4日目

 いつも通り、電車に乗り通学する。

 今日もまた雨が降っていた。雨だと、いつもより少しだけ車内が空くのがよいが、総合点はマイナスだ。

 周りをちらりとみる。話したことはないが顔を知っている人が何人かいた。

 もし、この中の誰かがいなくなったとしても、悲しくもないし、気がつくことすらないかもしれない人たちだ。

 そんなことを考えていると、電車が駅に止まった。ゴシックロリータの服を着た女がいつもと同じように降りる。

 俺の前の席が空いた。座るつもりはなく、周りの人も座らなかったので。曰く付きのような空席がそこにできる。

 そしてまた人が乗ってくる。

 その中に、目立つ男がいた。年は四十くらいだろうか。胴の部分が異様に長いティーシャツを着ている。色は白で少し暑そうな厚めの生地だ。ズボンは白のジーパン。靴も白だ。足の先が丸い革靴だった。

 顎が四角いラインで、頭は丸坊主。肌の色も服装と同じく白い。真っ白なその姿は、一度見たらなかなか忘れないだろう。労働がない国に住んでいるような雰囲気を感じた。

「失礼」

 真っ白な男は、曰く付きのようになった席に座ろうとしている。俺はなにも言わずに少しだけ頭をさげて避けると、男はにっこりと笑って座った。

 そして、長いシャツの裏側から一冊の本を取り、開いて視線を落とした。栞は挟んでいなかった。

「君の」

 真っ白な男が口を開いた。視線は本に向けられているが、誰に話しているのか。

「君の目が気になるんだよ」

 男はゆっくりと顔を上げ、俺を見た。男は、新しいおもちゃを見つけた幼稚園児のように好奇心で満たされている。

 本を閉じて立ち上がり、隣り合わせに立ってくる。目の前には、曰く付きの空席ができる。

「この袋の中、なにが入ってると思う?」

 囁き声で俺に語りかけながら、白いシャツの中からまたなにかを取り出した。それは昨日見たばかりの、青色のタオル生地の袋だった。

 袋を渡される。いやらしい重さだ。俺は男に腕を軽く引かれた。

「悪いようにはしないよ」

 そしてちょうど電車が止まり、ドアが開く。ここで一緒に降りろということだろう。いつも異様に乗り降りが少ない駅だ。

 逆らわずに降りた。男が拳銃を持っているという事態に頭が混乱してしまった。男が笑っている。俺が混乱する様子を見て楽しんでいるのだろう。

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