7
若葉さんと夢咲さんは、同じくらいの量を口に入れている。しかし、若葉さんの方が飲み込むまでに時間がかかっていた。
若葉さんの咀嚼時間が長いのだろう。ひたすら顎を動かし続けている。こめかみが、その内側になにか別の生き物が住んでいるのかと思うほど大きく動く。
「さきっち、口に合わなかった?」
「いえ、そんなことないです」
いろんなことに気を取られて食べるのが止まっていたらしい。また、イマイチな餃子を口に運ぶ。
二人とも、とても静かに食事をしている。なにかの儀式のようだ。
俺はやっと最後の一口を食べ終える。少し前に食べ終わっていた二人は、この雨について話していた。
すでに重なっている皿に自分の皿を重ねる。夢咲さんはさりげなくその皿を自分の方に引き寄せていた。
「じゃあ、食器持って行っちゃいますよ」
夢咲さんはゆっくりと立ち上がり、食器と箸をまとめて持って、廊下に出て行った。
「えっと、ごちそうさまでした。ありがとうございます」
「いいのいいの。勝手に呼んだのは私の方なのだから。これくらいの歓迎じゃ足りないくらいなんだよ」
若葉さんはシャツの中に手を入れ、小さなプラスチックの箱を取り出した。蓋をあけると錠剤がいくつか入っていて、一粒を指でつまんで取り出すと、水もなしに飲んでいる。
「すまない。時間を取らせたね。では、本題に入らせていただいて良いかな?」
若葉さんがどこからともなく取り出したハンカチで口を拭いた。本題とは、あの青いタオル生地の袋の中身のことだろう。
「この袋の中身、どこで知ったのかな?」
服の裏に錠剤の箱をしまい、次に出てきたのはやはりあの青い袋だ。
「これは、せがれが勝手に持って行ったのだけど、一度も中身を出してないと言ってたよ。その袋の中身を、なぜ君が知っていたのか。どうしても分からなくてね」
「その袋を持ってるとき、形が浮き出てました。その時の形が拳銃に見えたんです。だから分かったんです」
とっさに嘘をついた。いや、もしかすると嘘ではないかもしれない。俺の中でもあの時のことは、なにが事実でなにが妄想なのか分からなくなっていた。死んだあの記憶は既に曖昧になっている気もする。
「ふーん、そうなんだ。ところで曽根君。日本では拳銃は特別な資格がないと所持できないのは知っているかい?」
「はい。あの、警官とか、ですよね」
「その通り。他にもいるけどね、自衛官だったり」
青い袋を片手で乱暴に扱っている。何度も手の上で小さく投げていて、なにかの部品がぶつかる音が微かに聞こえた。
「そのような状況を踏まえて、だ。もし、クラスメイトが拳銃のような物を持ってきた時、果たしてそれを本物だと思う人間は何人いるだろうか」
青い袋の中から、拳銃が顔を覗かせる。若葉さんはその拳銃をこちらに構えた。
「ちょっと、待ってください――」
体が勝手に動く。脚はネズミ捕りのような勢いで地面を蹴った。しかし、勢いが良かったのは最初だけで、あとは立ち上がれない。
ドアの方へ匍匐前進で向かうが、構える拳銃が行手を塞ぐ。
次の瞬間、炸裂音が響いた。
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