人形の頭に空いた小さな穴に、水で柔らかくした粘土を押し込む。表面を処理しながら乾かしてやれば、修復は完了だ。

「コツは、元通りになるとは思わないこと。ほとんど元通り、くらいを目指すんだ」

 それは、壊れた人形を修理してくれた細身とは程遠い店員の言葉だった。なぜ、そんなことを思い出したのかは分からなかった。

 頭がひどく熱い。触ってみると、ぬるぬるとしている。少し手を止めると糊のように固まりそうな予感がした。あれ、ここじゃないなと思い、痛みの中心に手を近づける。それは眉間の少し上のあたりらしかった。

 堪えきれない吐き気に襲われた。しかし吐くことは出来ない。おぞましい寒気が襲ってくる。もう動きたくないのに、両手は勝手に痛みの中心を求めていた。ほとんど痙攣しながら、右手が痛みの中心地にたどり着く。

 そこには穴が空いていた。傷の深さを探ろと指を差し込むと、難なく奥まで届いてしまいそうで、第一関節くらいでやめた。吐き気が強くなってくる。誰かが俺を呼ぶ声が聞こえてきたが、もう、なにも答えることはできなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る