 「僕の案はずばり『七不思議』!この島に古くから伝わる言い伝えを適当に七つ集めてそれについてまとめるんだ」


委員長の意見に三人ともおお~と感嘆を挙げる。七不思議というテーマがあれば後から多く調べる必要もないだろう。


 「委員長にしてはいい案出すじゃんか。ところで肝心の七不思議はどうするんだ?」


柊馬が質問する。それについても委員長はすでに考えてあったらしくこれまた自信満々に答える。


 「半分は僕たちが知っているもの、もう半分は島民に聞いて回って決めようと思う」


 「確かにいいかもしれないね。この島お年寄り多いから、古い言い伝えとか知ってそうだし。でも杏平の目的はいずみ君に島を案内することなんでしょ?」


一ノ瀬さんの言葉に委員長の顔が赤くなる。


 「委員長は御崎島で暮らす同級生が増えたって昨日の夜めちゃくちゃ喜んでたんだぜ」


柊馬に耳打ちで教えられてなるほどと納得する。


 「つまり昨日北条先生に知らされたときに妙に嬉しそうにしてたのはそういうことだったのか」


それを聞いて委員長の顔がさらに赤くなる。案外素直な人だったんだなと認識を改める。


 「もう終わりだ!テーマは決まっただろ?解散だ!解散!!」


照れ隠しなのかいつもよりも上ずった声で委員長が叫ぶ。そして提出用の紙にさらさらっと書くことだけ書いてさっさと教室を出て行ってしまった。

委員長が帰った流れで今日の班行動は解散になった。

柊馬は学園の外へ、一ノ瀬さんは図書館へとそれぞれ向かった。

一人取り残された僕はやらなきゃいけないことも特にないので家に帰ることにした。

せっかく早く帰れたのだからいつもより早めにバイトを始めようかな。

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