6
九時半だと学校ではホームルームが始まっている時間だ。学校の先生は親に連絡を入れているだろうか。親も、事件や事故に巻き込まれてないか心配してしまうだろう。
それに、学校で厄介ごとになり若葉さんたちに迷惑がかかるんじゃないかと、それも心配だった。
「あの、若葉さん。九時半だともう学校に遅刻なんですけど、連絡入れてないんで、ちょっと問題があるかもしれないです」
恐る恐る言った後、不安が押し寄せた。もし、若葉さんに都合の悪い発言だとしたら、なにをされるか分からない。
しかし、そんな心配はいらなかった。
「その件は心配いらないよ。ほら、私のせがれも君と同じクラスだから。先生とも顔見知りだしね。おー、やっとだね。さ、食べよ食べよ!」
どうやら、学校と繋がりがあるらしい。あの青い袋から察するに、昨日俺を殺したあの男が関係してるのだろう。拳銃のことが頭をよぎったが、そこに触れる勇気はない。
高野さんが三人分の箸と米を持ってやってくる。そのまま床に置いた。
「圭は食べないの?」
「食べない。というより、ちょこちょこと食べてる」
高野さんはそれだけ言うと、右肩を回しながらまた廊下に出て行った。
「そっか。じゃあ私たちも食べよっか。机はないから、自分でお皿を持ちながら食べてね」
なにかと作業をしていた夢咲さんがやっと座る。正座を少し崩した形で座布団に乗り箸を持った。そして、毎日繰り返したような、自然な流れで食事が始まった。
まず、餃子を口に運ぼうとする。が少し変だ。一切焦げがなかった。感触も柔らかい。
水餃子に近いのだろう。
「曽根君、もしかしたら気がついたかもしれないが、この部屋の中に、黒は一切ないんだよ。もちろん、この料理もだ。焦げの黒が出ないよう、じっくりと仕上げてるんだ。圭がね」
言われてみれば、チンジャオロースにも全く焦げ付きがない。随分と妙なことをしている。
「どうして、黒を使わないんですか?」
質問を投げかけると、若葉さんはにっこりと笑って箸を置いた。
「よし、では一つずつ話していかなくちゃね、えっとね……」
「若葉さーん、まずは食事を済ませてからにしましょうよー」
やまびこが帰ってきそうなほどの大きな声で夢咲さんは言った。若葉さんは、なぜか嬉しそうに目を細め、置いた箸をまた持ち直した。チンジャオロースを少しだけ摘んでいる。
「ご飯は温かいうちに食べなきゃね」
大きく口を開けてから、咀嚼を始めた。あの少ない量の割には大袈裟に見える。
俺も続いて餃子を食べた。焦げがなくて見た目はいいが、大切ななにかが欠落しているような味がした。
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