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雨が降ると気分が良くない。気圧なんかも関係してるのだろうが、なによりも雨に濡れるのが一番こたえる。
雨水が靴に染み込み靴下が濡れ、踏み込むたびにキシキシと音を立てる。とても不快だ。それに、どんなに丁寧に傘をさしても、吹きつけるように降る雨が服を濡らす。
もちろん、そんな雨がもたらす憂鬱を感じるのは生徒の俺たちだけじゃない。当然のように、先生も同じような不満を雨に抱いているわけだ。
つまり、その日の授業の全ては雨の憂鬱のせいでなんとなく進み、なんとなく終わりを迎えた。
「雨、まだ止まないんだね」
紫乃さんが話しかけてくる。帰りのホームルームが終わってしばらく経っているが、雨宿りのために残っている生徒が多い。
「こんなに降り続けるのは珍しいよね」
「うん。こんなに雨が降り続けたのって、あんま覚えてないな」
本当に、空の水が足りなくなるんじゃないかと心配になる程、雨は降り続いていた。
「私はさ、お父さんの迎えを待ってるんだけど、曽根君はどうするの? このまま降り続けるならいつ帰っても同じだと思うんだけど」
「うーん、そうなんだけど」
俺が帰れないのには別の理由があった。わずかに開いた教室のドアを見やる。隙間からは、俺たち、いや、正確には紫乃さんの様子を伺う高耶の影が見え隠れしている。
「そうなんだけど、どうしたの?」
「もうちょい待ってみようかな」
「粘るねー」
紫乃さんは楽しそうに言った。そして、両手を前に伸ばし、少しだけ控えめな伸びをした。その姿は、昼寝が終わった猫のように平和を象徴するものだった。
雨の音が絶えず鳴り響いている。教室の人数はずいぶんと減った。皆、この雨は止まないと諦め帰ったのだろう。
たしかに止みそうもない。見える範囲全てが黒い雲に覆われていた。むしろ、これからさらに強く降りそうなほどだ。
本当ならとっくに家に帰っていたはずなのに、俺は紫乃さんと喋りながら暇を潰している。その原因である男は、未だに第一関節ほどしか開いてないドアの向こうで、しきりに動く影となっていた。
「どうしたの?」
紫乃さんが俺の視線に気がついたのか、ドアの方を指差して俺に聞いてくる。
「ごめん、ちょっとトイレ行ってくる」
「ええ? そうなんだ。行ってらっしゃい」
紫乃さんは、急に立ち上がった俺を不思議そうに見つめていた。
「曽根君? あっちのドアの方が近いよ?」
逆のドアを案内してくれるが、聞こえないふりをして、教室を出る。
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