若葉さんが座ってる座布団は赤色だ。中に綿が詰まっていて分厚い。入り口反対側の壁にも、大量の座布団が綺麗に積んであった。先ほどのボールペンのように様々な色が揃っているが、黒だけはない。

「んじゃまずは、座布団、好きなのを持ってきて。立ち話じゃなんだからね」

 若葉さんが言うが、すでに夢咲さん座布団の方に向かっていた。俺も後を追う。どの色にしようが迷ったが、名前を書いた色と同じ緑にした。夢咲さんも同じように黄色を選んでいる。

 座布団を運び若葉さんの前で腰をおろすと、俺たちが使わなかった方のドアが開いた。

「ったく、全然やまねぇじゃねえか」

 左手に料理を持った男だ。真っ白な皿を三つ器用に乗せている。

 頭に赤いバンダナを巻き、青色のエプロンを身につけている。チグハグな色合いだ。

 男は俺たちの方に向かってきた。遠くでも背が高そうに見えたが、近づいてくるとより、その存在感を感じた。

「おおー、キタキタ。今日も美味しそうだね」

 若葉さんがハエのように両手を合わせ擦りながら料理を見つめている。三つの皿はラップで包まれていて、三つともチンジャオロースと四つの餃子が入っている。

「あと、お米と箸だよね。手伝うよ」

 夢咲さんは既にドアの方に向かっている。

「おい夢咲、それは俺の仕事だ。お前は小僧にここでの飯の食べ方を教えてやってくれ」

 背の高い男は皿を床に置き、すぐに廊下に出ていった。夢咲さんはすれ違うときに、男の脇を肘でついていた。

「今の人が高野さん?」

 背の高い男の姿が見えなくなってから、控えめな声で夢咲さんに聞くと、こちらの目を覗き込むようにしてから頷いた。

「そうだよ。圭って呼んであげてね。文字数が少ない方が効率がいいって、この前言ってたから」

 俺の質問に答えながらも、皿に巻かれたラップを外し綺麗に丸めている。餃子とチンジャオロースの香りが鼻腔をついた。腹が空いていることに驚く。いつもは十二時ごろまで空腹なんか感じないからだ。そういえば、と時間を確認しようと思うが、時計はどこにもついていない。

 その後も周りを見ていると、夢咲さんが腕時計をつけているのに気がついた。時間を見せてもらおうとしたが、夢咲さんが先に言う。

「えっとね、いまは九時半だよ」

 どうやら、視線でバレていたらしい。

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