2
「星を一緒に捕まえようぜ」
とても人懐っこい笑顔で、人になれた野鳥のように近づいてきた。俺より背の低いその男は、じっと、目を合わせてくる。首を窮屈なほどに曲げながら。
前髪が目に掛かるほど長いが、耳まわりはスッキリとしている。見ただけじゃわかりずらいが、内側を刈り上げてるんだろう。
制服はあちこちに泥がついていて、でもその割に袖や裾がまだ固そうだ。きっと、俺と同じ新しい制服をもう汚しているんだろう。
「星って、こんな昼間に?」
適当にあしらうことも出来たはずだが、変に魅力のあるその言葉が気になってしまった。星を捕まえるって、子供みたいな言葉。
「え? お前も星を捕まえに来たんじゃないの?」
男の口と目が大きく開いた。毎日取り外して洗っているんじゃないかと思うくらい綺麗は瞳は、明るいブラウンをしている。
男の動きや表情を見ていると、いつの間にか気を許してしまうなにかがあった。どこか懐かしいような感じがする。
「いや、そもそも君は誰だよ」
俺はそのなにかを警戒した。
「そっか、忘れてた。人と人が出会うときにはまず名前を名乗るもんだよな。俺は青柳高耶」
恥ずかしそうに笑いながら男は言う。あおやぎたかや。出席番号は前から数えた方が早そうだ。
「俺は曽根咲太」
名乗ると、高耶はすぐに漢字も聞いてきた。カバンから『入学おめでとう』と印刷されたプリントを取り出し、裏側に名前を書いて渡す。
高耶はじっくりとその文字を見てから、
「うん、しっくり来た。咲太って名前、似合ってるな」
と笑い、高耶も名前を書き始めた。いちいち測ってるのかと思うほど丁寧な線で書かれた文字だ。
そうして、俺たちは自己紹介を終えたわけだが、なぜか沈黙してしまう。
「ねえ。高耶。用事があるのはそっちじゃなかったっけ」
飴玉みたいな眼球を商品棚に戻しながら、しょうがなく話を切り出す。
「ああ、そうだった。ちゃんと自己紹介なんてしたから、それだけで満足してたよ」
「さっきは星がどうとか言ってたみたいだけど」
「そうなんだよ。てっきり咲太も星を捕まえにきたと思ったんだけどな。でもさ、そうじゃないなら、なんでこんなところにある人形屋さんにいるんだ?」
「あはは。それね」
それは自分でも驚くくらい歯切れの悪い返答だった。
別に隠すつもりはないし、恥ずかしくもないけど、なぜか人形が趣味だといえなかった。
それから答えに窮していると、高耶の方が我慢できなくなったようだ。
「ま、そんなこと、どうでもいいよな。とにかくさ、この後暇なら、一緒に星を捕まえに行こう」
そうだな。と、簡単に言いたくはない。しかし、すでに俺は高耶がこの先なにをしでかすのかに興味を持ってしまっていた。
高耶に名前を聞いた時から、俺の気持ちは決まっていたように思う。
「分かった。一応行ってみるお。たださ、少し説明して欲しいな。俺は昼間の星についてなにも知らないんだ」
「え、俺だって知らないよ」
知らないもんを捕まえられるもんか。高耶がなにを考えてるのか分からないままだが、腕を引かれ店を出た。お店のおじさんは、読んでいた本を棚に戻し、新しい本を出していた。
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