8
一人で部屋にいる時には、こうして人形と話しているフリをする。心の中の独り言を代弁させているわけだ。
時に、俺が想像していないことを話すことがあった。それは決まって、明け方まで眠れない日だとか、疲れが溜まっている時に起こる。
半分、夢を見ている状態なんだろう。そして、誰も居ない部屋の中いっぱいに、俺の夢が侵食している。
なんて風に考えている。
「ほら。わたしも、頭を撃ち抜かれたじゃない」
青い瞳の人形が虚空を見つめ言った。そうだ。俺が撃ち抜いたのだ。何故か思い出したあの夏の記憶は、俺が眉間を撃ち抜かれた時に連想したのだろう。
「眉間を撃ち抜かれるのって、気持ちが悪いわよね。貴方もそうだったでしょう」
あの記憶が現実だったのか分からない。そもそも、頭を撃ち抜かれたら即死するんじゃないだろうか。運が良ければ意識が残ることもあるんだろうか。どちらにしても、眉間を撃ち抜かれるのは気持ちが悪かった。
「あなたの頭蓋骨に斜めに入った拳銃の弾は、頭蓋骨の内側をぐるりと回って動きを止めたんだわ。脳の外側には生命の維持に関わる部分はないから、そのおかげでわずかな活動の維持ができたんでしょうね」
俺の知らない知識を話している。と思ったが、昔にそんな内容のニュースを見たような気もする。
その朧げな記憶を思い出しているのかもしれない。
「そう。一度見たものって、なかなか忘れないものなの。ただ、思い出せるかは別だけども」
「思い出せないなら意味ないだろ」
いつの間にか三人の人形たちが、目の前に居た。
「そうかしら」
「なんだか貴方、疲れてるわ」
「かかか」
三人の人形が、俺を置いてけぼりにしながら、俺のことを話している。
「違うわ。頭を撃ち抜かれたから、おかしくなっちゃったんだわ」
「それは間違ってる。あんなのはただの妄想よ」
「ゔゔゔ」
瞳も髪もない人形は、擦れたような、ぶつけたような、振動しているような音で会話に参加している。
「妄想なはずないじゃない! ねえ!」
「違う違うの! もはや妄想みたいなものでしょ。それよりも、私はあれを見たせいだって思うの」
「ごっごっごっ」
三人が、顔を寄せ集めてコソコソとなにかを話し出した。俺にはなにも聞こえない。
「あれって、なんのこと」
質問してみると、三つの顔が一斉に俺を見て、そのまま、棚の方に後退りをした。
細い足で歩いている。重量を感じさせない。浮遊する体に、足の動きを合わせているように見える。関節の動きはぎこちがない。
元々いた所に戻ると、白い髪と青い瞳の人形が、眠る時のジェスチャーをした。
「いい子はもう寝る時間よ」
懐かしい歌が聞こえてくる。多分、三人が歌っているのだろう。一人は喋れないから二人かもしれない。
その歌を聴いていると、どうしても眠ってしまった。
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