一人で部屋にいる時には、こうして人形と話しているフリをする。心の中の独り言を代弁させているわけだ。

 時に、俺が想像していないことを話すことがあった。それは決まって、明け方まで眠れない日だとか、疲れが溜まっている時に起こる。

 半分、夢を見ている状態なんだろう。そして、誰も居ない部屋の中いっぱいに、俺の夢が侵食している。

 なんて風に考えている。

「ほら。わたしも、頭を撃ち抜かれたじゃない」

 青い瞳の人形が虚空を見つめ言った。そうだ。俺が撃ち抜いたのだ。何故か思い出したあの夏の記憶は、俺が眉間を撃ち抜かれた時に連想したのだろう。

「眉間を撃ち抜かれるのって、気持ちが悪いわよね。貴方もそうだったでしょう」

 あの記憶が現実だったのか分からない。そもそも、頭を撃ち抜かれたら即死するんじゃないだろうか。運が良ければ意識が残ることもあるんだろうか。どちらにしても、眉間を撃ち抜かれるのは気持ちが悪かった。

「あなたの頭蓋骨に斜めに入った拳銃の弾は、頭蓋骨の内側をぐるりと回って動きを止めたんだわ。脳の外側には生命の維持に関わる部分はないから、そのおかげでわずかな活動の維持ができたんでしょうね」

 俺の知らない知識を話している。と思ったが、昔にそんな内容のニュースを見たような気もする。

 その朧げな記憶を思い出しているのかもしれない。

「そう。一度見たものって、なかなか忘れないものなの。ただ、思い出せるかは別だけども」

「思い出せないなら意味ないだろ」

 いつの間にか三人の人形たちが、目の前に居た。

「そうかしら」

「なんだか貴方、疲れてるわ」

「かかか」

 三人の人形が、俺を置いてけぼりにしながら、俺のことを話している。

「違うわ。頭を撃ち抜かれたから、おかしくなっちゃったんだわ」

「それは間違ってる。あんなのはただの妄想よ」

「ゔゔゔ」

 瞳も髪もない人形は、擦れたような、ぶつけたような、振動しているような音で会話に参加している。

「妄想なはずないじゃない! ねえ!」

「違う違うの! もはや妄想みたいなものでしょ。それよりも、私はあれを見たせいだって思うの」

「ごっごっごっ」

 三人が、顔を寄せ集めてコソコソとなにかを話し出した。俺にはなにも聞こえない。

「あれって、なんのこと」

 質問してみると、三つの顔が一斉に俺を見て、そのまま、棚の方に後退りをした。

 細い足で歩いている。重量を感じさせない。浮遊する体に、足の動きを合わせているように見える。関節の動きはぎこちがない。

 元々いた所に戻ると、白い髪と青い瞳の人形が、眠る時のジェスチャーをした。

「いい子はもう寝る時間よ」

 懐かしい歌が聞こえてくる。多分、三人が歌っているのだろう。一人は喋れないから二人かもしれない。

 その歌を聴いていると、どうしても眠ってしまった。

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