9
俺はベットに寝ていた。声が聴こえる。
「どうするんですか? このまま目覚めなかったら」
「ごめん、悪ふざけが過ぎたね。でもこれで確定だ。曽根くんの拳銃に対する知識は素人のそれだ」
「そんなの、直接聞けば良かったのに」
「それは違うよ。夢咲くん。人間は危機的状況に陥ったとき、忘れていた記憶や奇跡ともいえる身体的能力を発揮するんだ。普通に聞いたんじゃ本当のことが分からないよ」
そのあと、少しだけ間が空いて夢咲さんが言う。
「私は、逆だと思いますけどね」
少し前に意識が戻っていたが、黙っていた。気まずい沈黙で目を覚ますのが嫌だからだ。しかし、ずっと寝ているわけにいかない。
ゆっくりと目を開け、周囲を確認する。拳銃で追い回されたさっきの部屋とは違い、この部屋には生活感がある。冷蔵庫、机、小さなディスプレイ、電子レンジ、収納にもなる正方形の小さな椅子。それと、俺が寝ているベッド。
目を開けることにした。
「あ、起きた! あんまり動いちゃダメだよ。水飲む?」
「すみません。飲みます」
そう言ってからベッドの柵にもたれるように座る。そして、目が覚めてからずっと気になっていた、撃たれたはずのお腹を恐る恐る触ってみる。痛みもなく傷もない。また、奇妙なことが起こったのだ。
「そっちの方が楽ってことだよね。分かった。安静にして待っててね」
夢咲さんが冷蔵庫に向かった。
「曽根君、さっきは済まなかったね。天に誓って反省するよ」
若葉さんは静かに言う。声の調子からは分からなかったが、顔を見てみると少しげっそりとしているような気がする。
「本当に、反省してくださいね」
夢咲さんが水を持って来た。ガラス製のコップを受け取ろうとした時、自分の服装が変わっていることに気がつく。夢咲さんや若葉さんと同じ、真っ白の服だ。
「この服……」
「ああ。着心地はどうかな?」
若葉さんが自分の服を触りながら俺に聞いた。
「着心地は、たぶん、いいと思います」
水を少しだけ飲んで返事をする。コップの置き場に困っていると、夢咲さんが代わりに机に置いてきてくれた。
少し冷静になり、若葉さんにあることを聞いた。
「なぜ、僕はほとんど無傷で生きているのですか?」
若葉さんは目を丸くして、なぜか驚いている。
「あー、そうか。まだ気がついてないのか」
「若葉さん、気がつくはずないじゃないですか。撃たれてすぐに気絶しちゃったんですから」
夢咲さんは俺の肩を撫でながら、若葉さんに強く言っている。どうやら味方をしてくれているらしい。
その気迫に押されてか、若葉さんは両手で夢咲さんを宥めるような動作をした。
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